552 『火影の条件』

1.火影の条件(1)

「じゃあな。」

長門は満足そうな笑みを浮かべ、
須佐能乎のひょうたんに封印されていきます。
それとは対照的にこぼれていた笑みが、
悔しさに歪んだ表情に変わり、
地面を拳で突くカブト。

長門め…。
 やはり機動力に欠けていたか……。
 口寄せ輪廻眼による共通視界で
 機動力を補うつもりが…、
 さすがにかわせなかったか…。」

イタチは口寄せされていた動物たちや閻魔の輪廻眼に、
手裏剣を放っておき、あらかじめ機動力を軽減させた上で、
十拳剣の一太刀を長門に浴びせています。
長門を確実に封印するために、
ここ一番の短い時間、失敗できない状況で、
用意周到かつ華麗な仕事ぶりをやってのけたイタチ。

「そろそろ…、取って置きを出すしかないね……」

と再び邪悪な笑みを浮かべるカブト。
長門やイタチを上回るさらに強力な忍がいるのか、
それともここで、まさしく"切り札"としてとっておいた
カブトの奥の手と目される術を使うのでしょうか――

2.火影の条件(2)

「…このエドテンとかいう術…、
 気に食わねェ!
 戦いたくねェ人と戦わされる……。
 おそらく他の戦地でもそうなんだろ?」

ナルトは穢土転生の術おぞましさとあさましさに憤慨といった様相。

「穢土転生はオレが止める。
 マダラはお前達に任せる。」

頷くようにナルトと目を合わせたイタチ。
穢土転生の術者をイタチは追うと言います。

「…ここへ来る途中に、
 エドテンセイの奴と戦った。
 砂の忍がそいつを封印はしたが…
 どうやら殺せはしないヨウだOK?
 この術は弱点の無い完璧な術だそうだOK?」

とビー。

「さっき言ったハズだ。
 どんな術にも弱点となる穴が必ずあると。」

とイタチは言います。
この世に"完全"というものはない――

「どうだろうな…」

しかしビーは懐疑的な姿勢を崩しません。
ビーすらその綻びを疑うような完全無欠の術。
穢土転生の術の難攻不落っぷりが、如実に表れています。

「イヤ…オレが止める!
 さっきオレも言ったハズだ。
 …後はオレに任せてくれって!」

と意気込むナルト。
影分身をしますが、うまくいきません。
覆っていた九尾のチャクラも解けてしまいます。

「九尾チャクラモードの使いすぎだ…。
 それ以上、分身はするな。ナルト!」

とビーは言います。
先ほどの長門の人間道の術や、
チャクラを吸い取る餓鬼道の封術吸引の影響も
大きいと考えられます。
九尾チャクラを維持するのに必要である
燃料となるチャクラを使い果たしてしまったのでしょうか。

「一人で無理をしようとするな。
 この穢土転生を止めるためには、オレが打ってつけだ。
 考えがある……。」

穢土転生について、
何らかの攻略法を思いついているというイタチ。
しかしナルトは声を振り絞るように言い張ります。

「…この戦争は全部オレ一人でやる!!
 全部オレが引き受ける。
 …それがオレの役目なんだ!!」

力が入らないといった様子で、肩で息をするナルトを見て、
イタチは言います。

「…お前は確かに前とは違い、強くなった…。力を得た。
 だがそのせいで大事な事を見失いかけてもいるようだな。」

力を得たことで、大事な事を忘れている――
ふと我に返ったようにイタチの方をナルトは見ます。

「…いいか。よく覚えておけ。
 お前を嫌っていた里の皆がお前を慕い始め…、
 仲間だと思ってくれるようになったのは、
 お前が他人の存在を意識し、
 認められたいと一途に頑張ったからだ。

他者を意識し、認められたい一心で、
己を磨き上げていったナルト。
だからこそナルトはいま、
里の者たちに認められるまでになった――
自分を闇に閉ざすことなく、
光を求めてあがき続けたからこそ得られたものなのです。

「お前は"皆のおかげでここまでこれた"と言ったな。
 力をつけた今、他人の存在を忘れ、驕り、
 "個"に執着すればいずれ…、
 マダラの様になっていくぞ。」

この場合、"他人の存在を忘れている"状態とは、
何とかしようとするあまり、
"己の力しか信じていない"状態で、
"他人の力を信じていないという"状態です。
それはまさしく自分を闇に閉ざそうとしていることと同じ。

「どんなに強くなろうとも、
 全てを一人で背負おうとするな…。
 そうすれば必ず失敗する。」

ここでは触れられていませんが、
おそらくナルトには先ほど長門が残してくれた言葉が
頭をよぎったはずです。

「シリーズの出来ってのは三作目…完結編で決まる!
 駄作を帳消しにするぐらいの最高傑作になってくれよ…ナルト!」

"平和"を求めるあまり、
あやまった方向に力を向けてしまい、
自分の考える"平和"しか見えていなかった長門
自らを失敗作の第二部と言い、
第三部のナルトにそれを託しました。
それに力強く親指を上に突き立て、ナルトは頷きました。
ナルトがここまで片意地張っていたのは、
長門との約束が強く意識されているからの事なのでしょう。
しかし冷静に考えてみると、
ナルトもかつての長門と同じ状況に陥りかけているのです。
長門に誓った平和への答え――"信じる"こと。
その"信じる"平和が他人をなおざりにしているものだったら、
他人の力や信念を信じずに築き上げるものであったなら、
憎しみという歪<ひずみ>が生まれて結局は同じ。

「お前の父ミナトが火影としてあったのは、
 母クシナや仲間の存在があったからこそだ。
 …お前の夢は確か父と同じだったな…。
 なら覚えておけ。」

ナルトを諭すように粛々と語るイタチ。
平和への三部作。
第三部は、第二部と同じ過ちを繰り返さないためにも、
こういった人物の存在は、運命付けられていたのかも知れません。

「"火影になった者"が皆から認められるんじゃない。
 "皆から認められた者"が火影になるんだ。
 …仲間を忘れるな。」

仲間を忘れてはいけない――
仲間の力を信じることができなければ、
仲間とはいったい何なのか――ということ。
火影とは里の民から認められるからこそ
はじめて意味のある称号。"平和"だって同じです。
ナルトが出した"信じる"という答えは、
曖昧ですが間違ってはいません。
だから長門もナルトに託してみたくなったのでしょう。
ですが"信じる"とはいっても、
何を信じるかは履き違えてはいけません。
繰り返しになりますが、"独りよがり"では、
イタチの言うようにマダラと同じなのです。

「ナルト…。
 オレはイルカってのと約束してんだ、だいたい。
 お前を守るってな…。一人じゃ行かせねーぞ! そもそも。
 オレはまだ生きてる、ピンピン。」

と告げるビー。
一人で全て背負い込まなくていい、
そう言ってナルトを行かせてくれたイルカの言葉が過ぎります。

「確かに……。
 オレが何とかしなきゃダメなんだって…
 思い込みすぎてたかもしんねぇ…。」

ナルトは決して皆のことを心から忘れていたわけではないでしょう。
皆のためを思って、だからこそ自分がやらなければならない、
という想いに駆り立てられていたのだと思います。
確かにそういう局面も場合によってはあるでしょうし、
そう思うことが間違っているわけではないのですが、
それが罷り通らないような、
どうにもならない大きな大きな事柄であればあるほど、
皆が各々持っている力を信ぜずして、力を合わせることなくして、
それが成されることもないのです。
今回は後者。
仲間を人一倍大切に想い、信じていたつもりが、信じていなかった。
ナルトはショックを受けたように項垂れます。
――と突如、シスイの眼をもった烏が黒炎に包まれます。

「シスイの眼は十数年は役に立たない。
 …もうサスケの時には使えないだろうし。」

とイタチ。

「それにお前はシスイの眼以上のものを持ってる…。
 それはシスイと同じ心だ。
 シスイが渡したかった本当のものはそれだ。
 もう眼はいらない。
 今のお前ならこんな眼を使わなくても、
 サスケを止められる。」

シスイが大切にしていた自己犠牲の心。
仲間を守る為に己の身を擲<なげう>つ覚悟。
ナルトにもそのくらい仲間を大切に想う心があることを
イタチはもちろん見抜いています。

「今ならアンタも直接サスケに会える!
 …今度こそ――」

と食い下がるナルトですが、
もうイタチの心は決まっていました。

「イヤ……、
 オレは一人で何でもしようとし…失敗した…。
 今度は…それこそ仲間にまかせるさ。」

そもそもイタチは何が大切で、
何が人の世の道理なのかこれほど理解していた人物。
一族事件や決闘のときに、
サスケに言い放った鬼のような言葉の本意もここにあったはず――。
サスケを心から大切に思うからこそ、反面教師として、
"憎むべき兄"を演じ続け最期を遂げたわけですが、
かえってサスケは闇に染まっていきました。
だから"失敗"とあえて言い切ったのでしょうか。
サスケのことはナルトに託されたのです。

「ただ強いってだけの忍じゃないな…
 アンタって奴は。」

芯の通ったイタチの人柄を見たビーは賞賛します。

「キラービー…。
 ナルトをたのむ。」

そう言って去っていくイタチに、

「オウ! ヨウ!」

と言って力強く返事するビー。
ナルトもまたその姿をキリッとした眼差しで見送ります。

「オレ達も行こう…。
 ビーのおっちゃん!!」

3.火影の条件(3)

「だから…今のオレを攻撃しても、
 無駄だって言ったよなコラ!!!
 今のオレは蜃気楼だ!」

蜃<おおはまぐり>が見せる蜃気楼によって、
偽者の像を見せられている忍連合の忍たち。
二代目水影の的を得ない説明もあって(?)、
全ての攻撃がすり抜けてしまい戸惑います。
蜃はなにかを噴出し空気の密度を操作している様子。
もしかしたら、これが攻略の足がかりになるかもしれません。

一方、三代目雷影と戦うテマリたち。
風遁・掛け網によって風の網が雷影を捉えます。
二代目土影・無と戦うオオノキと我愛羅ですが、
肝心なときにぎっくり腰が来てしまいます。
絶体絶命。死に体のオオノキに塵遁を構える無ですが、
背後から螺旋丸が迫ります。