さて、歳末とありまして、
記事がたいへん遅れましたことをお詫び申し上げます。
今年は私も何かと忙しく、
後半は特に予定通りに更新できない日々が続きました。
掲示板の方に何か書き残していって下さる方々への返信も
滞ってしまっていたりと、非常に反省が多い年でもありました。

もちろん時間を見繕って、
それらに早々にアクションっを起こすこともできたはずです。
それでも、そういう気概と言うか、
エネルギーが湧いてこなかった――というのが実情です。
NARUTO-ナルト-』という作品に
魅力がなくなったわけではありません。
【ナルト世界の謎を紐解く】を書き続けてきて5年半。
多少のスランプというものでしょうか。
一方『NARUTO-ナルト-』は12年続いております。
岸本先生に敬意を払いつつ、
もっと精進せねばなと思う今日この頃です。

未だ拙い記事を読み続けて下さる方々、
このブログを陰日向なく応援してくれている皆々様方に
厚く御礼を申し上げ、感謝するとともに、
来年も精一杯書き続けていこうと思います。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

良いお年を!

614『お前に』

1.お前に(1)

「シカマル…」

先ほどまでの勢いは見る影もなく、
不安そうに漏らすチョウジ。
そして涙が止まらないといったようないの。

「今は戦争中だ。
 余計な言葉はいらねェ。
 …いのにも、だ。
 オヤジの言った通りにやるだけだ。」

悲しみを押し殺して、
シカマルは前を見据えます。
残された想いを果たさなければならない――
その責務、責任感がなければ、
シカマルも悲しみをこらえる事なんてできないでしょう。

「これって…
 どういうことだってばよ!?」

言葉を詰まらせるナルト。
自分が信じた道。
決して仲間を死なせないと誓ったのに、
それは脆くも崩れていきます。

「お前が作戦の鍵ってことだ。」

駆けつけたネジが言います。

「違げーよ!
 シカクといのいちのオッチャンたちは、
 どうなったって聞いてんだ。」

ナルトも分かってはいますが、
認めたくない気持ちでいっぱいです。
その隙をついて迫りくる十尾の尾。
ネジとヒアシが《八卦掌回天》によって、
その攻撃を見事いなしきるのです。

「ここは戦場で今は戦争中だ。
 …人も死ぬ!!
 だがこの戦いに敗れれば、
 全ての人が死ぬことになる!!」

流石日向だと称賛の声が上がる中、
ヒアシはナルトに伝えます。

「もちろん…
 分かってる!」

ナルトも無論現を抜かして、
淡い理想にすがっているだけではありません。
そのための強大な力も身につけたし、
九尾の協力を得ることもできた。
それでも握りしめた拳の中から、
漏れ落ちていく水のように、
どうすることもできない状況が彼を責めたてるのです。

「シカマルといのの父親達も、
 子より先に逝けたことは忍として本望だと言うだろう。
 オレの父がそうだったように。」

とネジ。
火の意志を後の世代に託して、
忍として自らの命を全うする――
そうやって連綿とたくされた"つながり"が、
ネジには見えています。

「作戦にはナルト…
 お前の力が必要になってくる。
 作戦遂行までなんとしても――」

「ナルトくんを守り抜く!!」

ネジの言葉を続けるように、
ヒナタも駆けつけ、構えをとります。

「心せよ!
 日向は木ノ葉にて最強!」

日向の誇りと自負をかけて、
いま目の前の脅威に立ち向かっていきます。

2.お前に(2)

「…などと奴らが口上をのたまう前に、
 攻撃をしてやろうと思ったが……
 十尾をうまくコントロールできんな…」

とマダラとはいえ、
十尾をうまいように制御できずにいるようです。

「次の変化まではこれでいけるだろうが……、
 次こそは…人柱力にならねば、
 十尾をコントロールできん様だ。」

どうやらまだ十尾は変化を完成していない模様。
最終形態ではない――
そしていまの形態以上に変化したとき、
柱間の細胞を接着させるような
間に合わせの方法では追いつかないと感じた模様。

「オレが十尾の人柱力になるには…、
 オレ自身が穢土転生の死体ではなく、
 生命体になる必要があるのだがな…」

と漏らすマダラ。

「道連れがモットーの穢土転生のアンタが、
 この足下の連合に自爆覚悟で尾獣玉を撃ち込まないのは…、
 そうすることでオレまで巻き込み死んでしまうからだ。」

自らをも巻き込むような超強大な攻撃を使わずに、
躊躇らうかのようなマダラの姿勢をオビトは見抜いています。

「そうなっては困る理由……。
 人柱力になるために、
 アンタが本当の意味で生き返るには、
 オレがアンタに輪廻天生の術を、
 命を捨ててするしかないからな。
 …つまり今のアンタは、
 オレの言うことを聞かざるをえない微妙な立場にある。
 忘れるな。」

と豪語するオビト。
マダラを穢土転生されてしまうという不測の事態を、
オビトは上手に利用しています。
今まで不測の事態が何回も怒りながら、
「計画通り」としてきたのは、
状況に合わせて何手も計画を有効に進める術を考えていたから、
と思わせる台詞です。

「あのジャリが、
 ずいぶんとしたたかになったものだな……」

とマダラ。

「昔から…
 別にアンタを仲間だと思ったことはない。」

マダラの忠実な犬ではありません。
目的を一緒にしながら、
オビトとマダラは違う未来を描いています。

「フッ…。それでいい…。
 なら…次にどうするかお前が決めろ。」

とマダラ。本物の強者のゆとりというか、
マダラはオビトがどうするのか、
様子を見るように促します。

「続きだ。
 絶望を教えてやるのさ……
 丁寧にな。」

とオビト。
マダラは目論み通りとにやけます。
十尾の手のような尾の十本から、
無数の巨大な木の槍が飛んできます。
《木遁・挿し木の術》です。

「すごい数だ!!
 とにかくかわせ!!」

雨のようにその巨大な木の槍は降り注ぎ、
多くの忍の命を奪います。

「(九尾の力が戻るまで、
  ワシの山土の術なら少しは止められるハズ…!!
  しかし…チャクラを練る時間がかかる!
  それまで…!)」

《土遁・山土の術》ならば、
ドーム状の隆起した土壁が、
皆をこの槍の雨から守ることも
十尾の攻撃を食い止めることも可能でしょう。
黄ツチはその少しの時間をどうにかつくれないか、
祈るような気持ちで、チャクラを練り始めます。

「ありがとネジ!!
 仙人モードになれたってばよ!!」

ナルトに降り注ぐ槍の雨をいなし続けるネジ。
その背後でナルトは仙人モードへ変化します。
《風遁・螺旋手裏剣》を打ち上げ、
槍の雨をしばらくは粉みじんに帰します。
その隙にヒアシが《八卦空壁掌》による遠当てによって、
十尾の尾、木槍の雨の出所を弾き飛ばします。
いったんは止んだ槍の雨。
しかし指先からスコールのような局所集中型の
槍の雨を放ってきました。

「しまった!!
 ピンポイントか!?
 数が多すぎる!
 ヒナタとネジの空掌では…!!」

影分身も螺旋手裏剣を放ったことによる反動で、
ナルト本体が死に体となっています。
絶体絶命のピンチです。
ナルトを守るために、
自らの身を挺して、槍の雨から庇おうとします。

3.お前に(3)

飛び散る血飛沫。
しかしそれはヒナタのものではありませんでした。
そのヒナタを庇って、ネジが槍に貫かれるのです。

「医療班…!!」

ナルトの瞳孔が大きく開きます。

「イヤ……。
 もう…オレは……」

ようやく《土遁・山土の術》が発動し、
十尾の攻撃が一瞬止みます。

「ネジ…」

「兄さん」

ネジの傍に駆け寄り、
崩れる身体を二人で支えます。

「…ナルト…ヒナタ様は…
 お前の為なら…死ぬ…。
 だから…お前の命は一つじゃ…ない…。
 どうやら…オレの命も…
 その一つに…入ってた…ようだ。」

血反吐を吐きながら、微笑むネジ。
いつもの厳格さを感じさせない、
いや自らを強く律していた何かから、
解放されたかのような笑顔です。

「何で…お前がこんなとこで…!!
 お前は日向を…」

日向の運命に立ち向かい、
そしてネジこそがその運命を変える者だと、
ナルトは信じて疑いませんでした。

「(かつてお前がオレを運命の呪縛から解放してくれた言葉…。)」

ネジは中忍試験の本試験、
ナルトと戦ったときの出来事を思い起こします。

「一ついいか?
 …どうしてそこまで自分の運命に逆らおうとする!?」
「落ちこぼれだと、言われたからだ…!」

定められた運命――
孤独な境遇――
それらを撥ね退けるために、
努力をしてきた――
落ちこぼれと言われようと、
どんなに才能がなかろうと、
変えようと願って、
ひたすらに頑張ってきた――
そのナルトの生き様に、
天才であるネジが負けたのです。

「…どうしてオレにそこまで…!?
 …命をかけてまでオレに…」

と涙ぐむナルトを見て、
当然だと言わんばかりの笑顔でネジは言います。

「お前に…天才だと…言われたからだ…。」

"分家"である父が双子の兄である"宗家"のヒアシを守ったように、
"分家"のネジが"宗家"のヒナタを守る――
身を挺して大事なものを守る。
運命に見えて、それは自分の選択。

「父様…やっと分かったよ…。
 仲間を守るために、
 死を選んだ父様の自由の気持ちが…」

死という絶望的な状況にも関わらず、
ネジは非常に満たされています。
本当に大切なモノを守り抜いたという思いと、
そして自分の気持ちを託せるというつながり――
"忍の生き様とは死に様"
自来也が言った意味の根源はここにあるのでしょう。
涙があふれ出すヒナタ。
本当ならば、悲しみの禍根を残さないためにも、
彼らを守りつつ生き延びなければなりませんでしたが、
現実は時としてそれを許しません。
ただ無情に流れ行く一瞬間の時が、
大きな大きな傷を彼らに与えます。

「仲間は殺させないんじゃなかったのか?
 ナルト。」

意地悪くナルトに問いかけるオビト。
「さぁ、絶望しろ」と言わんばかりです。