598『粉砕』

1.粉砕!!!!(1)

「(またあの力か…)」

九尾の後押しももらって、
迷いが吹っ切れたように突っ込んでいくナルト。
九尾のチャクラを展開し、巨大な手状に変形させて、
トビを押し潰そうとします。
地を裂くような凄まじい破壊力ですが、
暖簾に腕押しとばかりに、
トビにはやはりダメージはありません。

「カカシ! オレ達も…」

とガイはカカシに声を掛けようとして、
いつものカカシとは違うことに気づきます。
目の前の戦いに目を逸らし、考え込むようにしています。

「(奴は…まさか……
  イヤ…、そんなバカなことが…)」

カカシの脳裏に浮かんでくるのは、
あの神無毘橋で殉職した戦友。
そんなはずはない――そう思いたくない。

「カカシ!!」

ガイの呼び掛ける言葉にハッと我に返るカカシ。

「聴いてるのか!!?
 奴を攻めるには陽動の手数がキモになる!!
 オレ達も戦うぞ!!」

とガイは鼓舞します。

「…お前が今何を考えているのかは想像がつく!
 オレもそうだ…。
 だがそいつは置いとけ!
 今は感傷にひたるヒマは無い!!
 部下だったナルトがお前より先に突っ込んでんだぞ!!」

ガイにも仮面の男が誰であるか心当たりがあります。
そして、その人物のことを考えているなら、
カカシといえども目の前の戦いから目を逸らしてしまうだろうことも――。
でもそれこそまさしく"感傷"です。
悲しき思い出に浸っている暇はない。
そしてそれに囚われている暇はない。
目の前にいる仮面の男を見据えなければならないのです。

「バカが…。
 一人で突っ込んでくるとはな…。」

ナルトが突っ込んでくるのを逆手にとって、
トビは巨大な手裏剣を放ちます。
そのうち2枚はビーが八尾の尾を使って食い止めますが、
残りの1枚は尾を切り裂いて、ナルトへ迫ります。
しかしナルトに到達する直前、九尾の牙がそれを食い止めます。

「オレ一人で突っ込んでんじゃねーよ!
 九喇嘛を忘れんな!
 それにビーのおっちゃんに八っつぁん、
 ゲキマユ先生にカカシ先生も居る!!」

九尾ともう"ダチ"であるナルトにとって、
部分尾獣化はもはや思い通りにできるようです。
そして何よりナルトを強くたらしめるのは、"つながり"。
カカシにガイ、九喇嘛や牛鬼をはじめとした尾獣や人柱力たち、
木ノ葉の同期の忍たち、忍連合の忍たち…
自分を信じてくれる全てのものたちの意志を鋭敏に感じ取って、
それに応えようとする気迫に満ちているかのように、
九尾の衣が猛っています。

「オレとの勝負で勝ち越しているお前が…、
 この程度で老いぼれちゃいないハズだよな…!?
 カカシ。」

とガイ。カカシもナルトの姿を見て頷きます。

「(ナルト…お前がオレの部下でよかったよ…)
 いくぞ…ガイ!」

迷いが吹っ切れたように、再び仮面の男を見据えるカカシ。

「我がライバル!!
 そうこなくては!!」

再び士気を取り戻したカカシとガイ。

「(残りのチャクラを考えても…、
  できてあと数発…)」

カカシは力を振り絞ってでも戦う構えをとります。

「連発できない借り物の力など恐るるに足らん…。
 本当の神威の力…思い知れ!!

とトビの右目にもカカシと全く同じ万華鏡写輪眼が!
ここで重要なことは2点。
まず一つ目ですが、
トビは自分が使う《神威》を借り物の力でないことを強調しています。
つまり、トビは《神威》が扱える写輪眼の本来の持ち主であることを意味します。
二つ目に、今までうちは一族同士で渡された場合の万華鏡写輪眼の模様は、
移植提供(ドナー)側の万華鏡写輪+移植受給(レシピエント)側の万華鏡写輪眼となりました。
マダラとイズナでは、


+ \rightarrow

サスケとイタチでは、

+ \rightarrow

のようになりました。
カカシは例外で、うちは一族でないので紋様が変化しないとしてよいでしょう。
では仮面の男がカカシと全く同じ紋様の万華鏡写輪眼を持つということは、
いったい何を意味しているのかといえば、カカシと同じように

    • うちは一族でないものがオビトの眼を移植して、万華鏡写輪眼を開眼させた

か、もしくは、

の2つの可能性を示唆していることになります。
そして前述で検討したようにトビの台詞から、自動的に後者、
すなわちトビ=オビトとなるでしょう。
しかし、イタチが自身の万華鏡写輪眼の瞳術を使うことで
常に失明のリスクを背負っていたのに対して、
トビ(オビト?)はそのようなリスクがまるでないかのように
《神威》を連発しているように見えます。
同じくカカシが《神威》をかなり乱発しているのに失明していない点を考えると、

    • 《神威》は《天照》や《月読》と比して術使用者への負担が少ない瞳術である

ということが考えられますが、もう一つ、
仮面の男の眼が永遠の万華鏡写輪眼である――
すなわち、この期に及んでトビがオビトでない展開があるとすれば、

という可能性もなきにしもあらずです。

2.粉砕!!!!(2)

「(この神威…
  絶対にタイミングはハズせない!)」

乱発はできない――カカシは覚悟を決めます。
効率的な一発を放たなければ、負けは必至。
まさに背水の陣です。

「(術のタネが分かった所で変わらん…。
  神威で飛ばされた攻撃の位置にさえ、
  気を付ければ問題ない…。)」

一方トビは先ほどのように自分の術の仕組みが抑えられたとしても、
《神威》で転移してきた飛来物の位置や方向さえ把握していれば、
自分にはまだまだ分があるとふんでいる様子です。

「入れる時に実体化するなら、
 出す時も実体化するハズだ!!
 今がチャンスだぜ!!」

何やら別空間から放出する構えを見せるトビに対して、
ビーが突貫していくナルトにアドバイスを送ります。

「反撃できればの話だがな。」

とトビは余裕を崩しません。

「ナルト!!
 こいつは尾獣の力を拘束する呪印付きだ!!
 絶対に触れんじゃねーぞ!!」

トビが別空間から引き寄せたのは、
尾獣や人柱力の力を封じる呪印を帯びた鎖に繋がれた幾本もの杭。
ビーは自身の力が抜けていくような様子から、
それを感じ取ったのでしょう。
ナルトに気を付けるように忠告します。

「ビーのおっちゃん、
 ちょっちの間匿ってくれ!!」

一方ナルトは《影分身の術》でまず態勢を整えます。

「分かった、来い!
 オレが囮になる!!」

ビー側の方で《尾獣玉》を構え、
陽動として《螺旋丸》を携えたナルトがトビへ特攻をかけます。
そのときナルトがカカシへ合図を送ります。
杭をくぐりぬけトビへ辿り着いたナルト。

「(また同じ手なら…
  ナルトをすり抜けさせなければいいだけだ…!)」

トビは目の前のナルトに新たに呼び寄せた杭をぶつけます。

「なんだ影分身か…」

寸でのところでカカシの《神威》が発動していましたが、
どうやらこのナルトは影分身体だった模様。

「…杭の方が早かったな…カカシ。
 これで螺旋丸を飛ばしそこねた。
 …また神威の無駄使いだな。」

力を使い果たしたように倒れるカカシ。
トビはカカシの《神威》が不発に終わったととらえます。

「まだだ!! 尾獣玉!!」

陽動の隙をぬって温めていた大技《尾獣玉》を
ナルトはこのタイミングで放ちます。

「(少し遅い…。無駄なことを…)」

範囲も威力も螺旋丸とは桁違い。
しかしトビにとっては別空間に逃げ込めば、
どんな術も効き目はありません。
今回も、そうして《尾獣玉》をやり過ごそうと、
別空間へ自身を転移させます。

「!! お…お前は……ッ!!」

その空間転移先で、思わぬものに出くわします。
螺旋丸を携えたナルトです。

うずまきナルトだァ!!」

もはやトビに逃げ場はありません。

「(そ…そうか。さっきの神威は螺旋丸ではなく、
  影分身そのものを飛ばしたのか…!
  カカシめ…杭よりも速く……!)」

さっきの攻防で杭の衝突で影分身のナルトが消えたように見えましたが、
実はカカシによって影分身体ごと《神威》によって転移させられていたのです。
《尾獣玉》によるトビの空間回避の位置と、
《螺旋丸》を携えたナルトの影分身体の移動距離を計算に入れた
変形挟み撃ちです。

「もう逃げらんねーぞ!!
 てめーは……誰だァァアアア!!」

ついにナルトの螺旋丸がトビの面をとらえます。
はじけ飛ぶ面。とうとうトビの素顔が白日のもとに晒される時が来ました。