494 『キラービーとモトイ』

NARUTO-『ナルト』-では人柱力という存在がキーワードになっています。
主人公であるナルト、そしてその中に父・波風ミナトによって封じられた九尾。
修羅の道を歩みかけたけれど改心し風影となった我愛羅と守鶴。
そして今回、焦点となるのはビーと八尾。

彼らはそれぞれの里の長である影の縁の者であるのに、
その中に眠る尾獣なるものの力を恐れ、忌み嫌われるあまり、
迫害される人生を歩んできました。
理解してくれる者が手を差し伸べてくれたことで、
荒れ狂うこともなく、徐々に里に馴染んでいった者もいれば、
尋常じゃない迫害や差別に歪曲し、屈折していった者もいるでしょう。

ビーも例外ではありませんでした。
“人柱力であるゆえの苦悩”
その一端をモトイという忍の視点で描かれた今回の話は
かなり深いものでした。

1.キラービーとモトイ(1)

三十年程前の話です。
人柱力によって八尾の力を完璧に制御することはできていなくて、
しばしば人柱力という封印を破って、
中にいる八尾は暴れ、人々を恐怖と悲劇に陥れていたようです。

「先代の三代目雷影達エリートは、
 そのつど八尾の暴走を止めていた。」

モトイの父親もそのうちの一人。
しかし運悪くモトイの父は八尾の角に貫かれてしまいます。
そのとき現・雷影エーによって、八尾の角の一つが切り落とされたようです。
後に判明しますが、ビーはこのとき5歳ほど。
エーは先代雷影とともに戦っていて、
体格も風格も大人びているので、
彼らは10〜15歳くらい歳が離れた兄弟であると思われます。
エーによって角を切り落とされた隙ができ、
先代雷影が封印術によって八尾をなんとか壷に封印することができました。

「どうにか暴れるのを抑え、
 八尾をいつもの封印の壷に押し込んでいたが…、
 その度に多くの死傷者が出ていた。」

“いつもの”とあるように一度や二度ではなく、
何回もこのような事態が起こっていて、
その度に多くの犠牲者が出ていたようです。
つまり八尾という暴れ牛(タコ?)は、
人柱力という束縛を破って暴れだし、その度に封印されていたわけです。
そう考えるとナルトの中の九尾はまだ安定している方でしょう。
しかし、なぜそんな危険な存在を、
安全と思われる封印壷からわざわざ不安定な人柱力とするのか、
その答はモトイによる次の台詞から推測できます。

「だがリスクはあっても他国とのパワーバランスを有利に保つには、
 八尾の力をコントロールする必要がある。
 人柱力の実験は続けられていた。

雲隠れの里の方針としては、
現・雷影エーを見て分かるように武闘派です。
日向の一件があったように、
自里の富国強兵には寸暇を惜しまないほど貪欲であった。
そのうちの一つ、どうしても成し遂げなければならない課題として、
八尾の完全制御という課題があったのでしょう。
そしてこの計画に多くの人柱力や忍が犠牲となっていった。
その犠牲となった父親。幼くして父を亡くしたモトイの苦悩が明かされます。

「ビーさんとオレは友達だった…。
 父が亡くなった時、オレ達はまだ五歳だった。」

モトイとビーは拳を突き合う仲だったようです。
しかし父親を亡くし、
しかも亡くした原因がビーのなかに存在するようになり、
モトイがビーを見る眼は変わりました。

「八尾をコントロールする事などできはなしない…。
 また多くの犠牲者が出る…。そう思っていた。
 そしてオレはだんだん八尾への憎しみが増し、
 子供ながらにどうにか復讐してやりたいと思うようになっていた…。」

父がいなくなり変わり果てた母を見つめる幼少のモトイ。
それと対極に、ビーはいつも笑っていた。

何も知らずにいつも笑っているビーさんがだんだん憎くなり、
 八尾への憎しみが人柱力のビーさんへとすり替っていった。
 …ビーさんを殺せば八尾も死ぬと思っていた。」

なぜ人柱力が疎まれ、蔑まれるのか。
人柱力の中にある尾獣という巨大な存在によって
踏みにじられた人々の憤りや悲しみは、あまりにも大きすぎて、
人々は人柱力と尾獣とを同一視して、
その矛先を人柱力に向けてしまう一種の倒錯が起こるのです。
それがまだ自然災害などのようなものであれば、
人に向けられることはないでしょう。
人柱力が不幸なのはその災厄が身近に“人”として存在することにあります。
しかも人柱力という軍事機密だけに、
人柱力とはどういうものなのかといった情報は隠蔽され、
一般の人々にとって「人柱力=尾獣」という概念を助長しかねないと考えられます。
そしてこの数え切れない憎しみの対象となることで、
人柱力は惨憺たる人生を歩むことになるのです。

2.キラービーとモトイ(2)

フードを被って顔を隠した幼きモトイは復讐を決行します。
しかし運悪く、ビーの背負っていた刀の柄が振り向き様にあたり、
もっていたクナイを弾かれ、復讐は失敗してしまいます。
何が起こっていたか理解していなかったかのようなビー。
笑顔で拳を突き出します。
しかし罪悪感や恐怖感からその挨拶に答えることはできず、
モトイは逃げ出してしまうのです。
フードを被っていたとはいえ、挨拶を求めてきたビー。
ビーは気づいていたのかもしれない、とモトイは話します。

「…憎しみはすぐに消えたわけじゃない。
 …その後もずっとビーさんの後をつけるように監視し続けていた。
 でも…オレだけじゃなかった。
 ビーさんは何度も里の者達から疎まれ……、嫌われてきた…。
 ずっとな…。
 政治のために勝手に人柱力にされ、
 里を守るために存在しているにもかかわらず……。

人柱力であること。
そのことに自分の存在理由を求めても、
まわりの人々はこぞってそれを否定します。
自分が生きていくことへの存在理由とか、
これに従って生きていこうと思う何かとか、本当に大切なモノとか、
生きていく価値とか、まだ分からない状態で模索しているならまだ幸せでしょう。
でも全て決められてしまったうえに、
それが全て否定されている中で生きるとはどんなに苦しいでしょう?

「里の者達からは疎外され続ける…。
 常人では耐え難い生き様だ。
 …オレ以上に苦しんでいるのはビーさんだと気づいた。」

でもビーはめげなかった。
決められてしまった枠組みの中で、
少しずつ認められるものを自分でつくり育てていった。
誇りをもって自分を表現していったのです。
そしてモトイもビーの苦しみと素晴らしさに気づくのです。
言葉にしてしまえば簡単ですが、
八尾への憎しみを背負い続け、否定され続けるなかで、
そんな生き方ができるビーの器は計り知れない大きさといえるでしょう。

「…本当はビーさんに聞いてほしかったのかもしれん…。
 ビーさんの代わりにナルトに話してしまったのは、
 同じ人柱力だからだろう…。
 …だがいつか本当の事をビーさんにも
 話さなければと思っている…。
 でなければ懺悔にはならない…。」

ナルトに自分の話を聞かせた理由を、モトイはそのように言います。

「(都合がいい奴だぜ…こいつ…)」

内なるナルトが囁きます。
憎しみに支配されて、一度は人柱力を殺そうとまでしました。
それなのに、いまは尊敬している、
――理解しているといわんばかりの様相。
あまり自分の損得で動くことがないナルトも、
心の奥底にはそういう正直な感情もあることが描かれていて、
それがナルトの弱さであり、憎しみと結びつくところでもあるでしょう。
一人にしてくれと言って波止場のような岩場で考え込むナルト。
疎まれていた幼少。
そして里の英雄として感謝されている現在。
我愛羅も風影になって皆に認められている。
でも、自分はどうだろう――
イルカ先生に理解してもらえ、
同期のみんながいて、それに…
でも心のどこかで、まだみんなを信じきれないでいる。

確かに…里の皆に信じてもらえてるなんて、自信がねーよ。

いつも前を向こうと懸命だったナルトらしからぬ台詞。
しかし何だかすごく現実味を帯びていて、
普段なら持ち上げられて調子に乗っても良さそうな、
あまり現実主義的でないナルトもこのような考え方をするくらい、
いかにナルトが幼少の頃辛く思い悩んできたかが推し量られます。
ナルトが一人悩んでいると、再び巨大イカが登場。
モトイは人柱力であるナルトを前に、
自分がどう思っていたかなどを話して、
急にその場を離れたナルトが気になったのでしょう。
途中、不意をつかれて巨大イカに捕らえられてしまいます。

「やめろ!! タコのオッサン!!
 モトイのおっちゃんは本当にタコのオッサンの事を信頼してんだァ!!」

しかしナルトは見間違えたのか、
どうやらビーがモトイの真実を聞いて激怒し、
襲いかかったと勘違いしたらしく――
しかし、その言葉は“人柱力が当然感じる感情”よりむしろ、
モトイ側に理解を示した発言です。

イカだァ――!!」

とヤマトに全力で突っ込まれています(笑)
まぁしかしそんなナルトの言葉が伝わったのか、

「オレ様八尾は再度登場!!
 イカれたイカはサイドアウト!!」

折りよく八尾の姿でビーが登場。
イカを蹴散らします。
自分の真実を知っていながら、なぜ助けたのかと尋ねるモトイ。
しかしビーは笑顔を浮かべて言います。

そんな事あったっけか?

そうして拳を突き合わせる二人を見て、ナルトも満面の笑み。
ビーの格好よさが際立っています。