1.任務遂行にあたって

「あの夜…奴がうちは一族を皆殺しにしたのは事実だ。
 そして木ノ葉を抜けた。」


「そしてそうすることが木ノ葉から下された任務だった。」

イタチに与えられた任務とは、
一族の人々を暗殺し木ノ葉をそのまま去ること。
イタチにこの任務が与えられたのは、優秀かつ
イタチが一族の人間であり、ターゲットに近づきやすいこと、
写輪眼を相手にするには写輪眼使いが妥当であること、
そして自らのうちは一族をあまり良く考えていないことが大きな理由でしょう。
ところで、この任務はイタチ一人に与えられた任務だったのでしょうか?

「いくらアンタでも警務部隊を一人で殺れるハズがない。」
「…ちゃんと気づいたか」

警務部隊全てをいくらイタチでも全て暗殺できるはずがない――
イタチは自身、このことを認めています。
協力者がいたのです。それがマダラだったわけですが、
はじめからマダラが協力する予定だったかどうかは、検討してみる必要があります。
――というのも、もう一人、可能性のある人物がいるからです。
お察しの通り、うちはシスイです。

2.一族をとるか任務をとるか

うちはシスイ――うちは随一の手練れ、瞬身のシスイという異名をもち、
一族の為ならどんな任務であろうと率先して受け持つ男。
うちはヤシロの評価は、シスイを褒め称えるものでした。
一方でうちはイナビは、そのような男が遺書を残して自殺することは考えにくい、と言います。

「見た目や思い込みだけで…人を判断しない方がいいですよ。」

対してイタチは、ヤシロやイナビの知らないシスイを知っているような発言をします。
つまり一族の為でない任務をもち、遺書を残して自殺するかもしれないことになります。
【変貌と疑惑5・シスイの遺書】*1で考えたように、
イタチがこのように身投げ自殺に見せかけてシスイを殺したという考え方は、
暗部のイタチが冷静を欠いたようで不合理な点が多く、

「…シスイを殺したのはオレじゃない…。
 けれど数々の失言は…謝ります…。申し訳ありません。」

とイタチがシスイ殺害に関して“だけ”は否認するような発言をしていることから、
考えにくいものとなるでしょう。となると他殺の線は薄くなるので、
シスイはやはり自殺に近いものと考えられます。
――とするなら、遺書こそシスイを考える上で重要な鍵となります。
さてその遺書ですが、

任務に疲れた。

このままでは うちはに

未来は無い。

そして、オレにも…。

これ以上“道”に

背くことは出来ない

という内容です。遺書のキーワードには“道”という言葉がありますが、
この“道”に背くこと――いったい何を意味するのでしょうか。

  • 任務に疲れた このままでは うちはに未来はない

とありますが、これは一族虐殺事件が事前にシスイによって予期されていたものと考えられます。
このことからも、イタチの個人的な怨恨などによって、
この事件が起こされたわけではないこと、
つまりは起こるべくして起こった事件だったことが分かります。
この事件の真相は、三代目、ホムラ、コハル、ダンゾウなど
ごく限られた人物にしか知られていないといえる機密なもの。
当然、中枢に近い人間といえど、うちは一族暗殺の計画は
これらの人物以外知りえなかったはずです。
知りえることがあるとすれば、任務にあたる人物
つまり、シスイも同じく一族暗殺の任務を与えられていた暗部の忍と考えられるのです。
一族をとるか、任務をとるか――
シスイは究極の選択を迫られていたはずです。
うちは一族――シスイはイタチほど貶してはいなかったかもしれません。
むしろアイデンティティとして誇りに思っていたかもしれません。
一族を抹殺するということは、自分自身を壊すことに等しかった――。
ただ、うちは一の手練れといわれるほど暗部の忍としても優秀であり、
木ノ葉中枢からの信頼も厚かった。その上で任された任務だったのでしょう。

  • そして、オレにも…

かといって知ってしまった以上は、完遂せねばならない。
木ノ葉を揺るがす機密任務ですから、断れば即、死、だったのでしょう。

  • これ以上“道”に 背くことは出来ない

一族だけでなく木ノ葉の里も好きだった。
暗部の忍として木ノ葉の里を守ってきた、
とりわけそのことを生業<なりわい>にしている一族の出身ですから、
一族興隆だけでなく木ノ葉の平和も同時に願っていたはずです。
どちらを選ぶこともできない、でもどちらかを選ばなければならない。
そんな絶望と苦悩があったのかもしれません。
そして死を決するわけです。任務に疲れたのです。
遺書には直接的な内容を書きませんでした。
最後の最後までどちらを選ぶこともできなかったからです。


3.イタチの監視

「…シスイは…最近のお前を監視していた…。
 暗部に入って半年…最近のお前の言動のおかしさは目に余る。
 お前は一体何を考えて…」

さて、シスイがイタチと同じ立場にあったとするなら、
なぜイタチを監視するような姿勢を見せたのでしょうか。
これもいくつか考えられますが、私が思いつくのはこれも“任務”だった場合です。
任務を与えた側はシスイよりむしろイタチを心配していたのではないかと思われます。
というのもいくら優秀とはいえ、イタチはあまりに若く、
その若さで一族暗殺任務は過酷だと思われていたはずです。
そこで共に任務遂行にあたるシスイに、イタチの様子を具<つぶさ>に報告させ、
計画執行に支障がないように手はずを整えたかった。
それをたまたま目にした周りの者が、イタチの言動の不可解さも相俟って、
“シスイがイタチを監視している”と勘違いしていたのかもしれません。
よくよく考えてみると、これはヤシロの言葉であって、
シスイ自身がイタチをどのように思っていたかは明らかにされていません。

4.会合の日

シスイの身投げは会合の日だったことになります。*2
しかし、会合の日を選んでシスイが身投げしたのはなぜでしょうか?
決行が近くなって、耐え切れずに身投げした――のでしょうか?

「それに…あれからずい分経つけど…
 父さんと兄さんは何かギクシャクしてる…」

会合の日の次の日、警務部隊の三人がイタチに疑惑をぶつけに来ました。
そしてフガクとイタチの溝は深くなります。
それを振り返るサスケは“ずい分”時間が経ったことを示しています。
イタチが暗部分隊長に13歳で就任しているためには、
この時に大きな時間が経過していないといけないと考えられるため*3
この“ずい分”はかなりの月日が経ったと考えられます。
その後に、一族事件が起こりますので、
シスイがこの理由で会合の日に身投げするのは不自然なのです。
一族会合の日を選んでシスイが身投げするに足る理由とは何でしょうか?
会合の日の前日、明かりもつけないままイタチとフガク、ミコトが
何やら話をしているのをサスケは目撃します。

「オレは明日任務に就く。」
「…何の任務だ!?」
「………。それは言えない…。極秘任務だ。」

イタチの極秘任務は会合の日にありました。
一方でシスイは会合にいかずに身投げします。
シスイがイタチと同じ立場にあって、任務遂行に消極的であったなら、
当然、うちは一族と木ノ葉中枢の対立を暗殺でなく他の方法で解消する方法を考えたはずです。
シスイは一族と里の間で追い詰められていました。
これから起こることが具体的にどうであるか一族の人々には言えないけれど、
その出来事を避ける可能性が万に一つでもあるなら――
切羽詰ったシスイは、それとなく仄めかした遺書を書き残し自決することで、
一族の会合に対して自らの命を以って警告しようとしたと考えられます。



以上のように考えれば、シスイの死を境に、
新たにトビ(マダラであることを隠していた可能性が高い)がこの計画に参入したと考えられます。
シスイがそのままトビに移行した、つまりトビ=シスイも考えられますが、
一族会合の日、イタチが任務であることを知っていたはずです。
なのに敢えてこの日を選んで入水したことは、イタチに疑惑の目を向かせてしまい、
この後の一族暗殺任務にはかえって不都合のはずです。