遅れ遅れですが、よろしくお願いします。

629『風穴』

1.風穴(1)

「さすがに少しは掃除できたろう…」

とマダラ。
あらゆる自然災害が荒れ狂うように
ナルト達を襲います。
自らの力を誇示するかのように、
十尾はひたすらあたりを破壊し尽すのです。

「また…ナルトが守ってくれたんだ…」

チョウジ。

「…ナルトくん…!」

そしてヒナタ。
いついかなるときも、
自分たちを守り抜こうとするナルトの意志を、
チャクラの衣から感じます。

「…きかねーな…」

見下すかのようなマダラに、
ナルトは言います。
仲間がいればこそ、
何度でも立ち上がれる――
そしてその想いはいまや
尾獣たちまでをも取り込んでいます。
ナルトに六道仙人を見たのか、
十尾が突如威嚇するように咆哮をあげます。

「強がってもここまでのようだな。
 次の楽しみもできたことだ…。
 ご退場願おうか…、そろそろ」

とは言ってもナルトのダメージもかなりのもの。
忍たちを包み込むチャクラの衣も、
維持することができません。
それをマダラは見透かしていました。

「皆さん!!
 力を合わせていきますよ!!」

ヒナタの掛け声。
負けるわけにはいかない――
忍たち一人一人が立ち上がります。

「アンタは回復っ!!」

サクラがすっとナルトに歩み寄り、
手をかざします。

「(…皆ァ…)」

一緒に自分と歩んでくれる仲間の存在を
噛みしめるように実感するナルト。
絶対に斃れるわけにはいきません。

2.風穴(2)

亜空間に飛んで来たカカシとオビト。
転移と同時に《雷切》でオビトを急襲しますが、
その手はオビトを傷付けることを躊躇います。

「フッ…
 やはりお前の心には迷いがある。
 今までにもオレを殺ろうと思えば殺れたハズだ。」

とオビト。
カカシの中にある甘さを咎めます。

「あのお前が戦争中に情けをかけるとはな…。」

幼い頃、冷淡なまでに任務を貫徹することに
何の躊躇いも見せなかった――
そのカカシを知っているからこそ、
オビトにはいまのカカシが憐れにすら思えるのでしょうか。

「…後ろめたさか……?
 リンを守れなかったと…。
 オレとの約束を守らなかった事で気がとがめたか…?」

カカシの心の奥に潜む、
触れられたくない傷を躙るような言葉。

「オレを改心でもさせるつもりか?」

とオビト。

「…オビト…。もう止めにしてくれないか。
 …お前のかつての夢は火影になることだった…。
 ナルトはな…、今でもそうなんだよ。」

カカシは言います。

「ナルトの言葉はかつてのお前の言葉と同じだ。
 お前は知らず知らずのうちにかつての自分と
 今のナルトを重ね…、
 …ナルトの言葉をかつての己の言葉として、
 聞きたがってる。
 お前自身、かつての自分に否定されたいと
 望んでるんじゃないのか?」

ナルトに対する回りくどいような戦い方に
カカシはオビトの心の奥を見ようとしていました。
本当はこんなことをやめたいんじゃないか――
彼が心優しかった日々を、
あのときの仲間想いだったときのオビトを
知っているからこそ、
目の前のオビトを受け入れられず、
かつてのオビトを信じたくなるのです。

「ナルトの気持ちが分からないお前じゃないハズだ。
 お前はまだ戻れる…。
 昔の自分をもう一度…」

オビトの中にいる本当のオビトに語りかけるように、
カカシは言います。

「ククク…、アハハハ!!
 ナルトの心の内が分かっているからこそ…、
 その全てを聞いて…、
 その全てを否定してやりたくてね。」

しかしそんなカカシを冷やかに笑って見せるオビト。
仲間だとか友だとか、
もはやそんなものにオビトはなんの未練はないのです。
ただ自分が崇拝する事柄を達成するのみ。
しかし、仲間がいるからこそ立ち上がれる――
そう思っていたかつてのバカな自分を否定したい。
だからこそ、かつての自分と重なるナルトの言葉を
全否定したい想いに駆られるのでしょうか。

「それともう一つ言っておくが…、
 お前がオレに対して後ろめたく思う事自体、
 おこがましいのさ。
 オレが戦争を起こした理由が、
 お前とリンの事だけだと思っているなら、
 見当違いもいいところだ。」

オビトがこの戦争を起こした背景は、
そんなちっぽけな理由ではありません。

「知っているのさ……。全て。
 リンが自らお前の雷切に突っ込み、
 己で死を選んだことも。」

現世<うつしよ>というこの地獄に
絶望したからです。

「あの時、リンは霧隠れにさらわれ、
 三尾の人柱力にされていた。
 お前はリンを奪還することに成功し、
 連れ出したが、それがそもそも
 奴ら霧隠れの作戦だった。
 お前たちを木ノ葉へと追い立てる為に
 追いかけるフリまでしてな。
 リンが木ノ葉に戻った時点で
 リンの中の三尾を暴走させ、
 木ノ葉を襲わせるつもりでいたのだ。
 リンはそれが分かっていて、
 追いかけるフリをしてきた敵に向けた
 お前の雷切を利用し、自害した…。
 愛する人の手によって死ぬことを決めたのだ。
 木ノ葉を守るために。」

今度は霧隠れに拉致されたリン。
強制的に三尾の不安定な人柱力にさせられたのです。
いろいろな複雑な思いがあったことでしょう。
リンも志半ばにして斃れたオビトのこともあって、
もっとカカシとともに生きたかったと思います。
でも絶対に木ノ葉の里を壊すようなマネはしたくなかった。
一忍としての意識に駆られたというよりは、
愛着や愛郷の念に近かったかもしれません。
大切な思い出を育んだ場所だったからかもしれません。
とにかく彼女は最期にカカシの雷切に突っ込んで
自害することを選択しました。
少し本題から逸れますが、
オビトが霧隠れの内情に詳しいのは、
四代目水影を傀儡にしていたことからでしょう。

「カカシ。すぐに私を殺して!
 私は利用されてる…!
 このままだと木ノ葉を襲うかもしれないの!」

霧隠れからリンを奪還したあの日。
カカシは奪還した彼女がどのような状況にあるか、
そしてこれからどのような事態が引き起こされるか、
百も承知だったと思います。
それでもあえてオビトとの約束を優先した。

「オビトにお前を守ると約束した!
 そんなことは絶対にできない!
 何か別の方法が…。」

かつての自分からは想像もできない言葉。
それはカカシにとって、
単に友達との約束を超えた
守りぬきたいと思う"本当に大切なもの"だったからかもしれません。
カカシはもちろん別の方法を必死で考えた――
方法はいくらかあったでしょうが、
切迫した状況と予断を許さないかのような焦燥感が、
リン自身を追い詰め、自害へと向かわせてしまうのです。

「たとえお前がどう言おうと、
 オレにとってリンを守れなかったお前は偽物だ。
 リンはオレの中で死ぬべき人ではない…。
 よって死んだリンは偽物でしかない。
 リンは生きていてこそリンなのだ。
 こんな状況ばかりを作ってきた忍のシステム…
 里…、そしてその忍達…、
 オレが本当に絶望したのはこの世界そのもの…
 この偽物の世界にだ。」

認めたくない事実――
リンはいつも微笑んでいるはずなのに――
彼女の微笑みを永久に奪ったこの忍の世界こそ、
くだらないことばかりの地獄だと、
オビトは思うようになってしまったのです。
現実から目を背けてしまったのです。

「…ナルトが言ったハズだ。
 心に本物の仲間が居ないのが、
 一番痛いんだって…。
 オレはあの子にかつてのお前の言葉を
 そのまま伝えた…。かつてのお前なら、
 ナルトと同じことを感じ言うハズだ…。
 そして今でもそうだとオレは…」

カカシはオビト以上に心に傷を負ったはずです。
でも、決して目の前の現実から目を背けてはいない。
だからこそ、オビトの中の本当のオビトを信じるのです。

「見てみろ!! オレの心には何もありゃしない!!
 痛みさえ感じやしない!!
 後ろめたく思わなくていい、カカシ。
 この風穴はこの地獄の世界に空けられたものだ!!」

ただただ悲しみと絶望に打ちひしがれ、
身体に空けてみせた穴のように、
オビトにはもう何かを"感じようとする"心は
微塵もありません。