568 『四尾・仙猿の王』

1.四尾・仙猿の王(1)

いまにも四尾に噛み殺されてしまいそうなナルト。
九尾は檻の中で考え深げにしています。
人柱力たちの猛攻。カカシもガイもナルトを助けに行きたいのですが、
阻まれてしまい、思うように動けません。

「ガイ。まずはこっちだ!!
 こっちだって充分ヤバイでしょ!」

形勢を立て直すためには、まず目の前の敵に注力する必要があります。

「挟まれた!」

しかし迫りくるは亜尾獣化した人柱力たち。

「木が一気に枯れた!
 …腐らせるガスか!?」

そして六尾のガス攻撃。
この悪状況を打開するには、チャクラの残存量は二の次として、
大技しかありません。カカシは影分身し、分身との間に雷切を通す、
《雷伝》という技で亜尾獣化した人柱力たちを一気に薙ぎ倒します。
ガイは《朝孔雀》の拳圧でガスを吹き飛ばします。

「ナルトを離せ。このサル!」

一方、八尾が絡み付いて何とか保っている状態のナルト。

「九尾…。お前、向こうのマダラとやり合ってた分身ナルトに
 力を貸してやったみてーだな!
 今回もその気なら力を貸してくれても構わねーぞコラ!」

力を貸そうか迷っているかの様子の九尾に、八尾は言います。

「ワシはお前とは違う。八尾。
 そう何度も何もなく人柱力に尻尾を振ったりはしねェ…。」

と九尾。しかしどこか語気に欠ける部分があります。

「お前ナルトがどうなってもいいのかよ!!」

との八尾の言葉に、九尾は思い返すように遠い目をします。

「九尾…。今のお前は一時に結節した仮の姿に過ぎん。
 分散した力の一部でしかない。
 知の足らぬただの不安定な力でしかない。
 お前に導きを与える者…、それがうちはだ。
 お前ら尾獣は瞳力者の僕でしかない。従え。」

かつてマダラが九尾へ口にした言葉。
巨大な力の塊――。
それゆえに利用され、だのに抵抗できず自由を奪われてきた日々。

「九尾…。お前の力は強大過ぎる…。
 悪いが野放しにはしておけん。」

柱間の言葉。

「アナタが力を振るえば憎しみを引き寄せる。
 私の中でじっとしていて下さい。」

ミトの言葉。

「アナタも私もついてる方じゃないのは確かね。
 アナタは世界の抑止…。そして私はアナタの抑止。」

そしてクシナの言葉が過ります。

「どんなことを語ろうが、
 人間の語ることはいつも皆同じだ!」

いつも、いつの世も、強大な力を持つゆえ、
邪見にされ、人柱力封印という暗い隅に追いやられ、自由を奪われ、
ただただ身勝手な人間たちに憎しみを募らせるだけの日々を送ってくるしかなかったのです。

「今度はこんなガキか……。忍共め…。
 どのみちこいつも…」

自分を閉じ込めておくだけの存在に過ぎない人柱力という器。
ナルトを見て、終わりの見えない繰り返される日々に、
ただただため息を吐くしかありませんでした。

「なぁ九尾…。オレはな…、
 いつかおめーの中の憎しみもどうにかしてやりてーと思ってる。」

ナルトの言葉が過ります。
憎しみをどうにかする――
身勝手な人間たちが作り出してきたこの循環。
今さら何を言い出すのか――そう言い出したい気持ちの一方で、
自分の側に立って理解しようと言葉をかけたナルトに、
どこか救われるような気持ちも確かに抱いたのでした。

2.四尾・仙猿の王(2)

持ちこたえる事ができず、ついに四尾の口に納まってしまったナルト。
するとどういうわけか鎖に繋がれた四尾が目の前にいます。
このような光景を見るとき――腹の中の九尾と会う時の感覚です。
しかしいつもは封が施された牢のなかに九尾がいるはずですが、
代わりにいるのは四尾です。

「今度はお前がオレの力をぶん取る気か。
 …こんな所にまで入って来やがって…。
 クソガキキィー!!」

腹の虫が納まらないとばかりに捲くし立てる四尾。
しかしナルトは事態が呑み込めていない様で、
しばらく呆然としています。

「こ…これって…四尾…!?」

ようやく四尾と癒合状態にあることを呑み込めたナルト。

「…オレを四尾なんて呼ぶんじゃねェ!
 ちゃんと名がある!」

"四尾"と呼ばれることに不服な様子で、彼は自分の名前を高々に叫びます。

「オレは水連洞の美猿王。六道仙人より孫<ソン>の称号を与えられし仙猿の王。
 孫悟空斉天大聖だ。ウキキィ――――」

"孫悟空"――それが四尾の名前。
鳥山先生へのオマージュが感じられます。

「ん? え!?
 どれが名前…? ウキキ――?」

しかし、自己紹介が長かったことと、
変わった名前(?)であるためナルトには伝わらなかった模様。

孫悟空だ!!
 フン…やっぱ人間はバカばかりだな。
 名前もろくに覚えられねェ…。猿以下共だ。
 そんな奴らに…オレの力はやりたく――」

言いかけた瞬間、まるでどうでもいいかのように振る舞うナルトに気づきます。

「…てか何だここ!?
 九尾のとこと似てんぞ、これ…!」

さすがに突っ込まずにはいられないようで――

「聞いてんのかてめ――――!!
 オレ様の名前をテキトーに聞いた上に、
 無視してんじゃねーぞ。
 失礼すぎんだろ!!」

それに対してナルトは、

「え? あ…!
 ご…ごめん…」

と素直に謝ります。

「てめ…人間の割には素直な奴だな。
 尾獣に謝る奴なんてのは初めてだぜ。
 どうやらオレの力をぶん取りに来た訳じゃなさそうだな…。」

ナルトの人柄を認めた四尾。
先の仮面の男や人柱力の老紫と違う様子を見て、
自分の力を取りにきたのではないようだと考えます。

「お前の中にも居るな…。
 だからここへ入れたのか…。
 九喇嘛<クラマ>は人柱力の仕付けがいいとみえる…。」

ナルトもまた人柱力だと気づいた四尾。
ナルトの中に九尾・九喇嘛の存在を感じたようです。

「クラマ…って?」

聞きなれない言葉。ナルトは訊き返します。

「てめ…九尾の本名も知らねーのに九尾の人柱力やってんのか!?
 これだから人間は…?」

九尾にも名前があったことに驚くナルト。

「え!? 九尾にも名前あったの!!?」

気恥ずかしそうに舌打ちする九尾。
少し脱線しますが、岸本先生が妖狐にクラマという名前をあてたのは、
こちらは富樫先生へのオマージュという気もします。

お前ら人間はオレ達をただの力としか見てねェ…。
 だから名前すら知らねェし、知ろうともしねェ…。
 オレ達を閉じ込め存在を否定する。

九尾をはじめ尾獣たちが皆人間に敵意や憎しみを抱く理由――
四尾が話したとおり、彼らは単なる物としての存在ではなく、
自我を持ち他者を認識する、"魂"を有する存在なのです。
そしてそうであるからこそ、そうであることなきもののように、
存在を否定するかのように扱われることは彼らにとってとても辛いはずです。
一尾には守鶴、四尾には孫悟空、九尾に九喇嘛というように、
尾獣にはそれぞれ名前があるのに、それすら蔑ろにされてきた――

「…オレも少しだけどお前の気持ち分かんよ。
 オレはよくいたずらやった…叱られたくて。」

と自分の過去を思い出しながら、語るナルト。

「人の気を引くためならなんだってよかったんだ。
 自分がなくなるよりはずっとマシだったからな。

誰かに存在を認めてほしかった――
なきもののように扱ってほしくない――
自分という存在がいまここにあることを否定してほしくない――

「…オレは人柱力だ……。
 けどちゃんと大切なナルトって名前がある。
 両親と師匠の形見だ。」

人柱力として生きて受けてきた苦難――
尾獣たちもまた同じだったことに気づくナルト。
そしてそれが憎しみの本体であることにも。

「だから…、自分を誰でもいいなんて言う、あんな奴が…
 お前らを言いなりにさせてんのがガマンならねーんだ!」

滾る想いをナルトは語ります。

「なら…お前はオレ達とどうしたいってんだ?」

今までの人間たちと違う様子を見せるナルトに、
粛々と言葉を受け入れていた四尾。

「ビーのおっちゃんと八尾みてーになりてえ…。
 八尾と冗談言い合ったり、ケンカしたり、励まし合ったり……!
 はっきり口では言えねーけど近くで見てると分かる…。
 まるで友達みてーでよ…。…んでいつもオレってばこう思うんだ。
 むっ…ちゃ……うらやましいってよ……!」

ナルトは言います。
ビーと八尾のように、人間と尾獣、相容れなかった存在同士であっても、
互いに信頼しあうことができるようになった二人のようになりたいと。

「ガハハハ!!
 人間のお前がまさか本気で尾獣と友達になりてえなんて言うんじゃねーだろうな!?」

冗談半分かと大笑いする四尾ですが、
ふとナルトの目を見ると、笑いがすぐにおさまります。

「(こいつ…、本気で言ってやがる…)」

九尾の耳にも当然届いています。
いつもの険しい表情から一転、少し穏やかな表情を見せています。
あのとき感じた救われるような何か、
それはやはり間違ってなかったことを確信しているかのようです。

「だからオレはお前も助けてえ…。
 えっと……」

心意気をくみ取ってしまって、もはや怒る気力も削がれたのか、

「ハァ……孫でいい…」

と語気を弱めて言う四尾。

「で…お前、オレに食われてっけど…どうすんだ!?」

改めて今の切迫した事態を思い起こしたナルト。

「そ…そうだったってばよ!!
 どうしよう!?」

と急に狼狽えます。

「オレを止める方法ならあるぜ……
 代わりに鎖を解いてくれるってんなら
 教えてやらんでもない。」

仮面の男のような邪悪さ、憎しみを彷彿させるような何かを
ナルトから感じとれなかった四尾。
ひとまずナルトを信用してみることにします。

「孫!!」

ナルトと四尾の連携が始まります。