646『神樹』


前回645話の感想は少し遅れております。
今回は忍がなぜチャクラを操れるようになったのか
についての秘密が明かされます。

1.神樹(1)

「一旦、結界を止めるか…」

限月読で、剥き出しになった十尾の巨木。
その成長は結界を解いたところで、
留まるところを知りません。

「こいつ…!
 チャクラを一気に吸収しちまうぞ!!
 逃げないと死ぬぞ!!」

伸ばした枝は意志を持ったように
忍連合軍の忍たちを次々に捕らえ、
その生気、すなわち生命チャクラを
枯渇するまで吸い取ります。

「こ…、こんなのありかよ…。
 一人一人確実に生きてるオレ達を狙ってくる…!」

生ける者たちのチャクラをすべて吸い尽くす怪物…

「オレだけなんでこんなに多いんだ。
 バカヤローコノヤロー!!」

特に多くのチャクラを持っているビーには、
猛烈な勢いで夥しい枝が迫ってきます。

「これが…神樹だ!
 十尾の最終形態だ!!!
 お前のチャクラが他の奴らより多いって分かってやがんだ。
 これじゃ…ナルトが皆に渡したチャクラも意味がねェ!!」

八尾・牛鬼によれば、
これが十尾の最終形態である神樹と呼ばれるものです。

「むっ!!
 こ…こいつはいったい何ぞ!!?」

柱間を襲う枝々。

「本来チャクラとはこの神樹のものだ!
 ここにある全てのチャクラ…
 そしてお前の莫大なチャクラもな。」

マダラが神樹がチャクラを
執拗に吸収しようとすることについて、
その理由を淡々と語ります。

「かつて神樹からチャクラを奪ったのは人の方だ…
 …コレはそれを取り返そうとしているだけだ…。」

とマダラ。首を傾げる柱間に対して続けます。

「…果てしない時の流れは本来の事柄に霧をかけていく…
 …なぜ忍が生まれたか、知っているか? 柱間。」

深淵の昔、太古と呼ばれる時代の話が始まるのです。

2.神樹(2)

「まだ人がチャクラというその概念すら持たぬはるか昔…、
 その時でさえ人は互いに争い続けていた。
 神樹はそんな争いに関わる事なく、
 ずっと人々から神柱として崇められていた。
 そしてある日、千年に一度実るという
 神樹の実が樹に宿った。
 それにどんな意味があったのかは分からぬが、
 決してその実に手を付けてはならぬというのが伝承だった。」

その時代も人々は醜い争いをしており、
全てを超越するように大木、神柱<しんちゅう>が
世界を俯瞰していたのです。

「そんな折り、争いに勝つため神樹の力を得ようと、
 その禁断の実に手をつけ口にした姫がいた。
 名は大筒木かぐや。
 その後かぐやは……、神の力を得て、
 その争いをたった一人で治めたという。
 …それが最初にチャクラを持った人だった。
 そして…かぐやの赤子は生まれながらに
 チャクラをその身に宿していた。」

大筒木かぐやと呼ばれる女性が
その神樹の果実を口にし、
超自然的なチャクラと呼ばれるエネルギーを
自在に操れるようになり、乱世を治めたようです。
そしてその子供もチャクラを宿していた。

「だがチャクラを取られた神樹は、
 そのチャクラを取り返そうと動き暴れ出した。
 …それが十尾だ。」

十尾とは神樹より生み出された
自己防衛のための怪物だったのです。
世界観的に聖剣伝説の"マナの樹"に似ています。
そしてそれを守ろうとする"神獣"が尾獣である十尾。

「そしてそれを止めたのがかぐやの子だった。
 …名を大筒木ハゴロモ
 チャクラの教えを説き忍宗を始めた忍の祖……
 六道仙人と呼ばれた男だ。」

六道仙人、忍の起源、十尾、チャクラ…
これらの点であったワードが線で結ばれる時が来ました。
このナルト世界の謎の深淵であり根幹だったチャクラとは
もともとは十尾(神樹)によって人にもたらされたもの。
そしてそのチャクラを初めて自在に扱えるようになった母をもち、
治めるべくして十尾を治めたのが六道仙人だった――

「…どうして、そんなことを…お前が…!?」

歴史に埋もれた神話――
しかし神話こそが歴史だった――
柱間はなぜマダラがそこまで詳しいのか訊ねます。

「うちはの石碑に記されていることだ。
 …争いを止めるために禁断の実に手を付けた人が……、
 その後、どうなってしまったか説明がいるか?
 そう…何も変わらなかった。
 それどころかさらに争いは凄惨になったのだ。
 オレは…それを知って絶望した…。
 この世界に本当の夢は無いのだよ、柱間!
 その実に手を付けた時より、
 人は呪われ……、
 より憎しみ合う事を決定づけられたのだ!
 忍そのものが愚かさを象徴する存在だとは思わないか!?」

神樹の果実を口にした原初の刻より、
憎しみに支配され続けているとしたら――
忍がある限り"平和"という夢はありもしない幻。
夢が叶う事は無い。絶望しかない地獄とは現世。
それならば、いっそのこと全てが夢の中ならば、
"平和"もありえるとマダラは考えるのです。

「またこの神樹に頼った力が…
 大幻術が…お前の言っていた
 "さらに先の夢"だってのか!?」

あの時、マダラが柱間と相容れない態度を示した理由。
力を手にした人間の愚かしさ。
それより沸き起こる憎しみの連鎖と絶えない争い。
そこに絶望しかないという絶望。

「……ああ。」

マダラは頷きます。そして少し違うとも言います。

「この神樹のつぼみが開花した時、
 花の中の眼が天上の月に写り、
 無限月読は完全となる。
 そして、それを為すのは…っこのオレだ。」

限月読によってこそ平和という夢は現れる――
そしてその思想を原初より貫き徹してきたのはマダラ自身。
決して若造になどくれてやるわけにはいかないのです。

「ナルト――!!」

執拗に追いかける夥しい枝に
とうとう捕まってしまったナルト。
扉間は《水遁・水断波》による高圧水の刃で
これらの枝を切り裂きますが、
驚異的な再生力とその数によって、
文字通りまるで歯が立ちません。

「くそ! 多すぎる。
 これではナルトを感知できても意味がない!」

と扉間。

「四代目…ナルトの所へ直接飛べるか!?」

《飛雷神の術》でナルトを空間転移で直接救う作戦ですが、
扉間自身はもう《飛雷神の術》を短時間に練る余力はない――

「無理です! さっきの飛雷神と、
 このツタでチャクラを吸い取られて今は…」

と頼みのミナトもチャクラ切れという状態。

「遅くなってすまんのう!」

木々を豪快に切り裂く《金剛如意棒》。
ナルトは遠退いていく意識の中で、
猿飛ヒルゼンに助けられたことをうっすら感じとります。
なんとかチャクラを練り直した扉間は、
ヒルゼンとナルトを確認後、近くまで接近し
《飛雷神の術》で移動します。
ようやく意識がはっきりしたナルト。
見渡せば忍の骸が無数に転がっています。
ぎりぎりと歯を軋ませ、オビトを睨みつけるナルト。

「もう…じっとしていろ…
 お前らは…充分、耐え忍んだ。」

そう言って、絶対的な力で圧倒するオビトを前に、
為す術も見当たらないナルトたち。
絶体絶命です。