556 『我愛羅 VS 水影』

1.我愛羅VS水影(1)

「弱点を教えてやってるのに、どいつもこいつも…!」

蜃<おおはまぐり>がつくりだす蜃気楼。
その情報を与えてもらったところで、
二代目水影の圧倒的な強さに翻弄されるだけ。

「(…これは水というより、油に近いな…。
  砂でガードしても染み込んで滑り崩れる…。)」

我愛羅が苦戦するのは、
砂が二代目水影の術における水の浸透を防ぎきれないから。
我愛羅はこの水が油に近いものだと考えています。
おそらく水の保水力(土壌が水を堰き止める力)は、
砂の粒子間による摩擦によって間隙を小さくするところが大きく、
水よりも油の方が摩擦を低減させる作用が大きいため、
結果、間隙が水よりも大きくなり
このようにだだこぼれになると考えることができます。
さて少し脱線しますがこのだだこぼれ状況は、
"浸透速度"という形で式にして簡便に理解できます。
wikipediaによれば、*1
土壌中の浸透速度(浸透量)は次の式で与えられます。


F = B_{I} + P - E -T-S-R-I_{A}-B_{O}

    • F:浸透量。体積(容量)または長さで指定
    • B_I:対象とする土壌塊に他の土壌から流入する量
    • B_{O}:対象とする土壌塊から他の土壌へ流出する量
    • P:降水量
    • E:蒸発量
    • T:蒸散量
    • S:保水量
    • I_{A}:水溜り等で土壌に染み込む前に除外される水量
    • R:土壌表面の流水など、表面流出量

この場合は降水量、蒸発量、蒸散量、初期水量、表面流出量を
無視して考えることができて、さらに単位体積あたりを考えると、


F_{V} = \nabla \cdot V

    • F_{V}:単位体積あたりの毎秒浸透量(浸透速度)
    • \nabla \cdot V:単位体積あたりの流出入量の収支

と簡単に書けます。
この記事は【忍術について】でないので、あまり突っ込んで書きませんが、
(発散divについては、こちらを参照ください)*2
端的に保水力とは流出を食い止める作用をするものと考え、
水の流出入の収支で浸透する量を考えようということです。
するとどうやら保水力が高い(摩擦が大きい)方は、
流出量、流入量共に相対的に小さくなりますから、
浸透速度は小さくなります。
一方で保水力が小さい(摩擦が小さい)方は、
流出量、流入量共に相対的に大きくなりますから、
浸透速度は大きくなります。つまりだだこぼれとなるわけです。


2.我愛羅VS水影(2)

「お前ら…先に無の方へ行ったろ…。
 だいたいな…強そうな方から先に倒しにかかるもんだ。
 戦闘ってのは!」

無より下に見られたと思って、二代目水影はお冠です。

「だからそうした。」

我愛羅の無愛想なまでに素っ気無い返答に、

「どう見たってオレの方が強そーだろーが!! あっ!?
 死にかけのミイラにしか見えねーぞ、あいつは!! 違うか!!?」

と語気を強めます。
ライバルに劣る負け犬が息巻いているような台詞ですが、
しかし我愛羅も戦ってみて二代目水影の強さを実感したらしく、

「確かに…。人は見かけによらないと分かった…。
 アンタは強い。」

と素直に認めます。

「…今のオレは蜃が見せる広範囲幻術。
 …蜃気楼だって、お前にも言ったよな!?
 …だから物理攻撃は効かねーぞ!
 さっさと蜃を見つけて潰さねーといつまでたっても…」

そう言いかけて二代目水影は
ハッとしたように地面を見渡します。
すでに我愛羅は砂の能力によって感知をしていたのです。

「もう砂の物理感知してやがったのか…。
 通りで防戦一方で上の空だと思ったぜ!
 ま…だとしたらやっとまともなのが相手になるって事だ!
 いいかげん、オレをやっつけやがれ!」

と二代目水影。
砂模様として浮き上がってくる蜃。
オオノキはしっかりその姿をとらえ塵遁を構えます。
しかし先ほどの無との戦いで必要以上にチャクラを消費したため、
塵遁は不発に終わります。ならばと土遁・拳岩の術で、
蜃の殻を叩き割りにいきますが――

「腰の入ってねー軽いパンチじゃ無理だぜ。オオノキ小僧!
 塵遁を使わねーとこ見ると、スタミナ切れか?」

殻はビクともしません。

「今は小僧とバカにされてた昔とは違うんじゃぜ!」

と土遁・超加重岩の術で密着状態から重量を増やして、
発頸のような要領で大貝を叩き割ります。
しかし、その反動で腰にもぎっくりと衝撃が走ります。

「お前が土影の名を受け継ぐのは分かってたがな…、
 今じゃ無理がたたって、
 腰痛持ちのじじいに成り下がってるじゃねーか!
 腰の入った思いパンチに変えたはいいが…、
 重すぎて腰がガッタガタ。」

と目の前に腰を痛めてうずくまるオオノキに
つらつらと言い放つ二代目水影。

「!! って! おい! 早く逃げろ!!
 鬼灯一族の水鉄砲の術だ!!」

指で鉄砲を構える二代目水影。
どうやら二代目水影は水月と同じ鬼灯一族のようです。
動けないオオノキに無情にも放たれた高速の水弾は、
首を貫通してしまいます。

絶体絶命かと思われたオオノキ。
しかし砂の眼を操ってオオノキの状態を把握していた我愛羅が、
二代目水影の目前のオオノキを砂分身と入れ替えていて、
本物のオオノキはすでに我愛羅の近くに匿われていました。

「大物になるぜ…こいつは…。
 マユ無しだしな!」

一瞬の隙をついて我愛羅は二代目水影を砂で包みます。
しかし油のような特殊な水遁のためか、
砂が思うように固まりません。

「(ヤッベ……!!
  バトルが楽しくなってきたぜ!!)」

と二代目水影。
戦闘狂というわけではないでしょうが、
自らの置かれた状況をそれなりに楽しんでいる様子。
固まらない砂を見て我愛羅もそれならと、
二代目水影のいる空間を砂漠層大葬という術で
ピラミッド状に封じてしまいます。
封印班もこれを機にありったけの封印札を投げつけ、
印を結び封印を完成させます。

「よし…ワシらの勝ちじゃぜ…」

そう一息つきかけたところ、
砂のピラミッドが大爆発を起こします。
そして辺りを邪悪な蒸気が包み込みます。

「幻術か?」

息を呑む我愛羅にオオノキは説明します。

「イヤ…幻術じゃない……!
 ……先代の無様が手を焼いたという
 水影の無限爆破忍術…蒸危暴威!!」

二代目水影もそうそう簡単にはやられないようです。
蒸危暴威…聞くからに恐ろしげな術。
粉塵爆発のような術でしょうか。