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1.幻術<まぼろし>(1)
「でたらめだ…。オレは何度も殺されかけた。」
「イタチが本気なら…そうなっていたろう…確実にな。」
取り乱すサスケ。万華鏡写輪眼の瞳術までもを使った、サスケとの戦い。
サスケにはイタチがサスケに気を使って戦っていたようには到底思えないのでしょう。
ですが振り返ってみれば、イタチはあえて決定打や必殺を外すような戦い方をしていました。
それはサスケを追い込むためだとマダラは言います。
「呪印からの解放…。そして最も親しい者の死…。
お前に万華鏡を開眼させる戦いでもあった。
あれは全てお前のためにイタチが仕組んだ戦いだった。
お前の眼を奪うという芝居を最後まで演じきってな。」
跡形も無く消えた呪印を見て、少々考え込むサスケ。
マダラの言うことを信用していないかのように、あの疑問をぶつけます。
「お前は嘘をついている! 九尾に里を襲わせたのはマダラ!
お前の仕業だとイタチは言った!」
それに対してマダラは次のように弁明します。
「それはイタチのついた嘘だ…。さっきも言ったはずだ。
万が一にもお前に真実が伝わることを、イタチは恐れていたのだ。
その可能性を微塵も残さぬよう…、
お前にオレを信用させない為の嘘をつき、
そればかりかお前の眼に“天照”をも仕込んだ。」
イタチは弟に自分は悪であることを貫き通すことで、その背後に眠る一族の真実を隠し、
“うちは”としての純な誇りを汚したくなかったというのもあるでしょうが、
弟に新しい力を与え、自分の役割を終えてなお、
マダラを殺そうとしてまで秘匿しなければならないことだったでしょうか?
イタチがサスケに“天照”を仕込んだのは、
マダラがサスケに接触してくることを踏まえてのことですが、
それはすなわちマダラがサスケに接触することを予測していたことを意味しています。
そこにはイタチなりの何らかの“根拠”があるはずです。
イタチは自分を殺してまで、里の平和を願い、戦争を嫌った人物です。
一方でマダラは終末の谷で敗れてなお、
里や自らの一族に恨みを抱き戦争の機を窺っていた人物です。
そんな人物が弟に接触してくることを避けたかった理由は、
果たして“自分の真実”を弟に知られたくなかっただけなのでしょうか?
そもそもマダラがイタチの真実をサスケに話しているのは不自然です。
そこにはマダラの何らかの思惑が介在していて、
サスケを自分の野望実現に何らかの形で利用しようとしているのは明らかです。
それこそ、イタチが弟にマダラが接触することを厭う“根拠”の部分ではないでしょうか?
そう考えると、あの戦いに纏わるイタチの数々の発言が、
全て嘘であるとは言いがたくなります。
「今のマダラは負け犬だ…
うちはの本当の高みを手にするのは奴じゃない。」
事実マダラは千手柱間に敗れ、
それでも恨みを捨てきれずにいることに変わりありません。
同様にマダラの話も全てが真実だとは言い切れません。
人は嘘をつくとき、あるいは何かの真実や事実を隠すとき、
決まって別の真実や事実を話題にあげます。
マダラの目的とはいったい何でしょうか?
2.幻術<まぼろし>(2)
「信じられるか…そんなこと!
あいつは! イタチは悪だ!
一族を殺して“暁”の染まった犯罪者だ!」
しかし、“イタチ”のみに目が向いてしまっているサスケは、
マダラの話を疑っているものの、マダラ自身を見抜けていません。
冷静を欠いているサスケに、マダラは次のように返答します。
「ただ一人、決してぬぐえぬ罪を背負い、里を抜けてなお、
“暁”に入り込み里にとって危険な組織を内側から見張っていた…。
常に木ノ葉隠れを想いながら、そして同じくお前のことを…。」
マダラは暁のリーダーであるペインに命令できるような、
暁内でペインとは対等以上の立場にある人物です。
そんな人物がイタチの本質を見抜きながら、
イタチを組織にとどめておいた理由はなぜでしょう。
お気づきの方も多いと思われますが、サスケと話をするこの場面でマダラは暁の衣を着ていません。
マダラの野望は暁とは別のところにあるのかもしれません。
それゆえ、“暁”という組織の枠にあまりこだわりがないのかもしれません。
「お前を守ると約束していた三代目火影が死んで、
すぐにイタチが木ノ葉に姿を現したのは、
ダンゾウを含む里の上層部に“オレは生きている”と
忠告するためだった。お前のことを何より…」
「やめろォ!! 嘘だ!! そんなもの全て――」
今まで生きてきたその人生の大きな根幹、イタチへの怨恨ですが、
それが大きく揺らぎはじめ自分を見失いそうになるサスケ。
サスケはイタチの真実をその眼で何一つ見抜くことはできなかったのです。
「なぜならお前は生きている!!
お前の眼はイタチのことを何一つ見抜けていなかった。
イタチの作り出した幻術を何一つ見抜けなかった。
だがイタチは…友を殺し、上司を殺し…
恋人を殺し、父を殺し、母を殺した…。
だが殺せなかった…弟だけは。
血の涙を流しながら感情の一切を殺して里の為に同胞を殺しまくった男が…
どうしてもお前を殺せなかった。」
イタチは当時13歳あたりですが、一族内の遠縁でしょうか、恋人もいたようです。
その恋人も手にかけなければならなかった。
両親も手にかけなければならなかった。
全ては里の平和のため。それでも弟だけは殺せなかったのです。
【変貌と疑惑2・兄としての自己】*1では、
サスケを拠り所とするところで、自分を保っていたところがあると考えました。
ともすると、このような非情な任務をこなせたのも、
里の平和を願うのと同時に、その平和は弟のために、という考えがあったのでしょう。
どうしても弟を殺すことができなかった――
「あいつにとってお前の命は、里より重かったのだ。」
里の平和のため。これから起こるかもしれない戦争によって奪われる未曾有の命と、
そして自らを培ってきた一族の命を秤にかけることは、とても辛いことです。
命を秤にかけてはならないし、かけたくなかったはずです。
しかし、選択の余地はありませんでした。イタチは前者を選びます。
それでも秤の器を超越して、かけられないおもりがありました。サスケです。
「病に蝕まれ、己に近づく死期を感じながら…
薬で無理に延命を続けながら…最愛の弟のために…。
お前と戦い…お前の前で死ななければならなかった。」
場面が変わって、波間にある岩肌に立ち、サスケは考え耽るように海を眺めます。
「名誉の代償に汚名を…愛の代償に憎しみを受け取り、
それでもなおイタチは笑って死んでいった。
弟のお前にうちはの名を託し、お前をずっと騙し続けたまま…」
マダラの言葉をかみしめ、兄イタチを想うように…。