572『九つの名前』

今回の内容を受けて、【人柱力と尾獣(資料版)】*1も更新しました。

1.九つの名前(1)

九尾の尾獣玉と二、三、五、六、七尾の合成尾獣玉。
その2つが激しく衝突します。
そのまま正面衝突させて相殺を狙うというより、
九尾側の尾獣玉をより下に潜り込ませて
うまく合成尾獣玉を跳ね上げることで、上空で誘爆を狙った形で回避しました。
しかしそれでもその2つの巨大エネルギーのぶつかり合いは、
激しい衝撃波をもたらし、一帯の地形は抉り取られたように変化します。
合成尾獣玉を凌ぎきったナルトと九喇嘛は、
尾獣玉のぶつかり合いを陽動にしたような形で
隙を縫って手状に変化したチャクラの尾で尾獣たちをとらえ、
杭を引き抜いていくことに成功します。

「いくぜ九喇嘛!! 一斉に引き抜く!!
 こいつら皆を解放して!
 そんで全員助けんだ!! 絶対!!」

意気込むナルト。と、突如目の前の風景が変わります。

「待ってたぜ…。」

目の前には二尾、三尾、五尾、六尾、七尾とその人柱力たち。

「これって孫の時と…」

ナルトにも心当たりはあります。
つい先ほど四尾・孫悟空と対峙したときのような感じ。

「やはり今回はこの階層まで入って来れたか…。
 四尾の言った通りだね。」

と二位ユギト。どうやらさらに尾獣たちと意識がシンクロしたところに
ナルトは引き込まれたようです。

「四尾の時とは違う場所だ。
 ワシとカンペキにリンクした分さらに、
 尾獣達の深層心理の奥深くに入り込めたってことだ。
 見ろ! ここには人柱力も居る。
 それに四尾はチャクラの鎖で縛られてたしな。」

と九尾はいまナルトが在る場所を説明します。
四尾と相対したときのように、
尾獣たちはチャクラの鎖で縛られている様子はありません。
つまり彼らの本当に奥深いところにある意識、
トビが縛りきれなかった部分にナルトはいるのです。
そしてその深層意識の世界では尾獣たちはみな繋がっているようです。

「よく分かんねーけど…、とにかく皆居るし、鎖もねーし…
 前より落ち着く!」

ナルトはいつものことですが、
深く考えるよりも、感じ取ったという形で理解します。

「よく来てくれたな。人柱力と尾獣を代表して感謝する。
 会いたかったよ。うずまきナルト! 実は…」

と三尾の人柱力やぐらがまず挨拶といった形で声をかけます。
言いかけたところで、ナルトの表情が激変したことに気づきます。

「うっ…オレよりもチビでガキで弱そうなのに……、
 人柱力としてガンバってきたんだろうなぁ…お前…。
 それなのに…それだというのに゛
 もうおなくなりになってると思うと……あまりにも…。
 おいしいラーメンの味も…女の子とのキスの味も知らずして…!!」

と涙がぼろぼろ垂れてくるナルト。
しかしこれはとても余計なお世話だったようで、

「オレは元四代目水影だし! 実際えらかったし!! 大人だしィ!!」

と反駁するやぐら。四代目、元水影としては少々頭に血が上った発言ですが、
やぐらはその容貌に合わず、どうやらナルトよりも歳は上のようであることが窺えます。
トビに操られていた記憶はおそらくはない――ということも感じさせます。

「おい…! お前も女の子とのキスの味は知らねーだろ!
 それどころか昔、サスケとキスしちまってんだろお前!」

と野次を入れる九尾。
この発言を見てると、ビーと八尾とはまだいかないまでも、
かなり親密になってきていることが感じられます。

「ンなもん思い出させんな!! ブォェェ〜〜〜!!
 ヴェゴッ!! ヴェゴッ!!」

気持ち悪いといったように嘔吐のマネをするナルトを見て、

「いや…えずきすぎだし!!
 そのサスケっての何味だったんだよ!?
 てか話してたのはオレの方だろ!!
 ったく四尾の言った通り話聞かねー奴だな!!」

とやぐらも突っ込まずにはいられないようです。

「四尾って……。じゃあここに孫もいたのか!?」

とナルト。

「(やっとか……。)
 そうだ…。」

ようやく話が進むと安堵したような表情をやぐらは見せます。

「…ってことはあのヒゲのじいちゃんも…」

ナルトの言う"ヒゲのじいちゃん"とは四尾の人柱力・老紫のこと。

「そうっす!」

今度はやぐらに代わって、
七尾の人柱力・フウが、剽軽な表情で答えます。

2.九つの名前(2)

ナルトが来る前の尾獣たちの深層意識。

「ちゃんと教えてやれ…。
 …それとあいつにオレのチャクラをほんの少しだが渡せた。
 …お前らは覚えてるか?
 六道のじじいが最後に言ってたことをよ…。
 たぶん…あの小僧がそれだ…。オレはそう感じた。
 …たぶんあいつはお前らを助けようとここまで来る。
 そんときゃ小僧をよろしくな。
 もう魔像に引っ張られてる…。
 じゃ、先行ってるぜ。」

と他の尾獣たちに語りかける四尾。
強制的に引き戻そうとする外道魔像に還る少し前の話です。
四尾がナルトに対して感じたこと、
どうやらそれは六道仙人の言ったある事柄に関わりがあるだろうこと、
それらを手短に話し、あとはよろしく頼むという形でしょう。

「四尾よ……。
 もしかしたらだが……。
 ワシらにも……、違う道があったと思うか…?」

とぼやくように老紫が言います。
生前、彼らは仲が良かったわけではなかった――

「ケッ…土影のオオノキより頑固なてめーが…
 死んでずいぶんと丸くなったかァ!!?
 まぁ…てめーがオレの人柱力になったあの時…
 初めにオレの名をちゃんと覚えてたらな…!」

と四尾。

「お前の人柱力になって40年余り。
 今さらお前の名を言うほど丸くはなれん…!
 だが忘れた訳ではない…。」

と老紫が言います。
老紫にしてみたら尾獣は人柱力として閉じ込めておく対象、
あるいは力として使役するだけの存在だったのかもしれません。
四尾・孫悟空がナルトにもらしたように、
尾獣に対して友達のように接するような、
謝ったり、軽口を言い合ったりするような人間――
では老紫はなかったのだと思われます。

「なら…オレの名の口上全部言ってみやがれ。」

と言う四尾に、

「……孫でいいか?」

とはにかむように答える老紫。
頑固に自分の意志を、尾獣に対する態度を貫いてきたものの、
何か引っかかるものはあったのでしょう。
しかしこうして尾獣たちの深層意識に触れることで、
老紫のつっかえが一気に噴き出して、
オオノキよりも頑固と言われる口からそのような言葉が出てきたのだと思われます。
さて、ナルトが現れた時点にまた話は戻ります。

「オレ達は四尾の訴えで集い、
 お前に聞かせ渡すものを約束して、
 こうしてここに居る。」

と六尾の人柱力・ウタカタは言います。

「そうなったのはここより四尾と老紫がいなくなって後のことだで。
 ナルト……お前のおかげだ。」

と五尾の人柱力・ハンは言います。
そもそも彼ら人柱力たちは生前、
全員が全員、尾獣と完全にシンクロしていたわけではありません。
しかしこうして尾獣たちの深層意識に現れることができるのはどうしてでしょう?
彼らがここに集ったのは四尾によって深層意識で呼び掛けられ、
尾獣たちがその意識に集合し、
それに引きずられるかたちで人柱力たちも集まったのだと思われます。
この人柱力たちの意識は穢土転生によって呼び寄せられた魂、チャクラたちが
尾獣とふたたび融合させられることによるものだと推測されます。
そしてそれは生前為し得なかった尾獣と人柱力の完璧なシンクロを存外促進し、
こうして尾獣の意識レベルまでに現れることができるほどにもなったのです。
この点は仮面の男トビにとっては計算外のことでしょう。

「ナルト君。前に来て手を…。
 四尾…イヤ孫悟空との約束を…果します。」

と虎を思わせる獰猛な容貌に似合わず丁寧な口調で話す二尾が、
ナルトに近くに来るように招きます。
四尾が他の尾獣たちにナルトに教えるように言ったもの。
それを渡すためです。

「私の名は又旅。」(二尾)
「二位ユギト。」(ユギト)

まず二尾とその人柱力であったユギトが名乗り始めます。
女性的な印象を漂わせる二尾。

「ボクの名は磯撫。」(三尾)
「オレは元四代目水影、やぐらだ。」(やぐら)

次につられるように三尾とやぐら。
いくぶん他の尾獣たちより大人しそうな感じの三尾。

「私は穆王。」(五尾)
「ハンだ。」(ハン)

続いて五尾とハン。
気高さ、気品を感じさせ威風堂々という感じの五尾。

「オレやよ、犀犬ってんだ。」(六尾)
「ウタカタだ。」(ウタカタ)

六尾とウタカタも続いて名乗ります。
六尾は少し訛がかって、マイペースといった印象の六尾。

「ラッキーセブン重明だ。」(七尾)
「フウっす!」(フウ)

最後に七尾とフウが答えます。
どちらも剽軽でノリが良いといったような印象を受けます。
彼らと手を一つに合わせるナルト。
九尾は自分がまだ幼かった頃を思い返します。

「私はもう長くない。
 守鶴・又旅・磯撫・孫悟空・穆王・犀犬・重明・牛鬼・九喇嘛。
 離れていてもお前達はいつも一緒だ。
 いずれ一つとなる時が来よう…。
 それぞれの名を持ち…今までとは違う形でな。
 そして私の中に居た時と違い正しく導かれる。
 本当の力とは何か…。…その時まで…。」

六道仙人はそう9つの幼い尾獣たちに言い聞かせました。
まだ幼獣だった九喇嘛もほんのり涙を浮かべます。
六道仙人は十尾をすでに9つの尾獣に分けて、自分の中に存在させていた様子。
したがって彼らはまだ生まれたばかりのようにあどけなく、
六道仙人がまるで"親"のような存在に見えます。

「長すぎなんだよ…じじい。」

と九尾。いずれ来る時――そこまでに随分と長い月日が経ちました。

「お前らもそう思うだろ……。
 ナルトはじじいの……。」

黒い杭を引き抜くとき、
深層意識の中で他の尾獣たちに語りかけた九尾の言葉に、
尾獣の一つ一つが返事をしていきます。

「そうね…。」(二尾・又旅)
「う…うん。」(三尾・磯撫)
「ですね…。」(五尾・穆王)
「ああ…。」 (六尾・犀犬)
「だな…。」 (七尾・重明)

と彼ら尾獣たちを無力化することに成功しますが、

「…九尾まで完全にコントロール下に置くとはな。
 だが…まだ長続きはしないようだな。
 それで今まで通りだ。」

とトビは何の躊躇いもなく尾獣たちを外道魔像に再び戻します。
このトビの余裕を見ていると、尾獣たちは、
九尾と八尾の力を少しでも削ぐための"かませ"のような扱い方だった気もします。

「今まで通りじゃねェ…。
 難しい名前、一度にたくさん教えてもらったからよ!!」

しかしこの機会に、ナルトは他の尾獣たちと確かな絆をつくることができました。
これは後々に大きな意味を持ってくることになるでしょう。
ところで外道魔像に封印されたままで、
今回戦力として加えられていなかったとはいえ、
一尾・守鶴の意志が全くもって度外視されているのはかわいそうな気も…