440 『四代目との会話』

1.四代目との会話(1)

「地爆天星から這い出て来るとはな…なんて力だ。」

巨大な土塊から八本の尾を突き出し、九尾になりかけた姿のそれは、
必死の力で踏ん張るように、体をわななかせます。

「グオオオオ!!! 四代目火影ェ!!!
 来い!!! ズタズタにしてやる!!!」

一方ナルトの精神世界では九尾が檻の中から罵声を轟かせます。

「ズタズタにするって言ってんのに近づかないよ。
 もっともだろナルト。」

ミナトはそんな九尾に一瞥<いちべつ>もくれず、ナルトに語りかけます。

「…………ナルト…ってオレの名前。どうして…」

なぜ四代目が自分を知っているのか、不思議そうな顔をするナルトに、

「ん! …だってお前の名前はオレが名付けたんだから、
 せがれなんだし。」

と言って聞かせるミナト。

「せがれ? じゃあ…オレってば…」

まだ事情が呑みこめてない様子のナルトにミナトは続けます。

「ん! さっきも言ったろ。オレの息子だよ。」

まったく両親の顔など知らなかったナルトは実の父親にあえたことの感動と、
憧れであった四代目火影が実の父親であったことからか、
呆気にとられていた表情がだんだん嬉し涙を浮かべた表情に変わります。
唸り咆え続ける九尾がうるさいからといって、
ミナトの力で二人は精神世界の別の場所へと移動します。

「三代目は何も言わなかったようだから…
 ヒルゼン様は九尾に関わる情報をなるべく伏せておきたかったんだろう。
 息子と分かれば色々と危険が降りかかるからね。
 ……すまなかったねナルト。」

そう諭すミナトに、ナルトは鳩尾に正拳で答えます。
あまりに不測で急な動作だったのか、わざと息子の思いのこもった拳を受け止めたのか――

「何で息子のオレに九尾なんか封印したんだってばよ!!
 おかげでオレってばすっげー大変だったんだぞ!!
 嬉しいんだか腹立つんだか何だか、もう分かんねーってばよ!!」

いままで耐えてきた何かが込み上げて、それを受け入れて欲しいというような、
親に対する子供の甘えにも似た感情が一気に噴き上げてきたという感じでしょうか。

「ナルト…何歳になった?」
「うっ…うっ…16歳…」

泣きじゃくる我が子をあやすような、そんな優しい口調でミナトは話しかけます。

「そうか…もう16か。色々…大変だったよな…ナルト。………。
 息子のお前に辛い思いばかりさせてしまったオレが…
 父親面して謝るのも違うかな…」

十六年という歳月。そして色々な困難を乗り越えてきた我が子。
手を差し出して助けてやることができなかった自分を悔いるようなミナト。

「いいよ…もう…
 四代目の息子なんだから…我慢する。」

ナルトのその言葉に、親心に複雑な思いが駆け巡ったでしょう。
少し苦笑いの様子で、その本当のところを語りかけます。

「お前に九尾のチャクラを半分残して封印したのは、
 この力を使いこなすと信じていたからだ…。
 オレの息子ならと。」

ミナトは続けます。

2.四代目との会話(2)

「なぜわざわざそんな事をしたのかには理由がある…。
 …今から16年前、九尾が里を襲った時、分かった事がある。
 あの時、九尾を操り里を襲わせた黒幕がいる。
 それもかなりの力を持つ忍だ。
 特別な力がなければ到底太刀打ちできない。
 おそらくそいつはまた里を襲う。」

九尾を操った黒幕が里を九尾に襲わせた――ということ。
しかし九尾からは守られたその里も、ペインによって壊されてしまった。

「もう…木ノ葉の里は潰されちまったってばよ…」

ナルトは落胆した表情でそのことをミナトに伝えます。

「ああ…見てた…お前の中からね。」

ナルトが経験してきたことをある程度は共有しているのでしょう。
自来也のことや、ペインのこともミナトは把握しています。
九尾を操った黒幕とはいったいペインでなければ誰なのか――
詰め寄るナルトにミナトはその人物のことを伝えます。

“暁”の一人。面をしている男だ。

マダラあるいは元水影――とは言わなかったミナト。
そこまでつかんでいなかったのか、あるいはそういわない理由があるのか。

「あの時…奴はオレの動きを全て見切った…。
 ただ者じゃないよ…。おそらくペインはそいつに利用されているだけだ。」

黄色い閃光とまで言われた瞬速すら見切られていたといいます。

「違う! ペインは木ノ葉に恨みを持ってた!
 昔同じように自分たちの里もやられたって!」

ペインが利用されている――そんなはずはない、と言うナルトにミナトは続けます。

「………。その通りだ…。だからそこを利用された。」

九尾、そしてペイン。何故、黒幕は木ノ葉をそこまで狙うのか。
ミナトは沈黙します。

3.四代目との会話(3)

「この世に忍のシステムがあるかぎり、平和な秩序はないのかもしれない。」

ふと、ミナトは“平和”について口にします。

「ペインはお前に平和について問うたが…
 答を見つけるのは難しい…。
 大切なものを救おうとすることで戦いが生まれ、
 愛が存在し続けるかぎり、同時に憎しみが生まれ、憎しみに忍が利用される。」

そもそも誰もが最初から憎しみに浸ってやろうとは思っていない。
大事な、そう本当に大切なモノを守ろうとするからこそ、
憎しみが生まれ、そして戦いが生まれ、忍は“任務”という2文字に支配される。
愛があるからこそ憎しみも存在し、けれど愛があるからこそ人間であり、
それゆえに憎しみのない忍の平和などありえない――というわけです。

「この忍のシステムがあるかぎり、
 憎しみというバケモノはまた新たなペインを生み出していく。」

愛憎渦巻くこの世界において、忍のシステムとは結局、
憎しみに操られてしまわざるをえない存在である――と。
そして、憎しみは無数の痛みをつくりだす源となるのです。

自来也先生を殺したのはペインだが、
 よくよく考えればそのペインを生み出したこの忍の世の無秩序が、
 先生を殺したも同然なのさ…。
 忍とはその憎しみとの戦いなんだ。どの忍もその憎しみと戦っている。
 自来也先生はこの憎しみを終わらせる答をお前に託したんだ。」

ペインが憎しみに操られていたというのはよく理解できる。でも――

「だからってオレはペインを許さねェ…
 許すことなんてできねェ!」

ペインがやっていることは正しいとは思えない。
止めなくては、という思いがナルトにはあるから許せないわけです。
平和へのその答え、ナルトは四代目に教えを乞いますが、
ミナトもその答えが分からないといいます。

「エロ仙人や四代目すら分かんなかった事がオレにできるわけねーだろ!!
 皆勝手すぎるってばよ!!
 オレってば頭わりーし! そんなすげー忍者じゃねーし!!
 それに――…」

自来也やミナトの想い――それを継ぎ、そうありたいとは思ってはいるものの、
どうすればいいか分からず、錯綜する想いをどう処理したらいいか分からない。
混乱し自分を卑下するナルトの頭の上にミナトは手をのせます。

「お前ならその答を見つけられる。
 ……オレはお前を信じてる。」

その言葉に少しだけ迷いが断ち切れたナルト。

「…ホントに…ホントにオレにそんな事――…」

そんなナルトにミナトは大丈夫だと微笑みます。

「どこまでいっても子供を信じてるのが親ってもんだからね。」

4.四代目との会話(4)

「さて…オレも行かなきゃならないかな…。
 チャクラも薄れてきてる。
 封印を組み直す。……だがこれで最後だ。」

ミナトは薄れゆく自分の意識を悟り、暴走するナルトの感情と九尾によって壊れた八卦の封印式を
僅かに残された時間で組み直します。

「木ノ葉はまだやり直せる…。頼んだぞナルト。」

自分を信じてくれている人がいる。
それはナルトに強い力を与えます。

「ありがとう…父ちゃん…」

九尾を退け、地爆天星…その引力の檻に立つナルト。
残された仙人モードを解放し、再びペインに対峙します。