484 『それぞれの第七班』

1.それぞれの第七班(1)

香燐を治療するサクラ。
そのサクラを香燐が朦朧とした意識の中で見つめます。

「(敵の……お前の気持ちなんか分かりたくもねーんだ。)
 だから…だからウチの前で……、
 そんな悲しい顔で泣くんじゃねーよ…!
 ……ちくしょう…)」

咽<むせ>び泣くサクラの様子を見て、
もらい泣きするように涙を流す香燐。
変わってしまったサスケを、その現実を、
受け止めるに耐えなくて――、
その想いは、香燐も痛いほどよく理解できるものだったのです。
ちくしょうには、
サクラの気持ちと同じ自分の想いにもう答えてくれることはないだろう、
憧憬の人物が変わってしまった現実への嘆きが重ねられているのです。

「お前はサスケを連れ戻したがっていたな。
 だが上手くいかなかったらどうする?
「サスケはまだ純粋だ。簡単に何色にも染まる。
 そうなった場合、お前はヤツを止められるのか?
 サスケを殺してでも。」

イタチの言葉を思い返すナルト。
ナルトはその問いかけに木ノ葉を守り、
サスケも連れ戻すと答えます。
しかしもはや事態はそれを許さない状況にあります。
木ノ葉を守る――ことは結果できたといえるでしょうが、
一時期は九尾である自分を狙うペインによって半壊まで追い込まれてしまった。
そのときペインの――長門の気持ちを知り、
復讐に走るサスケの気持ちが少し分かった気もしていた。

「サスケの友として、
 お前が本当にやるべき事をやれ。」

我愛羅は見えるはずの光を見ようとしないサスケの様子を
ナルトに教えてくれました。

「犯罪者のために頭を下げ、
 仲間の安全のため慈悲を請う。
 忍の世界でそれは友情とは言わん!」
「木ノ葉のガキ…、お前が何をすべきかもっと考えろ!
 バカのままやり通せるほど、忍の世界は甘くない!!」

雷影は仮初で偽りの友情は忍の世界では通用しないことを
ナルトに諭してくれました。
本当の友情を信じるなら、
サスケを友達と思うなら、
サスケの為になすべきことをやるべきだ――。
何を為すべきか――

「会えば…、
 会えば答が分かる気がする…。」

ナルトの中で、まだ迷いがあるのです。
変わってしまったというサスケ――
サクラ同様にまだ受け入れられない、
サスケを信じようとする気持ちが、
みんなが求める“答”を受け入れられない――
だからサスケに会えば、
自分がどういう選択肢を選べばいいか、
その“答”が明確になるのではないか――
ナルトは急ぎます。

2.それぞれの第七班(2)

「…写輪眼ってのはな…、うちはの証だ……。
 うちは一族でもねェ低俗な忍がその眼を見せびらかすな!!」

随分と粗野な口調でカカシをなじるサスケ。
サスケの感情が爆発するのに呼応して、
須佐能乎から矢が放たれます。
それをどうにか万華鏡写輪眼・神威で凌いだカカシ。

「それが“須佐能乎”ってやつか…?」

どうやらカカシは万華鏡写輪眼の秘術・須佐能乎の存在を
知っているようです。知っているということは、
自分なりにオビトの万華鏡写輪眼を使いこなそうとしていた折に、
万華鏡写輪眼についていろいろ調べていただろうことをにおわせます。
サスケもカカシの写輪眼が万華鏡であることに、
少し驚いたようですが、

「助かったのは…どうやらその眼の能力らしいが……
 うちはの力に感謝するんだな。」

と“うちは至上主義”発言を繰り返します。
それに対して本質を追及したいカカシ。

「サスケ…お前の中にあるのは一族だけじゃないハズだ。
 憎しみだけじゃないハズだ。
 もう一度……、自分の心の奥底を見つめてみろ…。」

カカシの言葉を一旦突き返すサスケですが、
木ノ葉の日々を思い返します。
楽しかったはずの日々――
しかしいまの歪んでしまったサスケにとっては、

「全員……笑ってやがる…。
 イタチの命と引き換えに笑ってやがる!!
 何も知らずに一緒にヘラヘラ笑ってやがる!!」

うちは一族に対する“嘲笑”や“軽蔑”という認識に
摩り替わってしまっています。
その笑い、否、
笑顔こそイタチが守りたかったもののはずなのに!!!

「今のオレにとってお前らの笑い声は軽蔑と嘲笑に聞こえる。
 その笑いを悲鳴とうめきに変えてやる!!」

濁った黒のように――まるでヘドロのように粘ついた、
憎悪と復讐で染め上げられたサスケは、
もはやただ殺戮者の階段をのぼっているだけです。

「(こいつはマズイ!!)」

その“黒濁”とでも表現すべき感情が、
須佐能乎の変化を通じてカカシに危機を知らせます。
しかし最も禍々しくその姿を変えたと思われた次の瞬間、
須佐能乎が衰え消えていきます。
視界がかすみ、カカシの姿がぼやけていきます。
その隙に忍び寄るサクラ。

「(サクラ…何で出てきた! よせ!)」

カカシに重荷を背負わせるわけにはいかない。
それがナルトを苦しめてきた自分の贖罪――
そしてそれが自分の覚悟と信じてやまないサクラ。
もう状況を冷静に判断できなくなって、
個人的な感情が先走ってしまっている状態です。

「(…覚悟……したハズなのに…!!)」

でも生来のサクラがもつ優しさからなのか、
どこかでサスケを許してしまっている自分がいる。
サスケに気づかれず背後をとりつつも、
最後の最後でクナイをサスケに刺せないのです。
でもそれはサクラの弱さであり、甘さであり、
非情なサスケはそれを見逃さなかったのです。
サクラの首根っこをつかみ、
サクラの手にするクナイを奪い取ります。

「よせ!! サスケェ!!」

万華鏡写輪眼の反動でよろめき、
助けにいけないカカシの叫びもむなしく、
振り下ろされた兇刃がサクラを絶命させるその瞬間――
黄色い閃光のごとく何者かがサクラを助けます。
写輪眼が解かれたサスケの瞳が見つめる先にはナルトが。
変わり果てたサスケを見て、
ナルトはどんな答を出すのでしょうか。