519 『尾獣玉』

1.尾獣玉(1)

「……アンタの技術…、そして造った傀儡は朽ちる事のないもんだ。
 そこに宿る魂を受けつぐ後世の操演者がいてこそな!」

ミイラ取りがミイラとなってしまったサソリに
引導を渡したカンクロウ

「フッ…それこそ…
 オレの望んだ芸術の形か…。」

後世に受けつがれる朽ちることのないもの。
それこそがサソリの望んだ芸術であり、永久美であることを悟ります。
それがサソリが生きた証であり、
それに従って生きて死にたいと思う理想なり信念だった――

「“父”と“母”の傀儡もお前に託す……。
 そしてお前が死ぬ時はさらに次の者に託せ…。
 …あの二体は…。」

満足したようにカンクロウにそう言い残し、消え行くサソリ。

「…これは生贄…。どういう事だ。
 穢土転生は死ぬ事がない術だと聞いたが…?」

サイの兄の魂が消え、そこには生贄となった者の屍が残されています。

「カブトが術を解いたんじゃねーかな?」

とオモイも不思議そうに呟きます。

「サソリの方も居なくなってるが、そうは考えにくいな…。
 うるさいのがまだ居る。」

と日向ホヘトは傀儡に閉じ込められたデイダラの方を見やり、言います。

「完璧に思えたこの穢土転生とか言う術にも、穴があったみてーじゃん。
 人の気持ちをそんなに感嘆に縛りきれるもんでもねーだろ。」

不死身、難攻不落と思えた穢土転生の術の綻び。
カンクロウは人の魂が、生き死にが、
そう簡単に愚弄できないことを、されてはならないことを、
この戦いで痛いほど痛感したことでしょう。
サイ、オモイ、ザジに奇襲命令を出します。


一方、トビのアジトへ帰ってきたカブト。
仕留めたアンコを連れ帰ってきたカブトを見て、
アンコの存在を知りながら、わざとアジトへ近づけたことを悟ります。

「(カブトめ…ハナからこっちと連合軍の共倒れを狙う気だろうが、
  そうはいかんぞ…。利用するのはこちらだ。)」

――と心の中で呟くトビ。
しかし、策士であるカブトが本当にそう考えていたなら
わざわざこれ見よがしに仕留めたアンコを連れてくるでしょうか?
カブトがアンコを連れて帰ってきたのは、
表面上敵を仕留めたことを見せて信用させるため、
とトビはおそらく解釈しているのでしょう。
そして裏側では共倒れを狙っているのではないか、という猜疑心が生じています。
しかしそんなに裏が読みやすいようなことをわざわざして見せて
反感を買ってしまうことの方がマイナスであることを、
当のカブトが一番理解しているはずです。
もちろんこの場合は、むしろその“反感”がプラスだからこそ、
カブトはあえてこのようなマネをしてみせたのでしょう。
これは牽制だと思われます。
トビの軍10万におよぶ兵力ゼツ。
柱間の細胞で強化するフリをしてゼツの制御も掌握しようとしているかもしれません。
そして穢土転生によるかつての一騎当千の忍たちも、
彼の一声で棺へと戻すことができるのです。
腹の底では信用しあっていない。
表面上利害は一致しているようで、
お互いに呑まれないように牽制しあいながらも、
相手を呑み込もうと画策している様子に見て取れます。

2.尾獣玉(2)

人柱力が扱うことのできる最強の術を教える――
ビーはナルトに尾獣モードになるように命じます。
危なくないかと不安がるナルトに、
純粋な尾獣なチャクラだけ取り出せば、暴走することはないと伝えます。
しかしナルトは挑戦してみるものの、間抜けな狐姿になることしかできず失敗。

「…ダメか…残念。
 九尾と本当に仲良くなったわけじゃないからな…。
 尾獣化は惨敗…。」

簡単に八尾の姿へとなってみせたビーとは裏腹に、
九尾と和解し、協力関係が築けていないナルトは、
尾獣化をすることは難しいようです。
そもそも、今回ビーと八尾がナルトに教えようとしている究極の技・尾獣玉は、
人柱力でも尾獣化してやっと扱える代物。
チャクラを形態変化し圧縮、そのまま口から吐き出す技です。
ビーと説明を交代した八尾は、尾獣チャクラモード、
すなわち九尾のチャクラを引き出し活性化した状態でのリスクを説明します。

「基本、尾獣モードを使ってる間、
 お前自身のナルトチャクラが九尾に取られていってる!
 ナルトチャクラを一旦棚上げして、九尾チャクラを使うからな。
 もちろんナルトチャクラを取られ続け…
 0になればちゃんとあの世行きだ。」

この場合あの世行きとなるのはナルトだけ。
つまり九尾が解放され、完全にナルトが呑まれた状態となると考えられます。
それを聞いて驚愕するナルト。

「じゃあ何で八尾のオッチャンは大丈夫なんだってばよ!?」

と八尾に訊きます。

「ナルトは九尾チャクラを取っただけで、
 本当の意味で九尾を手懐けてる訳じゃねェ。
 オレとビーも昔はそうだった。チャクラを取り合ってたもんだ。
 それと尾獣チャクラモードで影分身は使わない方がいい。
 ナルトチャクラが分身下人数分取られていく…。
 一気になくなって死ぬぞ。

この八尾の発言は何を言っているのかというと、
 ナルトチャクラが九尾に還元されるスピードは、
 チャクラ源がいくつあっても1つのチャクラ源から還元されるスピードは同じ

であることです。例えば、10Lのバケツの中に入った10Lの水を、
バケツから毎分1Lで流しに流し続けたら10分かかりますが、
1Lのグラス10杯に分けて一斉に全てのグラスの水を、
毎分1Lで流しに流したら元の水の総量10Lは1分でなくなりますね。

「へへでもオレのチャクラってばもれ出してた九尾チャクラも、
 “カンゲン”してるとか何とかでいっぱいあるから…」

なんて余裕な発言をナルトがすると、

「アホ!! 九尾の力をなめんなよ。
 お前のチャクラガンガン取ってくぞ!!」

と八尾は叱咤します。
つまり、ナルトのチャクラ量{Q}_{naruto}、九尾のチャクラ量{Q}_{fox}に対して、


Q_{fox}>>Q_{naruto}

な上に、ナルトが九尾のチャクラを奪い取る速さ|\frac{dQ_{fox}}{dt}|
および九尾がナルトからチャクラを奪い取る速さ|\frac{dQ_{naruto}}{dt}|についても

|\frac{dQ_{naruto}}{dt}|>|\frac{dQ_{fox}}{dt}|

は簡単に想像ができます。その上、n体に影分身したら、
その速さはn倍になってしまうわけですから、
ガンガン取ってくというのもあながち嘘ではありません。

「本来は己と尾獣とでチャクラのやり取りを交渉して決めるもんだ。
 九尾はそんな事をするタイプじゃないがな。
 それと九尾から綱引きで取った九尾チャクラも限りがある。」

ところがナルト側から見れば全量を吸い取れるわけではなく、
ある量で頭打ちになってしまうということです。
すなわちこれはある量Q_{max}になって以後ずっと
時間経過後もその量が保たれた状態にあるか、
時間をかけてある量に近づいていくQ \rightarrow Q_{lim}かの2タイプでしょう。
明らかにナルトが不利のリスク大の状態です。
尾獣玉の習得よりもナルト自身の技を昇華させた方が良いと結論した八尾。
尾獣玉は嘔吐の間隔に似ているというので、
そのままの状態でやってみたけどうまくいかなかったナルトは、
必殺技・螺旋丸が頭に浮かびます。

「螺旋丸は影分身しねーとできねーから、
 このモードには向いてねーよ。
 チャクラの“放出係”と回転・圧縮してとどめる“形態変化の係”、
 の二人分の手が…」

しかし螺旋丸を一人でつくるのは苦手なナルト。
いつも影分身を伴ってつくっています。

「尾獣チャクラ、お前の手足と同じ感覚♪
 本物の手足と錯覚♪」

とビー。
ナルトも九尾のチャクラを手足のように用いてチャクラを練ってみます。
するとまるで尾獣玉のようなチャクラの圧縮のされ方が起こります。
螺旋丸はまさしく尾獣玉とまったく同じ原理のもとでつくられる術だったのです。
螺旋丸を誰に教わったのかナルトに尋ねるビー。

四代目火影…!!! なんて偶然だ…運命か! 脅威♪」

とその術の考案者が四代目火影と知って感激した様子。
(ナルトが四代目火影の息子であることは知らない様子)

「螺旋丸! これは尾獣玉とそっくりのやり方! 共通音符
 尾獣のこの技を参考に考案された術! それが螺旋丸だったんだ!!
 まるでお前に尾獣玉を託すためかのごとく!! 強運♪」

ミナトを持ってしても未完であった術・螺旋丸。
そして自来也がミナトの遺志を継ぐように、
ナルトの九尾チャクラを開放させ身につけさせたかった“あの術”。

「尾獣化してやるとカンタンだが、人間の状態では、
 まず形態変化が難しくてできない。しかし!
 回転を加えて安定を増してる仕方!!」

本当は性質変化を加えた螺旋手裏剣のような術でなくて、
尾獣のチャクラ練りこんだ“尾獣玉”こそが完成形だったのでしょう。
しかし螺旋丸のようにうまく術を発動できなかった、とナルト。
最後にビーがコツをいいます。

「尾獣チャクラは+の黒チャクラと、
 −の白チャクラの2つが合わさってる…。そのバランス!
 圧縮する時、白黒バランスを2対8にすると球になる!」

これを身につければ、
ナルトは螺旋手裏剣のさらに上の術、
九尾チャクラ解放状態での新しい術が身につけられます。