613『頭』

1.頭

「(作戦通りィ!!
  十尾の頭になってるこいつらを倒ーす!!)」

《風遁・螺旋手裏剣》をオビトやマダラめがけて投げ放つナルト。

「十尾ではなく今度こそオレ達が狙いか…。
 まあ…敵の頭を叩くのは、基本だが…」

マダラもその見え見えの狙いは理解しています。
どちらの技術が、力が勝るか劣るか――
サクラの医療忍術で持続性、威力を高めたダルイの《嵐遁・励挫鎖荷素》、
ガイ、リーの《八門遁甲・第五杜門》を開放した攻撃。
息を吐かせぬ猛攻――
十尾を押さえ込んだと考えた連合軍は、
一気呵成で攻め続けます。
ですが、十尾はそれしきでは止まりません。
異様な変貌を遂げ、
目、耳、口が独立するように大きくなります。

「見ろ。感知水球が……
 これじゃ、まるで一つの小さな星だ…
 こんなのは…ありえない……」

巨大すぎるチャクラ。
その規模は星に匹敵するほど。
本部も焦燥感を拭えません。

「十尾を我々が止めたんじゃなく、
 アレが変化する為に、
 力を溜めて動かなくなっただけだったのか?」

シカクも十尾のメタモルフォーゼは予想していなかったでしょう。
しかし、戦場では事前に予測した事態で回らないことは常。
この状況で最善の策を練りださないといけません。

「ビビってるヒマがあるならチャクラを練っておけ!
 本部からの作戦を受けてすぐ動ける様に準備しろ!!」

と現場から黄ツチ。
刻一刻悪化していく事態。
甚大な被害。医療班の救助も間に合いません。

「十尾の動きを止めるのは絶対だ…!
 でなければソレを操る頭を狙うことなどできない…
 だがどうやって止める…?
 止めるのが得意なオレ達一族の術も…、
 アレが相手ではチャクラを消費する割に効果はほぼ…。
 …!」

司令部の急務。それは十尾を止める効果的な策を練り伝令すること。
十尾を止めない事には、事態を好転させるなどできません。
シカクは何やら思いつきます。

「カカシ。オレだ。
 さっき聞いた一連の戦場の情報で確かめたいことがある…。」

いのいちを使ってカカシに直接指令を送ります。

「そろそろ十尾のコントロールが難しくなってくる…。
 柱間細胞を使って繋がりを強くしておけ。」

とマダラ。
オビトとともに十尾の制御を行っているのでしょう。

「…この状態の十尾の力か…
 確かめてみたくはないか…?
 まずは…」

第二形態へ変化した十尾。
その未曾有の力を試したいかのようなマダラ。

「ああ…奴らに教えてやるのさ…。
 絶望をな。」

尾獣玉。
しかし、それは八尾や九尾のもので、
人間の小ささを感じるようなレベルに比して、
それよりもまた遥かに規模が違うもの――です。

「だめだ。神威じゃ間に合わない!
 土遁で足場を上へ!!」

そして十尾が尾獣玉を形成するそれは、
八尾や九尾なんか比にならないほど速いもの。
《神威》で空間転移させるほどの暇もありません。
黄ツチの土遁で十尾の足場を隆起させ、
とりあえずの狙いを外しますが、
大きな轟音とともに、遥か遠くの大地が爆ぜます。

「あんな距離まで…!!
 …前の尾獣達と比べ物にならない…
 なんて威力だ…!!」

閃光が辺り一帯を包み続けますが、
その光の柱は山々よりも遥かに高く聳え立ちます。

「この程度でフラつくとは…
 コントロールが完全ではないな…
 次だ。」

マダラやオビトも、
その衝撃の反動に思わず姿勢を崩してしまうほどです。
二発目――
また遠くの地域にそれが被弾します。
しかし、そこは人里でした。

「何てことだ…
 あんな遠くの街が一瞬で…!」

天から降り注ぐものが世界を滅ぼす――
とある作品から借りてきた言葉ですが、
その言葉がぴたりと当てはまる状況です。
星の生命体をすべて根絶しかねない、
その威力は凄絶です。

「さっきからおかしいぞ!
 遠くばかりを狙っているようだ!」

戦場を感知しながら、
青がもらします。

「全ての街…、人が射程内ってことだ…。」

シカクはマダラやオビトの狙いに気づいています。

「なら避難した大名達や里を守ってる皆…
 それに国の人々も安全じゃないってことか!?」

といのいち。

「戦場では忍達がその皆を守る為に戦っている…
 それを無くそうという訳だ。」

絶望を与えてやるといったオビト。
守ろうとする本当に大切なものを、
圧倒的な力で奪う事で、
絶望を、無力感を、知らしめるつもりなのです。

「こ…これは…」

いつになく、ただ事じゃない様子の青。

「……冷静に聞いてくれ…」

と青が言葉を詰まらせます。

「ここか…」

全てを察したように頷くシカク。
狙いは忍連合軍本部。
とっくにマダラやオビトに本部の場所は割れていたのです。

「やるべきことを最後までやるだけだ。
 十尾を止める策がある…。
 最後の仕事だ。戦場の皆と繋げてくれ。」

避難している時間など無い。
この一瞬に、シカクは、自分の責務を果たすべく、
いのいちを通じて忍の皆へ、
本当に最後の起死回生の一石を投じるのです。
父親の死が確実である事に、
歯を噛み締め涙を流すシカマル、いの。
しかし親の想いはしっかりと受け継ぎ、
前を見据えます。

「これで連合の頭はつぶした。
 まら…基本だな…」

と憎たらしいほど綽々としたマダラたちの様子。
ここから連合軍の巻き返しが始まることを期待します。