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1.シスイ殺害疑惑(2)
「さっきも言ったハズだ。見た目や思い込みだけで人を判断しない方がいい。
オレの気が長いと、勝手に判断しタカをくくるからだ…」
少々感情的になっているイタチ。
サスケも、こんな兄さん見たことない、と目を丸くします。
ここまで感情を露にするイタチは珍しいのでしょう。
父・フガクとの言い争いでも、フガクが怒鳴っているのに対して、
つとめて冷静に振舞っていたイタチ。
「一族… 一族…。
そういうあんたらは己の"器"の大きさを測り違え、
オレの"器"の深さを知らぬから今そこに這いつくばっている。」
ここで初登場するイタチの人格を推し量る上で最も重要なキーワードの一つ"器"。
- イタチは警務部隊の3人より"器"が深いと確信している
人に対して使う"器"とは一般に才能や人格などを指します。
しかし、イタチはそれ以外のコノテーションつまり言外の意味を言い含めているのです。
「組織に執着し、一族に執着し名に執着する…
それは己を制約し己の"器"を決めつける忌むべき事…。
そして未だ見ぬ…知らぬモノを恐れ憎しむ…愚かしき事!!」
イタチは何やら崇高な思想めいたものを感じさせる内容を話します。
- イタチは己の"器"を決めつけていない。未だ見ぬモノを恐れていない。
という点で、イタチは警務部隊の3人より"器"が深いと自負していることになります。
「…シスイは…最近のお前を監視していた…。
暗部に入って半年…
お前の言動のおかしさは目に余る。
お前は一体何を考えて…」
とある通り、一般には受け入れがたい思想だったのが良く分かります。しかも、
- シスイは“最近”のイタチのことを監視していた。
- このような思想を語った(=言動のおかしさ)のは今回が初めてじゃない
ということも同時に分かります。
“最近”――つまり、イタチはもともとからこのような思想を持っていたわけではなかった、ということになります。
しかも思想の内容を考えると、イタチが己で考えあぐねて編み出した思想というよりは、
- イタチに影響を与える何者かの関与があった
のは想像に難くありません。しかも、その何者かは、
- イタチが心酔、もしくは傾倒するようなカリスマ性をもった人物
と思われ、この人物の思想をそのまま己の思想としているのではないでしょうか。
2.イタチのおかしさ
「イタチ…お前最近少し変だぞ。」
「何もおかしくなど無い…。自分の役割を果たしている…それだけだ。」
「じゃあ、何故昨夜は来なかった。」
「…高みに近づくため」
「……? 何の話だ…」
フガクは一昨日となぜ同じ問いかけをしたのでしょう?
やはり、にわかに任務とは信じ難かったのでしょうか。
その問いかけに、〈極秘任務〉と答えずに〈高みに近づくため〉と答えたイタチ。
フガクも困惑していることから、予想外の答えだったことが窺い知れます。
- イタチにとっては会合を欠席するほどの重要なこと
だったのは間違いありませんが、
- 〈極秘任務〉=〈高みに近づく〉
だったとするなら、イタチにとって一体何の任務だったのでしょうか?
――シスイ暗殺が、〈極秘任務〉だったと取ることもできます。
前回見た腑に落ちない点、
- 遺書を捏造してまで、わざわざ自殺に見せかけること。
- 一族会合の日に犯行を行ったこと。
イタチの〈極秘任務〉であったとすれば、合点がいかなくもないですが、
強ち、そうとも言い切れないところです。
3."器"
「オレの"器"は、この下らぬ一族に絶望している」
そう言ってフガクの目の前で壁に描かれた一族の家紋をクナイで射抜きます。
「一族などと…ちっぽけなモノに執着するから、
本当に大切なモノを見失う…。
本当の変化とは規制や制約…予感や想像の枠に収まりきっていては出来ない。」
何を隠そう、これがまさしくこのときのイタチのテーゼでしょう。だとするなら、
- 一族は“本当に大切なモノ”を見失っているからこそイタチは一族に絶望している
“本当に大切なモノ”が何であるか、これから作中で明かされると思われますが、
それこそがイタチの不可解な言動の根源でもあり、
またそれを悟らせた何者かも絡んでくる展開となるでしょう。
「兄さん! もうやめてよ!」
サスケの言葉にハッとしたイタチ。
【変貌と疑惑2・兄としての自己】*1では弟が存在することで存在する兄としてのイタチの自己を考えました。
父や他の人の言葉に耳をかさなかったイタチが、サスケの言葉にのみハッとしたのは、
決しておくびにも出さないけれど、自分とは何者なのかという揺れ動く自己の不安定性を
安定に保ってくれる“つながり”から来る言葉だったからです。
ですから、イタチ自身も自分の"器"を彼ら3人より深いように語るけれど、
- イタチ自身も自分の"器"の深さを決めかねていた(=自己が不確定)
ことになります。逆にそうであったからこそ、言える台詞。
これは後の台詞である「己の器を測る為だ」という台詞にも繋がってくると思われます。
「…シスイを殺害したのはオレじゃない…。
けれど数々の失言は…謝ります…。申し訳ありません。」
とイタチは態度を翻して土下座をしてまで謝ります。
〈シスイを殺したのはオレじゃない…。〉けれど、自分のテーゼであったはずの〈数々の失言〉は謝った。
- シスイを殺害したのは自分ではない。
ことをまず第一声で大きく主張しています。
逆にそうでなければ、この一連の場面展開は変です。
イタチがシスイ殺害を実行したとするなら、イタチはうまく疑いをかわしていたでしょうし、
感情的になることもなかったはずなのです。
- イタチはシスイ殺害疑惑に関してというより、一族の妄執に対して憤っている。
つまりはイタチにとって、〈シスイ殺害疑惑〉⇒〈一族の妄執への辟易〉というように、
怒りの対象とすべき点がすりかわっているのも頷けます。