524 『守るべきもの』

1.守るべきもの(1)

「(この子ごとオレを斬るつもりか)」

心をなくしている再不斬。
目の前にいる者はかつて自分が認めた男。
頭では分かっていても、その現実を見るまで、
どこかカカシの中に躊躇いがあったと思います。
再不斬が白ごと自分を斬ろうとしている――


カカシの中にかつて再不斬たちと戦った後、
ナルトと話したことがふと思い出されます。

「またAランク任務やってやるってばよ!」

と意気込むナルトを、

「ダメダメ! 再不斬と白…、あれほどの強い忍相手に、
 皆無事だったのが信じられないくらいだよ。」

宥めるようにカカシは言います。

「ま…もっと術覚えて修行して強くなってからだよ。
 Aランクなんてのは。」

その言葉に、少し考え込むようにしてナルトは言います。

「それもだけど…。
 守りたいもん、もっといっぱいみっけねーとな!」

と、意外なことを言うナルト。

「白の兄ちゃんが言ってた。
 …人ってのは大切な何かを守りたいと思ったときに
 本当に強くなれるってよ!

強くなれる――それは人として、心も身体も、全てにおいてということ。
守りたいものがある、本当に大切なものがある――
そんなとき、人は意志の力が加わって普段の何倍もの力を出すことができる――

「………。そっか…。じゃあお前もそう思うのか?」

ナルトも先の戦いで、感じたのでしょう。
何かを守ろうとするときに、大きな力を出せることを。

「うん…!
 白の兄ちゃんと再不斬見てから…そう思った。」

と満面の笑みを浮かべて話すナルト。
それを見て、カカシも笑います。
戦いの後、敵のことを認め讃えながら笑いあう自分。
カカシも奇妙な感覚であったかもしれません。
まるでかつての友人を偲ぶように思い起こされる白と再不斬――
それは誇りをかけて、自分の信念を貫いてきた“人間”だったから。
彼らの魂を理解し、そこから“本当に大切なモノ”を学び取ったナルトを見て、
カカシも嬉しかったのでしょう。

「あいつら敵だったけど…、なんかさ、なんかさ…、
 オレ、あいつら好きだった。」

ナルトのその言葉に、カカシも納得します。

「いや…オレもだよ。」

彼らの心の中で絆<ほだ>されていたた想い――
それはナルトの心に繋がって芽生え、大きく育っていきました。

「お前達がナルトの最初の敵でよかった…」

いまのナルトがあるのは、彼らが在ったから――
カカシは感謝するように贐<はなむけ>の笑みを見せます。

「再不斬…お前はあの時白を斬る事をためらった…。
 そしてお前の内心は、白の死による動揺を隠しきれなかった…。
 だが今は違う! 感情のない道具ってやつだ。
 もう、こんな戦いは無しにしよう!」

かつて白がカカシとの戦いに割って入り自分を庇ったとき、
再不斬はその大刀を振り切れませんでした。
それは再不斬にとって白はかけがえのない大切な存在、本当にたいせつなモノだったから
でも今の再不斬は違います。白を躊躇いなく斬り捨てます。見境はありません。
そしてそれがとても悲しい事を、
誰より一番傷ついているのは再不斬であることを
カカシは理解しています。
こんなのは戦いではないことも。

2.守るべきもの(2)

「エンスイ! 縛れェ!!」

何とか猛攻を掻い潜り、影に接触できたカカシ。
影縛りの術で再不斬の動きを封じます。

「(お前らの死に様と涙は…、
  お互いの絆そのものだったよ。)」

“敵”としてその想いにカカシも応えます。

「オレにも忍として守るべきもんが色々ある。
 再不斬と白…こいつらの死に様もその一つだ
 こいつらの最後の敵はオレだったんだからな…。
 ナルト…お前はどう思う?」

互いの絆を、生き様を、信念を、全てをぶつけた戦いの果ての死に様。
今さらそれを冒涜するような行為は許されない。
再不斬と白のためにも――


再不斬と白はとらえられ、布縛りの術の後、封印され、
あたりの霧も晴れていきます。

「穢土転生…この術は許せない…!
 サイ。次はお前の“根”の封印術を使う!
 オレに続け!」

再不斬と白に黙祷するように首斬り包丁に手をかけ、
カカシはサイに言います。

「で…でも、あの術はボクにはまだ…」

そう自信なく話すサイに、

「ダンゾウがお前を買っていたのは確かだろう!?
 もう感情を抑える必要はない!」

カカシは強く言います。
感情のない戦い――、それがいかに悲しいのか。
程度は違えど、“根”という同じような境遇にあったサイを考えると、
語気を緩めることはできなかったのでしょう。

「ま…オレも厚くなるまで時間のかかる方だが…。
 今回は久しぶりに沸点が低かった。
 千の術をコピーしたコピー忍者のカカシ…!
 これより通り名通り暴れる!」

カカシもこんな戦いを強いられ、めずらしく外に怒りを向けます。


一方でゼツとの戦闘に苦戦する黄ツチたちの部隊。
その行く手を阻むにも奮戦するも、数千体程の通過を許してしまう状況です。
砂地を音もなく忍び寄る気配。

「砂の感知…。…接触タイプか…。
 二代目土影無<ムウ>の存在をよくとらえたな。」

全身を包帯にくるみ、まるでマミーのような姿の二代目土影。
我愛羅が迎え撃ちます。