391 『雷鳴と共に』

1.雷鳴と共に(1)

「“天照”と同じかわすことが出来ない術!?
 一体どんな術だってんだ?」

激しい稲光、刻一刻とサスケ最後の術が放たれるときが迫ります。

「アノ火遁攻撃ノ狙イハ、ハナカライタチジャナカッタ、トイウコトダ…!
 ワザト火遁ヲ空ニ打チ上ゲ、大気ヲ急激ニ暖メテ、
 上昇気流ヲ発生サセタンダ! 積乱雲…ツマリ雷雲ヲ作った!!」

サスケが放った火遁・豪龍火の術。
それは単にイタチを狙って放たれたものではなく、
熱上昇気流によって積乱雲をつくるためのものでした。
積乱雲は地上の温度と大気の温度差による対流から生じる、鉛直方向に伸びる雲です。
【性質変化3・風と雷】*1において、対流の仕組みについて触れましたが、
今回の積乱雲の発生についても対流を抜きにしては語れません。
仕組みは次の様です。




天照の高熱によりアジト一体は熱気に包まれています。
温度差はあるものの、まだ大きな空気の流れは出来ていません。
そこでまず火遁・豪龍火の術が天高く上昇気流をつくります。
積乱雲は成層圏下部にも達するほどの巨大な縦長の雲で、
この術はこの後の大きな上昇気流を導くものだといえます。
豪龍火の術によって上層にある冷たい水蒸気が暖められ小さな水滴が生じます。
それは空気中の塵を巻き込み、再び冷やされ小さな氷粒となって、
あるいは小さな水滴のまま雲を形成します。
豪龍火によってつくられた一筋の上昇気流は、
一方で地面近くの暖かい空気が上空へと進んでいくだんだん大きな上昇気流を形成します。
雲の中の水滴や氷粒は成長していき、これらの衝突、摩擦する回数も増え、静電気を帯びていきます。
また重力に逆らえなくなるほど大きくなると、粒が落下していきますが、
そのときに空気も一緒に引きずられる形で下降し、下降気流は大きくなります。
こうして大きな対流が生じて、それがさらなる粒同士の衝突を生み、
ますます電気を帯びて、地上との電位差が拡大するといよいよ雷が生じます。


2.雷鳴と共に(2)

「己ノチャクラエネルギーデハナク…膨大ナ大気ノエネルギーヲ利用シテ…
 雷遁ノ術を行ウ気ダ!」
「トニカク人間ガ、チャクラカラ性質変化デ作ルモノトハ規模ガ違ウゾ!」

自然の力はナルトの世界においても、人間を超越する力のようです。
人間のチャクラによる性質変化的なものではすまない雷。
放電時間は1ミリ秒(1/1000秒)ですが、
1回の放電量は数万〜数十万アンペア、電圧は1億〜10億ボルト、
電力量は平均900ギガワットにも及びます。

「この術は天から降る雷…オレはその力をアンタへと導くだけだ。」

こちらは【千鳥2】*2で扱いましたが、
この技術を誘雷といいます。
誘雷には雷雲にパルスレーザーを使って強制的に雷の通り道となるプラズマを発生させ、
安全な場所へと落雷させる技術があるようですが、
サスケの術はこの技術と似ていると言って良いでしょう。

「術の名は“麒麟”…雷鳴と共に散れ…」

サスケの千鳥に導かれて、天駆ける雷はまるでその名の如く、
怒り狂った獣類の長、神獣“麒麟”のような姿を見せ、
そしてイタチを打ち付けます。
雷はまず弱い先駆放電(ステップリーダー)、
大地から迎えるように伸びる先行放電(ストリーマー)の両者が結合して
道筋が完成すると主雷撃という本格的な電流が流れるようですが、*3
サスケの千鳥はこのストリーマーとなるでしょう。
そのままではサスケに向かって主雷撃が放たれてしまうので、
イタチの方に雷撃を誘導するには、
イタチの方へ雷の道筋をつくるなんらかの工夫があるはずです。
イタチへと降った雷は、アジトをも破壊。瓦礫の山を築き上げます。
そこには暁の衣が消え、うつ伏せに倒れ込むイタチ。
サスケはそれを確認すると、脱力したように膝を落とします。

「………終わったぞ…!!」

二人の戦いの激しさを表すような驟雨も、勢いが弱まっていきます。

「これが…お前の再現したかった……死に様か?」

しかし大量の吐血をしながらも立ち上がるイタチ。

「くそがァ!!!」

チャクラも底をついたサスケですが、振り絞るように状態変化します。
しかしその眼にはすでに写輪眼はありません。
イタチの周りを覆う大気とチャクラでできたような鎧あるいは装甲車のようなもの。

「コレがなければ…やられていたな…。
 本当に…強くなったな……サスケ…」

その眼にはすでに写輪眼はなく、イタチの瞳孔は萎縮しきっています。
しかし、弟を認めるような、あるいは優しさに満ちた眼をしています。

「今度は…オレの最後の切り札を見せてやろう…“須佐能乎”だ。」

【性質変化3・風と雷】(*1)で風が雷に強いとされる理由について推測しましたが、
雷を回避したというのなら、この様子から見て、
風の性質変化あるいは大気の壁のような役割を果たしているのでしょう。
イタチより生ずる際に暁のマントを自然に取っ払ったとも考えられます。
おそらくこの須佐能乎はイタチ周囲の電流の流れやすさを金属なみに瞬時に変化させ、
車に雷が落ちても中の人が安全であるように、
静電遮蔽*4の要領でイタチを守ったものだと思われます。
つまり須佐能乎は電導性が非常によくなるようにチャクラが働いているのでしょう。
あるいは大気が濃密に凝縮され絶縁をしているとも考えられます。
この場合、雷に負けて絶縁破壊されないほどの絶縁性をもち、
また雷からもらった大量の電荷のうち、いくらかを一時蓄積していることになります。

*1:【性質変化3・風と雷】(多少誤解を招きやすいところがあったので修正しました)

*2:【千鳥2】

*3:参照:『ウィキペディアWikipedia)』雷

*4:【静電遮蔽】:導体内部は電位が一定(電圧0)であり、電流は導体に沿って外部表面を流れる。