520 『穢土転生の秘密』

1.穢土転生の秘密(1)

ビーに言われた通り、黒と白のチャクラを8:2で混ぜ、
螺旋丸の要領で尾獣玉を完成させようとするナルト。

「急に+とか−とか白黒チャクラとか
 数字がどーだのと言われてもよく分かんねーよ!
 オレってば身体で覚えるタイプだかんよ!」

しかし、なかなかうまくはいきません。

「それにこの螺旋丸。
 重くて両手で支えねーとすぐに乱れちまうから…
 そんな細けー事気にしてらんねーよ!」

以前、このナルト世界の謎を紐解くの記事でも、
チャクラを電磁気学ふうに扱いました。*1
では力学的にはどうかというと、
このナルト世界では質量の概念が少し曲げられているように思えます。
ナルトのような小ぶりな人間が到底持ち上げられないような蛙の大岩を
いとも軽々持ち上げることができたりするのは、
全てこのチャクラというエネルギー源によるものと説明されるでしょう。
(この質量の概念の“狂い”は年末あたりに実際に計算してみたいと思います。)
ところで、我々の世界ではかの有名なアインシュタイン一般相対性理論により、


E=mc^2

という質量とエネルギーが結び付けられる法則によって、
質量とエネルギーが等価であることをまずあげておきたい思います。
飛雷神の術や口寄せの術など、時空間が自在であり、
光速よりも速い物体が存在しうるであろうナルトの世界では、
この一般相対性理論は根底から覆されてしまいますが、
エネルギー体であるチャクラが質量を持つようなこのナルトの台詞から、
この式を仮にナルトの世界で当てはめるとすれば、
大岩を持ち上げることができるナルトの力を
はるかに上回る質量をもつこの尾獣玉は、
いかにすさまじいエネルギーの凝集体であるかは想像に難くありません。

「この尾獣螺旋丸!! できるまで何度もやって!
 やって! やりまくってものにすんぜ!」

しかしナルトの手は内出血で焼き焦げたかのように黒ずんで、
少し動かすにも激痛が走るほどです。

「……人型では無理があるな…重労働♪
 少し休め 両手の傷が術の反動♪」

とビーは休息をとるように促しますが、
ナルトは感覚を忘れないうちに早くものにしたいのでしょう。
修行を続ける意志です。

「八尾のオッチャンが8対2になるよう見てて、
 ちょうどのところで言ってくれ!
 オレってばそれを感覚で覚えっから!」

と再び九尾のチャクラに包まれ、
やる気に満ち溢れたナルトを見て、
ビーも納得します。

「…強情な奴だ。……了解♪
 オレがお前に言った事は自戒♪」

2.穢土転生の秘密(2)

「その女…。まだ生きているようだな。」

まだアンコは生きていました。

「この女は大蛇丸様の呪印に適合し、
 大蛇丸様のチャクラを体内に持っている。
 まだ殺せない。」

とカブト。

「ダメだ…。今ここで始末しろ。
 この女はオレ達のアジトの正確な場所と入り口を見ている。」

しかしトビは納得がいきません。

「生きたまま大蛇丸様のチャクラを吸い取り回収する必要がある…。
 ボクの体は大蛇丸様の体といってもいい…。
 ボク自身の力を向上させるためには絶対だ。
 そうすれば穢土転生を縛る力も強くなる。
 それとさらに重要なのは…この術は生きた人間の細胞を使う。
 …この女を生かしておくのはそういう事だ。
 より戦力を増す事が君への貢献度を増す事にもなるだろう?
 違うかい?」

そう説明するカブトですが、
やはりトビは腑に落ちないようです。

「今日の友は明日の敵…かもしれん…。
 お前の利でこちらが不利になる可能性もある。」

と逆に猜疑心を強めてしまったようです。

「まだ信用されてないみたいだね…。
 どうしろと?」

とカブト。

「穢土転生の術…。
 それが本当に生きた体を使うのかここで証明しろ。
 それと……その術の全てをここで説明してもらう!
 もちろん止め方もだ。

トビも穢土転生の術やゼツの強化なる名目によって、
カブトに自分の軍勢を掌握されつつあったことは
とうに見抜いていたでしょう。
穢土転生の術。その術の発動方法と解除方法を覚えてしまえば、
カブトに意のままにされることも抑えることができます。
あわよくば、この術を盗みとって、
これから自身で使うことも目論んでの発言ともとれなくもありません。

「嫌だと言ったら…」

そう言い掛けたカブトに、
畳み掛けるようにトビは言います。

「お前のほしいものは一生手に入らない上、
 ほしいものが別なものになる。
 自分自身の命だ!」

カブトも本質的にトビの味方でない上、
トビから得られる何かを目論んで動いています。
無用な争いは避けたいし、切り札もまだあるようです。
要求をのみます。

「……いいだろう…。だがここには生贄にする者がいない…。
 この女は使えないと言ったね。」

というカブトに、トビはダンゾウと一戦を交えたときに拘束した
フーとトルネを召喚します。
徐に幻術がかかって無抵抗のトルネの首をへし折ったトビ。
フーを媒体に使ってトルネを蘇らせろとカブトに要求します。

「…初めに言っておく…。これは口寄せの術に分類される…。
 死者の魂をあの世である浄土から、この世…穢土に口寄せする…。
 そのためにはまず甦らせたい人間の体の一部…
 一定量の肉体が必要だ。個人情報物質(DNA)である体の一部がね。」

穢土転生の術は何も無くて死者の魂を召喚できるわけではなく、
どうやらあの世からこの世への道標とでもするのか、
死者の生前の肉体の一部が必要となるようです。

「それが無い者は穢土転生できない。さらに魂が浄土にない者…。
 つまり魂そのものを別の場所へ封印されていた場合も転生はできない。
 かつて大蛇丸様は四代目火影を転生しようとして失敗した…。
 すでに屍鬼封尽による封印術で魂は死神が持っていたからだ。
 そして…木ノ葉崩しの時…三代目火影ヒルゼンも同じ封印術をした。
 初代と二代目の魂を道連れにしてね…。」

魂が浄土にない――何かに囚われし魂、自由でない魂は
呼びよせることができないのでしょう。
トビは初代〜四代目までの火影は呼べないことを悟ります。

「いくつも転生させたけど…
 個人情報物質を集めるのは本当に大変だったよ…。
 それってつまり死体探しだからね…。
 腐って誰だか分かりやしない。
 失敗作もいくつも作った。」

そう苦労話を混ぜながら着々と術式を築き上げてくカブト。
真ん中に媒体であるフーをおき、人のような陣を描きあげ、
そして術を発動させます。

「こうやって生きた人間を死んだ者の魂の器にする。
 そうすれば穢土転生の完成だ。
 この術は忍世界において最大最強の術と言っていいよ!
 二代目火影が考案し、大蛇丸様が完成させたこの世に残る最大の遺産!
 この札で人格を抑え命令を与えれば、甦った者は生前の能力が戻り、
 さらに死ぬ事なくボクの命令に従うコマになる。
 もちろん六道の輪廻眼やイタチの写輪眼のような
 希少な能力もそのままにね。」

このような死者を冒涜する術を二代目火影が考案したというのは少し驚愕ですが、
大蛇丸によって完成されてしまったこの術は、
カブトのような人を人とも思わぬ人間には究極の術でしょう。

「…ただ…うちはシスイの死体はどこにもなかったし、
 自来也の死体は人の入れない水圧の深海の中。
 ダンゾウの右眼や六道ペイン達の武器になら、
 まだ彼らの個人情報物質がそれなりに…」

と漏らすカブトにトビは

「図にのるな…」

と不愉快そうに言います。長門の輪廻眼などのこともあり、
これ以上カブトの思う通りにさせたくはないのでしょう。

「これだけ都合のいい術だ…。
 何かリスクがあるハズだ…。」

術式など一部始終をその写輪眼におさめたトビは、
リスクについて尋ねます。
やはり自分の術のレパートリーに加える気があるのでしょうか、
はたまたそのリスクを把握することで、
カブトの弱点を知っておくつもりだったのでしょうか。

「何よりこの術が素晴らしいのは…
 術者には何のリスクもない事だ!」

――とカブトは口元に笑みを浮かべながらいいます。
術者にはノーリスクの禁術。最凶最悪の術です。


ところで、2,3の疑問点がカブトの発言から浮かび上がります。


自来也の死体について
そもそも自来也がペインとの戦いに敗れて死んだ雨隠れの里は、
地図上海に一切面していないのに、深海にあるとされています。
湖と思われますが、地下水脈から海の方に繋がって、
そして深海に沈んでいったと考えることもできるでしょう。
どうしてカブトがその場所を把握できたかは、
自来也に刺さっていたペインの棒を探知したからかもしれませんが、
ここで重要なのはカブトの忍術を持ってしても、
“水圧”という理由で深海には立ち入れない
ことです。
冒頭で質量の話をしましたが、これはチャクラではどうにもならないようですね。
鬼鮫など水遁のプロフェッショナルならまた別でしょうが…

●うちはシスイについて
入水自殺したとされるシスイ。
ダンゾウがそのシスイの眼を持っていたことから、
その死体の在り処はダンゾウが握っていたとも考えられますが、
カブトがそれをつかめなかったというのは疑問が残ります。
――シスイは本当に死んでいるのでしょうか?


大軍が地中から攻めてくることを知った連合軍。
先手を打たせまいとすぐに対策をとります。
前進を続ける白と再不斬にも連合軍側の奇襲攻撃。
事態は急展開を迎えそうです。