557 『蒸危暴威』

最近遅れ気味で申し訳ありません。m(_ _)m
しかもカウンターがバグってるのに最近気づいた次第です…(T_T)

1.蒸危暴威(1)

水蒸気爆発の後、辺りの空を覆い尽す薄暗い雲。
ぽつぽつとあられが降り始めます。

「水蒸気爆発によって持ち上げられた空気が、
 上空で冷やされ、あられになったものじゃぜ!」

とオオノキ。水蒸気爆発と同時に上昇気流が生じて、
水蒸気を含んだ空気が上空へ持ち上がります。
そこで急激に冷やされ、霰となって降ってきているのです。
以前、《忍術について》の記事【麒麟*1にて、
用いた図を流用して説明させて頂きますと、




規模的に巨大な水蒸気爆発によって、強い上昇気流が生じると、
水滴は上空にて冷やされ、重力によって下降し表面が融解、
塵などを含んでから再度強い上昇気流によって押し上げられ、
上空で冷やされて固まり、再び重力によって落下します。
すなわち積乱雲の形成です。
このサイクルを繰り返して、十分に成長したもののうち、
上昇気流から外れて、地表に届くほどになったものは、
雹、霰、雨となって降り注ぎます。
二代目水影の水蒸気爆発は水が氷となるのに十分な高さまで
水蒸気を含んだ空気を押し上げるほどの威力があることになります。

「こいつは水影の体内の油と水を使った分身体じゃぜ。
 子供の形で表面を象っとる油の中は水だけなんじゃが…、
 特徴として熱しやすく冷めやすい体質でのう…。
 アクションを起こすと表面の油が急激に熱せられて、
 中の水が急激な蒸発現象を起こし…、水蒸気爆発になる。
 で……、あられによって冷やされると、
 小さく元へ戻って次の爆発に備える。」

二代目水影のような容姿をもった分身体。
水蒸気からだんだんと凝縮し、小さな人型となります。
術の全貌を明かすオオノキ。
油は水よりも熱しやすく冷めやすい性質をもっています。
このことをうまく利用した術といえます。
火山から吹き出す蒸気と同じで、
密閉された空間で熱せられた液体の水は、
体積にして約1700倍と膨れ上がります。
それが解き放たれ、爆発現象を起こすのです。

「本体がどこかにおるはずじゃ!
 こいつは相手にせず、狙うなら本体じゃぜ!
 この術を使っとる間、本体がすごく弱るのも特徴じゃ!」

オオノキは攻略法を皆に報せます。

「(オオノキの小僧…。
  よく、知ってんじゃねーかよ…。
  無の奴だな…。)」

幾度となく戦いあったライバル、無の教え子。
自分の術を良く理解していることに驚きつつも、
周囲に気を配る様子の二代目水影。
忍連合側の感知型の忍がその居場所を捉えることに成功しますが、
分身体がすばしっこく、妨害してくるためたどり着けません。

「あられが止む前に…、お前を封印する。」

我愛羅も当然二代目水影を感知していました。
砂漠大葬のピラミッドの中に二代目水影を押し込め、
今度こそ封印しようと封印班も印を結びます。
しかし貼られたばかりの封印札を、
おそるべきスピードで剥がしてまわる分身体。
体も巨大化していて、いつ水蒸気爆発を起こすかも分かりません。

「よう…」

ピラミッドの天辺から瓢軽<ひょうきん>な様子で
顔を突き出す二代目水影。
やけくそに放たれた手裏剣も、
もう一度ピラミッドの中に潜ることでやり過ごします。

「隠れるにゃ、ちょうどいいな…こりゃ。」

油の術で砂の中も自由自在といった様子。

2.蒸危暴威(2)

「オレも元五影の一人。
 この油さえあれば、おめーの砂の術も役に立たねーぞ。
 …すぐに封印されなきゃ、だがな。
 さあ…! どうやってオレをぶっ倒すんだ!?」

先ほどと比べて好戦的になった二代目水影。

「それを教えてほしいんですがの!」

とオオノキ。しかし二代目水影は渋るかのような表情です。

「そういうのはもう止めだ……。
 悪りーけどな。」

そう答える二代目水影に、我愛羅は訊き返します。

「さっきまで協力的だったのに、なぜだ?
 敵の考えに加担する気か?」

二代目水影は答えます。

「そりゃ違う! オレだって元五影の一人だぁん……。
 お前らに協力しとるのだよ…。別のやり方で!」

意図が汲み取れないといった様子で、
今度はオオノキが訊ね返します。

「…つまり、それはどういう…?」

でもそこまで深い意味があったわけではありませんでした。

「実力でオレに勝てなきゃ、
 お前らは死んだオレ以下ってことだろうが! ボケ!!
 そんなんで敵のボスに勝てるかァ!!」

敵の総大将を倒すのに自分程度を倒せなくてどうする――
二代目水影はあえて"試練"となることで、
後代たちの本当の力を引き出そうというのでしょうか。
逆にいえば自分を凌駕する力を、
後代の忍たちは持っていると信じているからこその行動です。

「五影の金の卵が見つかったと思ったのに……、
 風影…! おめーもただのたまごか!?」

我愛羅に何か感じていたところがあるのでしょう。
我愛羅がふと我に返ったように目を見開きます。
再び水蒸気爆発――。
しかしそこには、加瑠羅の形に象られた砂の防壁がありました。

「皆を守ると同時にダメージ覚悟で突っ込んで来るとはな!
 こいつを止めなきゃ何度やっても同じだぜ!」

皆を守る為に砂の防壁を築き、
と同時に分身体の凝縮が起こり人型となる中心地点まで、
我愛羅は一気に間合いを詰めていきます。

「(あられも止まったな…。ここからだぜ!)」

思いの外、あられもすぐ止み、
いつでも膨れることができる状態の分身体。
我愛羅との接近戦では、急激に膨張することで、
我愛羅のガードのタイミングよりも速く攻撃、
という器用なこともやってのけます。

「また砂分身か……。それは計算の内だ。」

しかし攻撃を受けた我愛羅は砂分身。
二代目水影は水蒸気の膨張を計算して、
あえて砂分身の方を攻撃しにいき時間を稼いだ様子。
下で砂の盾の後ろに退避していた我愛羅に、
いまにも爆発を起こしそうな分身体が迫ります。
砂で搦め捕らえようとする我愛羅

「砂のスピードじゃつかまりはしねーぞ…。
 どうすん…」

皮肉そうに二代目水影は言いかけようとしたところで、
言葉が詰まる二代目水影。
高速移動できる分身体ですが、
なぜかゆっくりとしていてあっさり捕まってしまいます。
砂に捕えられたとはいっても、爆発までは防げまい――
二代目水影は分身体を爆発させようとしますが、
それも抑えられてしまいます。

「動きが止まった!」

砂金に包まれて佇む分身体。

「さっきのオレの砂分身には砂金が隠してあった…。
 こいつの熱を利用して金を溶かし込んで接合させる…。
 そして金は水の20倍の重さがある。
 動作が鈍くなったのはそのためだ。」

からくりを明かす我愛羅
我愛羅の父が残していった砂金。
それをうまく利用して、
分身体を金でコーティングすることで、
速さを奪うことに成功したのです。
しかし、それだけではありません。
爆発をも防げたのはなぜだと問いかける二代目水影に、
我愛羅は答えます。

「あられと混ぜ冷えた砂はこいつを冷やすには十分。
 熱せられた水蒸気を冷やすには、
 熱伝導のいい金が一役かってる。」

砂金の外にも霰(氷)を取り込んで冷やされた砂。
その相乗効果で爆発を防ぐまでに熱量を奪ったのです。
熱というのは以下の3つによって伝わります。

    • 熱伝導:高温側から低音側への熱の流動。拡散。
    • 熱輻射:熱エネルギーが電磁波となって伝わる。
    • 熱対流:いわゆる対流。空気や水など物質の循環。

この場合もっとも大きく効くのは、
我愛羅の言うように熱伝導の部分で、
膨れ上がった表面積分だけ効いてきます。
急激に熱が奪われていくことで
膨張を続けていた水蒸気は凝縮して水滴に戻っていき、
水⇒水蒸気のスピードよりも
水蒸気⇒水のスピードがだんだん大きくなっていって、
爆発は抑えられたのでしょう。
状況、環境、相手の術を把握し、機知に富んだやり方で
二代目水影の術を撃破して見せた我愛羅
その真っ直ぐな眼差しを見て、ニッと笑います。

「やっぱお前……、金のたまごだ!!」