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1.忍の死に様(1)
自ら舌を噛み、朦朧とする意識を断ち切った鬼鮫。
最後の力を振り絞ります。
「往生際の悪い奴だ!!」
ガイが拳を振りかざします。
大事な暁の情報源として、
なんとしても生け捕りでなくてはならない。
しかし八門遁甲のうち驚門まで開いたガイには疲労もあるのでしょう。
水牢の術で拳速を弱められ、
鬼鮫に攻撃が届くことはありません。
すかさず鬼鮫は口寄せの術によって鮫を召喚します。
「慌てる事はない。
いくらこの人でも、この状況…もう何もできないさ…。
ボクが捕える!!」
満身創痍の上に、手練の忍たちに囲まれている鬼鮫。
状況を冷静に判断したヤマトが、
鬼鮫を再び拘束しようとします。
「(イタチさん。アナタの言った通りですね…。)」
鬼鮫の回想が始まります。
「今日からアナタと組む事になった者です。
元霧隠れ。忍刀七人衆の一人、干柿鬼鮫…。
以後お見知りおきを。」
まだ二人組(ツーマンセル)を組む前のイタチと鬼鮫。
イタチがうちは一族事件の後、暁入りして間もない頃の話でしょう。
「で…、アナタは元木ノ葉隠れのうちはイタチ。
噂は聞いてますよ…。
うちはの同胞を片っ端から殺したとか…。
アナタの事はよく分かりますよ………。
だからこそ、“暁”の中でアナタと組む事にしたんですから……。
同胞を殺すあの感覚は口で言えるもんじゃありませんよねェ…。
…イタチさん。」
少し狂気じみた笑みを浮かべるようにイタチに語りかける鬼鮫。
自分は味方なのか敵なのか、
自分の本当の居場所はどこなのか、
全てが偽りと思える中を生きてきた鬼鮫。その笑みが語るのは、
同じ境遇を歩んできた見つけた仲間を見つけたからなのか、
それとも自分の居場所を見つけられないでいた自分への嘲りもあるのか、
その慇懃な口調からは到底鬼鮫の本心は分からないでしょう。
しかしイタチという人物は、
その鬼鮫の中にあるものをいとも容易く見抜きます。
「……よくしゃべるなお前。
オレの事を分かっているつもりだろうが、
お前自身はどうなんだ?
霧の中を迷ってここへ来た…。
自分で行き場所を決められないごろつき。……違うか?」
浅瀬へと向かう静かな波が浅瀬で水しぶきをあげるような、
桟橋から海を見下ろす二人に一瞬の間ができます。
「いい事を教えてあげましょう…。」
鬼鮫は先ほどまで背負っていた大刀鮫肌で水面をさします。
「…鮫は卵胎生といい、
卵をお腹の中で孵化させてから出産するんですが…、
ある鮫は卵から産まれた稚魚の数と、
母鮫のお腹から出てくる稚魚の数が違うんです・
……どうしてだと思います?」
鬼鮫は続けます。
「共食いですよ…。
孵化してすぐ母の子宮内で稚魚同士が食い合うんです。
生まれてすぐ仲間内で殺し合いが始まる。
…自分以外は全て食うためのエサでしかない……。
今日からアナタも私と同じ“暁”の仲間です。
気をつけて下さい……私には…。」
仲間を殺しても生き続ける自分を、
幼い頃から共食いする鮫に例えて、
イタチに自分のことを遠まわしに伝えます。
「お互いにな……。」
イタチも万華鏡写輪眼を見開いて見せます。
「クク…。まあ…仲良く楽しくやりましょうよ。
お互いが最後の相手にならない事を願ってね。」
そう告げる鬼鮫に、イタチは言います。
「一度でも仲間に手をかけた人間は、
ろくな死に方はしないものだ。覚悟はしておけ。」
一般論めいた話に、鬼鮫はその真意を汲み取れなかったようです。
「クク……。ならアナタも私も…、
すでにろくでもない人間って事ですね。」
仲間を、同胞を殺し、
今なおこの偽りに満ちた世界を生き続けている自分たち。
ろくでもない生き方にありきろくでもない死に方。
鬼鮫はイタチの言葉をそう受け止めたようです。
しかし――
「イヤ…
オレ達は魚じゃない。人間だ。
どんな奴でも最後になってみるまで、
自分がどんな人間かなんてのは分からないものだ………。
死に際になって自分が何者だったか気づかされる。
死とはそういう事だと思わないか?」
イタチも自来也と同じく、忍の死生観を持っていたのでしょう。
忍とは死に様――。
それはなぜかに答えるようなイタチの発言です。
そして魚とは違って、人間は――
2.忍の死に様(2)
かつて一族に狼藉者扱いされたとき、
イタチはこう言いました。
「一族などと…ちっぽけなモノに執着するから、
本当に大切なモノを見失う…。
本当の変化とは規制や制約…、
予感や想像の枠に収まりきっていては出来ない。」
本当に大切なモノ。
それはこのときのイタチの中に確固としてあったと思います。
そして弟サスケとの決死の戦い。
最期にサスケに見せたあの笑顔こそ、
イタチは自分が何者であったかを見せた瞬間だったのです。
「(イタチさん……。
どうやら私はろくでもない人間…
…でもなかったようですよ…。)」
取り囲む忍たちの予想と反して、
口寄せした鮫に己を食わせ自害する鬼鮫。
その様子に皆呆気にとられます。
それは仲間を斬り続けてきた男の末路――
でも最期はその“仲間”を信じて、自分を棄てたのです。
最期に鮫に食われることを望んだのも、
使役してきたであろう鮫を“仲間”としてねぎらうようにも感ぜられます。
「敵のオレ達に仲間の情報を渡さないためにやったんだ。
“暁”の中にも仲間の事を思って動く奴らがいるんだってばよ。」
長門や小南の姿を思い浮かべるナルト。
つながりを託し、想いを貫こうとしているのは自分ばかりでない。
ナルトは気づいているでしょうか。
「敵ながらアッパレだ!
忍の生き様は死に様で決まる!
干柿鬼鮫! お前の事は一生覚えておこう!」
ナルトの肩を叩いて、ガイは言います。
なんとか取り返した巻物。
それを徐に開き中を確かめようした一同に変化が起こります。
それはブービートラップ。
水牢の術と同時に鮫がその水牢の中に召喚され、
皆の動きを封じます。
一時しのぎとはいえ、時間稼ぎには十分。
本当の情報を記した巻物は、
その鮫のうちの一体の口にしっかり携えられ、
海原の中へと消えていきます。
「輪廻眼…。長門の隠し場所を素直に話す気はなさそうだな……。」
輪廻眼を回収しにトビが雨隠れの里、小南のもとへやってきます。
「アナタが私の前に来る事は分かってた。
待っていたわ…。アナタを仕留めるために。」
小南はトビとは決別している様子。
ナルトたちに託した希望。
それを守るためにトビと一戦を交えようとしています。