久しぶりに月曜更新できました。

630『埋めるもの』

1.埋めるもの(1)

「オレのここには傷みしかなかった。
 それに何の意味がある。」

と逆にカカシに問いかけるオビト。

「だから全てを捨てた。
 …お前だって…ずっと苦しんでるだろう。
 リンの墓の前で…。オレの墓の前で…。」

心の傷はそう簡単には癒えません。
癒えない苦しみ――
だからこそ目の前の現実から
目を背けたくなる。

「カカシ…。もういいんだ…。
 お前ももう苦しまなくてもいい……。
 リンはここに居る…。
 お前にとって理想のオレも一緒にな。
 好きなものをを望め…。
 この幻術の世界では全て手に入る。
 お前の心の穴もすぐに埋められ…」

何でも望む通りになる幻の世界。
でもそれで本当に心の穴が埋められるか――

「リンはもういないんだ。
 そしてお前はまだ生きているだろ。
 こんなので…、こんなもので、
 本気で心の穴が埋まるとでも思ってるのか?」

幻術が見せる理想のリンとオビトを
カカシは雷切で振り払います。
形だけのものに中身はない。
虚構の世界で得られるのは、
所詮、虚しさだけでしかありません。

「生きていたリンの想いまで消すなよ!
 リンは命をかけて里を守り、残そうとしたんだ!
 独りで妄想ばかり穴に詰め込んでみても、
 心の穴が埋まる訳がないんだ。」

リンが何を大切に想い、何を願っていたのか――
リンを大切に想うというのなら、
そのリンの想いを消してまで得られることに
何の意味がある? ――何が得られる?
カカシはオビトを見据えます。

2.埋めるもの(2)

十尾は胸部をどんどん変形させていきます。
最終形態にではなく、
攻撃形態に変形しているだけであることを
八尾・牛鬼は指摘します。

「ナルトが回復中で九尾がチャクラ練り込み中だ。
 今はオレらの番だぜ、ビー。」

ナルトと九尾が前線に立っていた時、
ここぞというときのために力を温存していたビーと八尾。

「そうだ! オレ達が皆の操舵♪」

ビーも出番を感じます。

「よく聞け、ビー……。
 最終変化までさせたら、オレたちの負けだ!
 ここで……」

八尾がビーに語りかけている間にも、
十尾の変形は進み、
ラフレシアの花のような形態ができあがります。
そして辺り一帯に突風が渦巻くようなほどの
尾獣玉を練り始めます。
他の尾獣に比べたら、規模が全く違います。

「十尾が手加減無しとはな。
 ナルトの中に自分の中と同じ、
 尾獣達を見てあせったか…。」

と、十尾が突如として全力をかけて
目の前の存在を消そうとするところをみて、
マダラは思います。

「楽しみを目の前にして……、
 一度バラバラにならざるをえんとはな。」

とマダラ。
ナルトを狙うその尾獣玉は、ナルトだけでなく、
その場にいる忍たち皆を消すのは容易いものでしょう。
皆、一旦は高まった士気が下がります。

「ここへ来て今さら私たちがブレても
 どうしようもないでしょ…!
 ナルトはやるべきことを精一杯やってくれてる!!
 さっきのナルトの言葉でハッキリした!」

仲間が居ない事が一番痛い――
ナルトの言葉が、必死に皆を守ろうとする姿が、
サクラの心を打ちます。

「ああ……。
 オレたちみたいな忍でも、
 ずっと無理して守ってくれてる…。」

と一人の忍が答えますが、

「そっちじゃない!!
 私たちを仲間だと、
 心底思い知らせてくれてるって事をよ!!」

とサクラは言います。
守ってくれてることを果たしているナルトにでなくて、
その想いに自分たちがどう応えているのか――

「私はナルトを全快させる!
 私たちは私たちのやるべきことをするのよ!
 どうせ死ぬなら…何もしないより…
 自分なりに戦って死ぬ!!」

サクラは自分の覚悟を示します。
一人でできることは小さくても、
たくさんが集まれば、それは自然と大きな力になる。
シカマルは一人納得し、
諦めない方法の一つを提示します。
いのを経て、黄土と交信するシカマル。
岩隠れの忍以外でも簡単に使える土遁の壁。
それは脆く使い物にならないかもしれない。
でも人の和の力は思いがけない奇跡を起こす
可能性を秘めている。
もっと強固なものを提案しようとする黄土に、
シカマルは皆ができるものが重要だと言います。
そしてそれだけでなく岩隠れの忍には
もっと強力な土遁の壁を作ってもらう二段構え。
今度はビーと交信します。
壁で威力を削いだ十尾の尾獣玉を今度は
八尾の尾獣玉を使って斜め上空へ跳ね上げる作戦です!
いのの術を使ってその作戦を忍全体に拡散させます。
放たれた十尾の尾獣玉――
それを皆がつくる土の壁が壊れながらも、
どんどん威力を削いでいきます。
しかし思いの外勢いは強く、
このままでは止まりません。
最後、ビーと八尾が重たい尾獣玉を
上空へ弾き飛ばそうと必死に受け止めます。
そして奇跡は起こります。
いきなりそれが消えてしまうのです。
そう――

「遅かったか?」

戦場に到着したのは《穢土転生》で甦った
四代目火影波風ミナト

「イヤ…。
 ピッタリだぜ父ちゃん!」

3.埋めるもの(3)

「キレイ事をグダグダと…。
 現実を…、この世界の仲間との想いを
 捨てきってこそ、本当の幸せがある。」

とオビト。
しかしカカシは首を振ります。
そして、あの時自分に仲間の存在を教えてくれた
オビトの言葉をそっくりそのまま返すのです。

「忍の世界でルールや掟を破る奴は
 クズ呼ばわりされる。
 …けどな、仲間を大切にしない奴は、
 それ以上のクズだ。」

そして、を付け加えて――

「そして、仲間の想いを大切にしない奴は
 さらにそれ以上のクズだ。」

仲間の想いを大切にしてきたからこそ、
カカシは幾度と空けられてきた
心の穴の傷みから逃げずに、
目の前の現実から目を背けませんでした。

「かつてのお前の想いは捨てないよ…。
 それを否定するのが今のお前でも。」