570『九喇嘛』

1.九喇嘛(1)

内側からの《蛙たたき》によって、なんとか杭を引き抜いたナルト。
そして螺旋丸を2つ作り挟み込むようにして杭を砕きます。

「そう…。それがお前だ!!」

九尾も自分の出番が近いと予感したのか、腰を上げます。

「やるじゃねーか、お前。」

と四尾。

「何で鎖が消えねーんだ!?」

杭は打ち砕きました。
その甲斐あって四尾を強く縛り付けるいくつかのチャクラの鎖は外れましたが、
まだ一本だけ太く頑強なチャクラの鎖は外れていません。

「へッ…。やっぱこの腹の鎖は消えねーか…。」

予想していた通りとばかりに四尾は呟きます。

「何で!? ちゃんと杭は抜いたってのに!!」

一方、肩を落とすナルト。
杭を引き抜いても、まだ四尾を縛り付ける鎖は何なのか――

「あの杭はな…、人柱力の体にオレのチャクラを一時縛り付けるもので…、
 オレのチャクラは面の奴が外道魔像を介して握ってる。」

あの杭は尾獣と穢土転生でよみがえった人柱力をつなぐいわば媒体。
穢土転生した人柱力たちに直接尾獣本体を戻したわけではなく、
外道魔像を介して尾獣のチャクラを渡すことで、
人柱力+尾獣というセットを作り上げていたのです。
それゆえに外道魔像の効力からは逃れられない、というわけなのです。

「それ知ってたのかよ!?
 これじゃお前助けたことになんねーだろーが!」

と必死で訴えかけるナルトをしばし静観した後、
四尾は再び口を開きます。

「お前…それ本当に本気で言って…」

そう言いかけた四尾の言葉を遮るように、

「ったりめーだ!!」

とナルト。

「オレはオレの止め方を教えたまでだ…。
 …助け方までは教えてねェーよ。」

自分のために体を張って助けようとする人間――
彼の気持ちを汲み取りつつも、
あえて憎まれ口を辞さない四尾。

「初めっから、そっち教えてくれってばよ!!
 で!? どーすんの!?」

次の手立てがあると思い込んでいるナルトに、
再び静かに語りかける四尾。

「…その前に、お前に渡してーもんがある。
 手ェ出せ…。」

そう言って拳を突き出す四尾。

「いいものだ。…そのうち役に立つぜ。」

ビーとの挨拶のように、拳を突き合わす四尾とナルト。
これは四尾のナルトへの信頼の証でしょう。
――と同時に別れの挨拶でもあったのです。
そう…、外道魔像に縛られているという事実は、
簡単に覆せるものではなかったのです。
外道魔像に吸い込まれていく四尾。
人柱力であった老紫の亡骸がむなしく転がります。

「一匹止めるだけでくたばりそうだな。
 しかし出し惜しみは無しだ。
 お前らの大切な、オレのモノ…。これでいただく。」

疲弊したナルトを見て好機とばかりに動くトビ。
しかしナルトたちにとって大切なもので、しかもトビのものとは何か――
奇怪で意味の通りにくい文章を口にしつつも、
着実にナルトたちを追い込みます。
四尾を除く尾獣の解放です。

2.九喇嘛(2)

ナルト達の前に尾獣たちが集合します。
右から三尾、六尾、七尾、二尾、五尾と、
もはやその壮観な様はと口をあんぐり開けるより他はないでしょう。
この絶大な危機に、九尾はナルトに語りかけます。

「…ヤバいぞ。どう見ても。
 そのくせヘロヘロじゃねーか。」

もうチャクラもほんとに尽きかけているのでしょう。

「まぁ…みてろよ…」

と強がってみても、その表情には疲弊が色濃く出ています。

「力を貸してほしけりゃ、
 そうしてやらんこともないぞ…ナルト。」

と九尾。以前までだったら、裏に打算的な腹積もりがあったでしょう。
しかし、その言葉の裏には微塵もそれを感じることができません。
純粋に心配し手を差し伸べようとしています。

「最近はよく話しかけてくるようになったじゃねーの。
 力を貸してくれんのはうれしいけどよ…、
 その前にお前にキチンと言っとかなきゃなんねェ。
 向こうのマダラん時はサンキューな…。力をくれて。
 アレ…助かった。」

差し伸べようとした手を払いのけるように話すナルトに困惑しつつも、

「礼なんかするな気持ち悪りィ!!
 ありゃマダラよりお前の方がマシだと思ってそうしただけだ!」

と激昂してみせ、

「そもそもこの檻のせいでチャクラをやれたのは雀の涙ほどだろ!
 今回はお前の戦いをもう少し見てみたくなっただけだ!
 そう……ヒマつぶしだ!」

と見え透いた照れ隠しをする九尾。

「お礼したのに何で怒ってんだってばよ!!
 その目つきは直らなくても、
 そゆーとこ直していかねーからいつまでたっても」

つられてナルトも激昂しますが、
すっとその言葉を止めます。

「お前とワシのチャクラをくっつけろ…。」

前までなら、両方が両方反対方向を向いて、
折り合いがつかなかったでしょう。
しかし九尾はそっぽを向きませんでした。
拳を突出しナルトの方を見ています。
狐につままれたような表情をナルトは一瞬見せます。

「……まさか、また…、チャクラの綱引きかよ…!?」

さすがのナルトもいまの疲弊状態で、
九尾とチャクラの綱引きをするのは避けたいといった様子です。

「バカ。今回はやらなくていいんだよ!
 まぁ…、こっちはヒマだからな…。
 また綱引きをやってもいいんだぞ!!」

一瞬九尾に何があったのか勘ぐるように九尾の方を見ますが、
すぐにナルトは九尾にそのような腹積もりがないことを悟ります。
そして九尾と拳を突き合わせます。

「へへへ…」

それはさっき四尾からもらったように、
九尾からの信頼の証なのです。
なぜだか笑みがこぼれるナルト。

「フン」

照れくさそうに鼻を鳴らす九尾。

「行くぜ…ビーのオッチャン!」

九尾との和解を終えたナルト。
毅然とした態度を崩さず、八尾の前に立って言います。

「ツーマンセルでオレがメイン♪
 ナルト お前はサポートに回るのが賢明♪」

とビー。

「言っても相手は尾獣五体だ。
 尾獣化できねェお前が前に立つな!」

八尾も言います。

「ビーのおっちゃんも八っつぁんもケガしてっから…、
 メインもサポートもねーよ! 一緒に行くぜ!」

とナルト。何か言いたげな八尾を制して、
ナルトは言葉を続けます。

「お互いすでにツーマンセル同士だろ。」

その言葉に八尾も勘づきます。
お互いツーマンセルという意味――

「ナルト…お前…まさか九尾と…」

心配はいらないというように、
前を見据えながらナルトは言います。

「こっちは全然余力残してやがっから!」

かつて九尾を宿す人柱力としてナルトは
化け狐と煙たがれてきました。そんなナルトにイルカは、
化け狐なんかじゃないと言葉をかけてくれました。

「けどナルトは違う。
 あいつは…あいつは、このオレが認めた優秀な生徒だ。
 …努力家で一途で…そのくせ不器用で、
 誰からも認めてもらえなくて…」
「あいつはもう人の心の苦しみを知っている。
 今はもうバケ狐じゃない。
 あいつは木ノ葉隠れの里の……うずまきナルトだ。」

自分を奮い立たせてくれたその言葉に倣うように、
ナルトは九尾・九喇嘛にも言葉をかけます。

「今はもう…バケ狐じゃねェ…。
 おめーは木ノ葉隠れのオレとコンビの九喇嘛だ。
 さぁ、行こうぜ!!!」

檻を解放したナルト。
遂にナルトと九尾が共闘する時が来ました。