400 『地獄の中で』

1.地獄の中で(1)

うちは一族がクーデターを起こそうと画策していたこと、
イタチがスパイだったことを知り驚愕するサスケ。
当時幼かったサスケには、一族の事情は知らされていませんでした。
父フガクがクーデターを率いる首謀者だったこと。
そしてイタチは父からの命を受け、暗部に入り込んだスパイだったこと。

「イタチ…お前は一族と里の中枢を繋ぐパイプ役でもあるのだ…
 それは分かってるな?」

夜、明かりもつけないまま、三人が座談していた出来事が、
サスケの脳裏をよぎります。

「だが…それは逆だった。
 イタチは里側にうちはの情報を流していた。
 俗に言う“二重スパイ”というやつだ。
 それがどれほどの重荷か…、お前には想像もできないだろう。」

イタチはうちはにありながら、実は木ノ葉のスパイでもありました。

「戦争を見ていないお前には…理解出来ないかもしれないな」

イタチがうちはを裏切って、木ノ葉の里を選んだ理由…

「第三次忍界大戦…、イタチはわずか四歳で多くの人の死を目にしてしまった。
 戦争を経験するには幼すぎた。戦争は地獄だ。
 そのトラウマはイタチを争いを好まない、平和を愛する男にした。
 里の安定を第一に考え、平和の為に働く…そういう男だった。」

イタチは幼い年齢にあって、戦禍で亡くなる大勢の命を目の当たりにし、
そのことが心に大きな傷をつくり、戦争を嫌い平和を望むようになったのです。
しかし、このことを里の上層部は利用します。
兼ねてより警戒していたうちはの不穏な動き…、
そして下された極秘任務…
写輪眼には写輪眼を…うちは一族全員の抹殺です。

2.地獄の中で(2)

そのときのイタチは想像を絶する複雑な心境だったはずです。
同胞に手をかけることは…イタチとしても避けたい選択だったのです。

「だが、うちはほどの忍が内戦を起こせば、
 木ノ葉隠れの里も火の国も大きく揺らぐ。
 それを機に他国は必ず攻め込んでくる。」

うちは一族の利己的な思想によって、小さな内乱が、
やがては世界を巻き込む大戦になりかねない――
そしてその大戦によって忍の世界と無関係な人々の命がまた奪われる…
イタチはそう危惧していました。

「うちはを憎しみで裏切ったのではない…仕方なかったのだ。
 里の興りからの差別…そして確執のツケ。
 それをたった一人で背負い込み、
 己を犠牲にしたイタチの決断を背めることは誰にも出来まい。」

多くの命がかかった究極の選択だったのです。

「事実あの頃…このオレも戦争の機を伺っていた。
 千手の木ノ葉にもうちはにも恨みがあったからな。」

一方でマダラは力を蓄え、解き放つときを待っていたのか、
また木ノ葉を相手取って戦をしようとしていました。
しかし、イタチはそれに気づき、
うちは一族への復讐の手引きをする代わりに…
里側に手を出さないことを条件にマダラの片棒を担ぐことを申し出ます。

「だが三代目火影だけはどうにか別の手を打とうとした。
 うちはに和解案を打ち出して、話し合いを持とうとしたのだ。」

里の中枢では強行案の他にも、三代目を中心として和解案も検討されていましたが、
結局のところは和解案はとられず、時を迎えます。
一族を殺した犯罪者として、汚名を背負ったまま抜け忍になること…
その全てが任務であり、イタチはその任務を全うします。
しかし完璧ではありませんでした。一つの失敗をします。
弟だけは殺せなかったのです。
任務後、イタチはダンゾウや上層部から守ってくれるように三代目火影に嘆願し、
こうした里の情勢や情報の漏洩をちらつかせることでダンゾウを脅し、里を抜けます。
しかし弟に本当の思いを告げる事はできませんでした。
自分への復讐を弟に目的として与え、強くなることを願い――
と同時にうちはは木ノ葉隠れの里の誇り高き一族であったことを信じさせておきたかったのです。
そして里を抜けたときより、弟と戦い死ぬことを心に決めていた…
そして引き換えに新しい力を与えることもできる。
イタチの真実…、それは純粋に里の平和を願い、
弟を想ってその身の全てを捧げた兄としての姿だったのです。