399 『すべての始まり』

1.すべての始まり(1)

千手一族。どの一族からも一目置かれ、畏れられていた存在。
その千手に唯一対抗してきた、うちは。
千手をある国が雇えば、それに対立する国はうちはを雇う。
そうして千手とうちはは数多くの戦火を交え、広く知られていくようになりました。

「名を上げる…そんなことのために弟の眼を奪ったのか!?」

高みに近づくため、器を測るため――以前、兄が口にしていた言葉が、
ふとサスケの脳裏によぎり、マダラの話に思わず口を挟みます。

「…奪った…、だがそれはうちは一族を守るための力が必要だったからだ。」

“奪った”という言葉に難色を示しながら、マダラは話を続けます。

「うちはの名が上がれば自ずと敵も増える。
 激しい争いの中で、千手一族を始めとする外敵から一族を守るには、
 必要な犠牲だった。名を上げるためではない。
 弟は全て承知の上だった。自ら眼を差し出したのだ。」

うちはの繁栄を願ってのことなのでしょう。
マダラの弟は自ら兄に力を渡すために、その眼を差し出した――といいます。
マダラも思わず腕組みしている手に力が入ります。
しかし、これはイタチの言葉とは違います。

「万華鏡に取り憑かれたマダラは光を求め…
 自ら弟の両眼を奪い取ったのだ。」

サスケはこのことに疑念を抱いたのか、
マダラを見抜こうとするような眼差しを向けます。

「だがある時…、千手一族はうちはに対して休戦を申し出てきた。
 …うちははこれに同意した。
 双方の一族の誰もが長く終わりのない戦いに疲れきっていた。
 限界に来ていたのだ。」

千手もうちはも終わりが見えない戦いに疲弊し、休戦の協定を結ぶことになります。
しかしマダラは心から賛成していたわけではありませんでした。

「だがオレは休戦にただ一人反対した。
 …今までの憎しみはどこへ行ったというのだ!?
 弟は何のために犠牲になったというのだ!?」

弟の想い――その両眼を継いだ兄として、
引き下がるわけにはいかなかったのでしょう。
うちはと千手は水と油の関係。相容れないもの。
うちは一族は千手一族に駆逐されてしまう――
マダラはそう危惧していました。
しかし、うちは一族の人々が望むのは休戦。マダラの考え方は受け入れられませんでした。
リーダーとして一族の意志を汲み取ったマダラは、千手の求めに応じます。
一方でこの協定はうちはと千手が組むきっかけとなったのでしょう。
今度は領土の平定を望んでいた火の国と、一国一里の先駆けとなる協定を結びます。
こうして“火の国の木ノ葉隠れの里”という強固な組織が出来上がります。
他の国々もこれを真似し、戦火が段々縮小していくことで、
ひとたびの平和が訪れます。

2.すべての始まり(2)

しかしその平和も一時のこと。すぐに木ノ葉隠れに、
その里長となる火影の座をめぐる混乱が生じます。
火の国、そして里の皆――うちは一族までもが柱間を選びました。
うちはが駆逐されていくことが危ぶまれるだけに、
柱間と対峙するように、マダラも名乗りをあげますが、
結局誰一人としてマダラに賛同するものは出ず、
部下たちもマダラが争いの火種となりそうであることを疎んで、背を向けました。

「オレは利己的な欲求につき動かされていると叩かれ、
 それどころか己の命を守るために弟の眼を奪った欲深い兄だと蔑まれた。
 どこに好き好んで弟を傷つける兄がいる。
 オレはただ…うちはを守りたかっただけだというのに…!」

全ては“うちは”のため。全てに裏切られた――、
マダラは失意のうちに里を出て行くのです。
そして復讐者となり、木ノ葉隠れの里に戦いを挑みます。
九尾を操り、永遠の万華鏡の写輪眼を使い――
それでもマダラは柱間に終末の谷にて敗れてしまいます。
マダラはそこで死んだことになり
里の皆や歴史から忘れ去られて、完全に表舞台から姿を消しますが、
滅したわけではありませんでした。
話は柱間の弟が二代目火影に就任した頃に移ります。
二代目はマダラのような反逆者を出さないためにも、
信頼の証としてうちはに特別な役職を与えます。木ノ葉警務部隊です。
しかしその実は里の中枢、政治からうちはを遠ざけ、
なおかつ一族を体よく監視下に置くためのものでした。
うちは一族の中で何人かがその意図に気づき、マダラの意志を継ぐ者も現れますが、
結局時すでにおそくうちはは千手に逆らえなくなっていました。

「九尾を手懐けコントロールすることが出来るのは、うちはの瞳力だけだ…。
 木ノ葉の上役たちはあの事件をうちはの何者かによる仕業ではないかと勘ぐった。
 あれは自然発生的ないわば天災だ。うちはは関係していない。
 だがあらぬ疑いがかけられた。
 うちはが主権を狙って、反逆を起こそうとしたのではないか…と。」

そして十六年前の九尾の妖狐襲来によって、一族は完全に里の隅へと追いやられてしまうのです。
しかしそれはうちはとは全く関係ないもの――。
ただイタチによれば、これはマダラの仕業だと言っています。
またしてもイタチと食い違う話を聞かされ、
サスケは見定めようとする目をマダラに向けます。

「以降、うちはへの監視は暗部により徹底され、
 一族の居住地は里の片隅へと追いやられ、隔離さながらの状態になった。
 唯一、三代目火影だけはその処置に異議を唱えたが、
 暗部のダンゾウ、そして相談役はそれを認めなかった。
 しょせんうちは一族は信用されていなかったのだ。差別が始まった。」

当然、無実であれば里の中枢のこのような処置に我慢できるわけがありません。
うちは一族はクーデターを起こし、里を乗っ取ることを画策するようになります。
一族の会合とは、このクーデターを目論んでのものでしょう。
しかしその思惑は一族の中に送り込まれたスパイによって、
里の中枢にはその思惑はすでに知れ渡っていたものだと思われます。
そのスパイこそ、うちはイタチだったのです。
そこからイタチの地獄が始まります。