668『紅き春の始まり』

1.紅き春の始まり(1)

「まさか…最後の死門を…」

言葉を失ったのはカカシだけじゃありません。
一同はその覚悟の意味を知り目を丸くします。

「ガイ!
 それはダメだよ!
 よく考えるんだ!
 ここに居る誰もそれを望んではいないよ!
 …君の父上だって…」

踏みとどまるように説得するミナト。
しかし、ガイは首を横に振ります。

「いいえ。オレが望んでいるんです。」

強く落ち着いた声。

「ガイ先生…。
 ガイ先生にとって…
 今が本当にその時なのですか!!?」

リーも突然訪れた別れに、
どうやってガイを止めてよいのかわかりません。

「リー。そんな顔をするな。
 今度はお前が笑って見ていろ!!」

忍の才能が何もないことに悲嘆する日々――
それを精一杯努力することで、
変えて行けることを教えてくれ、
自分の信じた道を貫いていけることの強さを
笑いながら示してくれた先生。
突然の別れに涙がこみ上げてきます。
ガイは死門へとチャクラを解放していきます。

2.紅き春の始まり(2)

「ガイ!
 このバカヤロ――!!」

甦ってくる幼き日々。

「ご…ごめんパパ。
 5才にもなって校庭500周すら…
 できないなんて。」

と謝る我が子に、
もう一度喝を入れます。

「だから謝るなァ!!!
 そこを叱ったんじゃァない!!!
 己の努力を謝るな!!!
 お前の努力に須津例だぞ、ガイ!!!」

我が子に強烈な熱血指導をするガイの父。
涙を流しながら抱き合う姿を見て、
冷やかな目で見守る周りの人々。

「アレ…。またやってるわよ、あの親子…」
「アレって虐待じゃない?
 それより何でタイツ?
 キモイわね。」

そんな主婦たちの小言にも、

「応援ありがとォ――!!」

とむしろ感謝すら見せるガイの父。

「パパ…今のは応援じゃなくて…」

そんな父親の様子が周囲に比べて浮いていることは
幼い目からでも分かります。

「いいかガイ!
 お前の青春は始まったばかりだ!!
 青春に後ろ向きはない。オレのように!!
 お前が忍術と幻術が使えない事は
 むしろパパからすればうれしい事だ!!」

意外な言葉にキョトンとするガイ。
父は続けます。

「短所が分かれば長所が光る!!!
 お前の体恤は今からもう光り出している!!
 その齢でもう我が子の長所に気付けたのだからな!!」

その言葉に一瞬安堵するように笑うガイ。
しかし、すぐ不安が勝って訊ねます。

「パパ…本当は強がって…」

強がっているように見える父。しかし――

短所も長所になる!!!
 くどいとは丁寧な事!!
 うるさいとはにぎやかな事!
 頑固とは一途な事!

 わがままな人は…猫みたいな人!」

最後は置いといて、
子供に大切なことを教える父。
自分が信じた道を貫くには、
ときに自分の短所が長所であるように
働かさなければならない。
ようは考え方次第――
悲観したところで、何も為せないのです。
それを変えるか、そのまま通すかも自分次第です。

「おい。マイト・ダイ。
 お前また子供と修行ごっこかァ?」
「万年下忍がよくやるぜ!!
 アハハハ!!」

そんな親子のやりとりを
冷やかに見守る父の同僚たち。

「おう!
 応援ありがとー!!」

とにこやかに返す父とは違って、
ガイは睨み返します。
そして石ころを拾って投げつけるのです。

「パパを二度とバカにするな!!」

しかし、その言葉の代償を払うことになったガイ。

「ガイ。なぜ、あんな事をした!?」

病院のベッドの上で、父に訊ねられます。

「パパは…
 パパはどうしてそんな前向きでいられるの…?
 …青春はいつ終わるの?」

そんな我が子の質問に、
父は笑って答えます。

「青春に後ろ向きがない以上に
 終わりはないんだ。」

青春とは、前に向いているから青春と呼ぶと。
前を向き続けて死ぬ時こそ、
最高に燃え上がるのだと。

「パパはどうかしてる!!
 死ぬ時に青春もクソもないよ!!
 そんなの死ぬまで信じて
 強い奴に勝てる保証はないじゃないか!?
 今日のボクみたいに!!」

と喚く息子に、
父は言い聞かせます。

本当の勝利ってのはな!
 強い奴に勝つ事じゃあない。
 自分にとって大切なものを守り抜く事だ!

形だけの白黒が本当の勝利ではないんだ――と。

「ボクは…
 ボクは…ただ…
 パパの言う青春を…
 守り抜きたかったんだ!!」

そう言って涙する我が子に、
胸を打たれる父。
そっと抱き寄せ自らも涙します。
それから月日が経ち、父・ダイはガイに
禁術・八門遁甲の陣を授けます。

「下忍のオレが日々修行し、
 20年かけてやっと会得した唯一の技だ!!
 つまりこの技は遅々として
 唯一お前に伝える技!!!
 そしてお前にとって最も特別な技となる!!!」

禁術によって噴き出すチャクラのオーラを
目の当たりにしながらガイは固唾を呑んで見守ります。

「お前は確かに立派になった!
 だがこの技を使用するには一つの厳しい条件をつける!
 自分ルールだ!!」

強力な禁術を使用するための自分ルール――
霧隠れの忍刀七人衆に囲まれたとき、
応援に駆けつけてくれた父がその背中で示してくれました。

「逃げろって…父さん!
 相手は上忍連中で、
 しかも忍刀七人衆だぞ!
 父さん一人で止められる相手じゃない!!
 オレには……死門…
 "八門遁甲の陣"がある」

逃げろと言う父に、必死で反抗するガイ。
しかし宥めるように父は言います。
自分をルールを解くとき――その時こそ
自分の大切なものを死んでも守り抜くと決めた時。

3.紅き春の始まり(3)

死門を開いたガイ。
赤き蒸気を身にまといます。

「八門全開時、特有の…血の蒸気というやつか…。
 フフ…だがこうやって見ると、
 なんだろうな…
 まるで秋に散り朽ちる枯葉色…落ち葉の様よ。」

とマダラは碧きを過ぎ、落ちて朽ちるための、
死の前に咲き誇る色だと嘲てみせます。

「…確かにそうだ。
 だがただ朽ちて落ちる訳ではない!!
 それは新たな青葉の養分となるのだ!
 そして青葉が芽吹く新たな春へと繋げる時こそが
 青春の最高潮!! 深紅に燃える時!!!」

次の代、または仲間に託す自分の想い。
火の意志に託し、自らの命を燃やし、
その赤く染まる夕日のような眩しさをぶつけるは
ガイの奥義《夕象》<せきぞう>です。