1.サスケの偏屈さ

サスケという人物を理解するには、一筋縄ではいかないですし、
彼の発言には一癖も二癖もあるので、
それが彼の考えや人格をそのままを語っているかどうかは、
吟味する必要があります。
【ナルトがサスケを追う理由】*1では
サスケが孤独、絶望に陥ることを本能的に嫌って、
ナルトはサスケを必死に追いかけていることを考えましたが、
サスケサイドに立ってみると、サスケにはサスケの考え方が存在し、
“ただ復讐のみに果てる”わけではなさそうです。
彼のその生い立ちゆえの素直でない人格が様々な人の心配を縺れさせ、
またそれらの人々のサスケへの心配が表に立つことで、
サスケ自身がどのように考え行動しているかを薄れさせ、
どうにも複雑でもどかしい状況を生み出していると考えられます。


サスケの生い立ちは以前も【ナルトがサスケを追う理由】(*1)など
様々な記事で触れましたが、平たく言えば、耐え難い喪失です。
その一見孤独へと突き進む姿勢は、
この耐え難い喪失を経験することで、
素直さを失い、人を信じることを容易にできなくなってしまったこと、
復讐含め何もかも自分で成し遂げなければならないと考え始めたこと
に起因するのではないでしょうか?
それは彼にあまり本心を語らせない言動をさせるようにもなります。

「親も兄弟もいねえてめーに…オレの何が分かるってんだよ…」
「初めから独りきりだったてめーに!! オレの何が分かるってんだ!!! アア!!?」

ナルトに向けられたこの台詞。
これがいかに本心から出た言葉でなかったかは、
第七班を組んで間もない頃、サクラがサスケを前にして、
ナルトの親がいないことを話題に上げてナルトを馬鹿にする場面で、
サクラに向かって言った

「やっぱり…お前、うざいよ。」

の一言に集約されていると言えます。
自分が現在親を失って独りであること、そして親のいないナルト。
似たような境遇の中、自分の苦しみをナルトにも重ね合わせ、
その苦しみも知らず親がいないことを馬鹿にするサクラに言い放った一言。
しかし、親・兄弟のない苦しみを分かっていながら、
なぜあのときサスケはナルトに向かって心に無い一言を言ったのか、
それはもう少し詳しく彼の心境を追ってみてから結論を出しましょう。

2.復讐が全てでも…

「オレにとっては復讐が全てだ…
 復讐さえ叶えばオレがどうなろうが、
 この世がどうなろうが、知ったことじゃない。」
大蛇丸にオレの体を差し出すことでそれを成し得る力を手にできるなら、
 こんな命、いくらでもくれてやる」

サスケが兄イタチへの復讐が全てであることを強く主張する言葉。
一方で大蛇丸に対しては、少し違う様相を呈しています。

「殺したい奴は他にいる。」

大蛇丸との修行で、サスケの相手となった忍たち全員に
きちんと止めがさされていないことを大蛇丸から甘いと評されたサスケは、
このように答えています。

「それにアンタのやり方は好きじゃない…アンタの目的は何だ?
 この世の道理を解き明かすだの何だのと下らない利己的な理由で
 他人を玩具のように弄び続けている。反吐が出る。」

と目的の為に手段を選ばない大蛇丸をイタチに重ねて憤っています。

「急所は外しておけ」

北アジトにて呪印状態2となって暴走する実験囚を相手にする場面で、
水月をこのように制しています。
水月は君は木の葉出身だと呆れていますが、
サスケ自身の姿勢と捉えてよいでしょう。


復讐の為ならどんな手段でも厭わないという姿勢を見せながら、
目的の為ならどんな卑劣な手段をも選ぶという考えを反駁しています。
殊に相手の命をむやみやたらに奪うことに抵抗があるといえます。
これはどんな目的であれ、うちは一族の人々を誰彼構わず全て殺してしまった
イタチへの抵抗の意志なのかもしれません。

3.交錯する思い

「お前もオレと同じ万華鏡写輪眼を開眼しうる者だ…ただし、それには条件がある。
 最も親しい友を…殺すことだ。」

一度はその言葉に従って、最も親しい友と認めたナルトを殺め、
万華鏡写輪眼を手にしようと考えたサスケ。

「オレはオレのやり方で力を手に入れる!
 オレはオレのやり方でアンタを超える!」

ですが、イタチの言葉に従って力を手に入れることを嫌い、
ナルトを殺さずに、別の形で力を手に入れイタチを打ち負かすことを決意します。

「親も兄弟もいねえてめーに…オレの何が分かるってんだよ…」
「初めから独りきりだったてめーに!! オレの何が分かるってんだ!!! アア!!?」
「つながりがあるからこそ苦しいんだ!! 
 それを失うことがどんなもんか、お前なんかに…」

という言葉は、本心からの言葉というよりむしろ、
殺そうとしていたナルトを自分から遠ざけるための言葉だった考えられます。
遠ざける、つまりは自分に巻き込ませないということです。

「サクラ…ありがとう。」

里を出るとき、そう言って追ってきたサクラを気絶させ、
自分の無力さを痛感していたサスケは、大蛇丸のもとに力を獲得するために向かいます。

「何でだ…何でそこまでしてオレに…」

だからといって見境無く自分の邪魔をする者の命を奪うことには抵抗があった。
復讐を果たすためにできるだけ誰かを巻き込みたくない。
だから、サスケは孤独を選ぶのです。
ナルトがこの先自分の復讐に障害となることは分かっていても
特に自分とのつながりを信じて追ってきたナルトの命を奪えなかった。
「ナルトを殺さないこと」=「イタチに反抗すること」を貫いたわけです。
対して大蛇丸の命を奪うことはためらわなかった。
それは「大蛇丸を殺すこと」=「イタチに反抗すること」だったからだといえます。
十分な力を獲得するには大蛇丸が一番手っ取り早いと考えていた。
目的の為にどんな手段をも厭わない大蛇丸
いわばイタチの分身ととらえていたのかもしれません。
イタチを超えることは大蛇丸を超えることだったのでしょう。

4.サスケVSナルト再び

ナルト達と久しぶりに大蛇丸のアジトで対面したときのこと。
相手の命をむやみやたらに奪うことに抵抗があるはずのサスケが、
ナルト達にその刃を向けます。

「あの時、おまえの命はオレの気まぐれで助かっただけだと言うことだ。」
「…そういやお前には火影になるっていう夢があるんじゃなかったか…
 オレを追い回す暇があったら修業でもしてりゃ良かったのに…
 なぁ…ナルト。」

一見すると心変わりしたかのように、
ナルトの命を奪おうとしているようにもとれますが、
実はこれも自分から遠ざけるためだったと捉えられます。
大蛇丸に止められましたが何らかの強力な術を放とうとしました。
ナルトたちの命を奪おうとしたというよりは、
オレを追ってくるとこんな目に遭うんだぞ、
という“示し”だったのかもしれません。
これは偏屈なサスケらしい遠まわしな思いやりともとれなくもありません。


サスケはただただナルト達を拒絶していたわけではない――
彼の言動の矛盾からそう読み取れないでもないです。