446 『ただ二人を守りたい』

1.ただ二人を守りたい(1)

チビの亡骸を抱きかかえ涙する長門に、いつまでも泣くなという弥彦。

「やられていつまでも泣いてるだけじゃ何も変わらねェ。
 この国の雨と同じだ。オレはこの国を変えてやる。
 それには口だけじゃなくて力がいる! 忍術を学ぶ!」

3人は忍術を学ぶために適任な忍を探し回ったようです。
そんな中、半蔵と戦った3人の忍たち、すなわち自来也綱手大蛇丸に再び出会うのです。
強くなるために、より強い忍を選んでのことでしょう。

自来也綱手大蛇丸を押し切ってこの3人を受け入れることにします。
最初は木ノ葉の忍を受け入れることができなかった長門も、
自来也の優しさや人となりに、だんだん閉ざしていた心を開きかけてきた、
そんな矢先に長門が弥彦を守るために潜在的な力を解放して
岩隠れの忍を無意識のうちに斃してしまう事件が発生します。

「どうやらオレには特別な力があったようだ。輪廻眼の瞳術だ。
 その件があり忍の修行に乗り気でなかった自来也先生も、
 オレ達に忍術を教えるようになった。」

自来也はその事件が起こるまで、
忍術を習いたいという懇願を受け入れていなかったようですが、
それを境に、忍術を教えるようになった――という経緯が語られます。

「先生は己の身を守るための忍術だと言ったが、
 オレだけに関して言えば輪廻眼の力をコントロールさせるためだったようだ。」

力の暴走――それは傷つけたくない人を傷つける可能性があることを意味します。
それを危惧した自来也は、自衛の意味合いも兼ねて3人に忍術を教えることにしたようです。
自来也もむやみやたらに3人に忍術という人を傷つける力を教えたわけではなく、
それはあくまで大切な人を守るためのもの――そう願ってのことだったことが、
自来也の台詞からも窺い知れます。

「ワシもそれが正しいのか間違っているのか良く分からん。
 だがお前のお陰で弥彦は死なずに済んだ。友達を守った。
 ……お前は正しい事をしたハズだ。
 誰もお前を責められはしないのォ…。」

打ちひしがれている長門にかけた自来也の言葉。
その言葉に長門は救われると同時に、自来也のことを心底認めるに至ったのです。

「それから先生はこう続けた。
 “傷つけられれば憎しみを覚える。人を傷付ければ罪悪感に苛まれる。”
 だがそういう痛みを知っているからこそ人に優しく出来る事もある。
 人は痛みを知るからこそ成長できる。そして成長とはどうするか、
 自分で考えることだと。痛みを知り、考え、どう答を導き出すのか。」

成長すること…自来也はそれを言葉で具体的に説明することはできなかった。
痛みを知って、人に優しくできるようになる――
そんな“強さ”が長門の中で育っていってほしいという願いが、
この問答の中にあったのかもしれません。

「ボクはただ二人を守りたい。
 どんなに痛みを伴う事があったとしても。」

長門の答は、大切な人を守りたいという想い、でした。

「この世は戦いばかりだ。…憎しみばかりがはびこってる。
 オレはそれをどうにかしたいと考えとる…。
 平和とは何か…その答が知りたくてのォ…。」

このとき自来也が何気なくもらした一言、“平和”という言葉が、
長門の戦争に対する辛辣で耐え難い思いも相俟って
鮮烈なまでに長門の脳裏に焼きついたのでしょう。

2.ただ二人を守りたい(2)

三年間の修行を終えた長門たち。自来也とも別れることになります。
しかし長門の胸の奥には、自来也との別れの悲しさともう一つ、
自来也が口にしていた“平和とは何か”その答えが痞<つか>えていたようです。
長門自来也が教えてくれた輪廻眼に纏<まつ>わる言い伝えを思い出します。

「はるか昔…人々は常に争い…戦争が絶える事がなかった。
 今よりもひどい時代だ。そんな時代にある一人の僧侶が現れた。
 初めてチャクラの真理を解き明かし、世界を平和に導こうとした。
 忍宗という教えを説いて世界を回ったと伝えられる。
 時が経ち、忍宗は忍術と呼ばれるようになる。
 忍術は武力ではなく人々を平和に導くための教えだった。

戦禍が蔓延し、人々を苦しめていた時代。
そんな最中、チャクラの真理を解き明かす忍宗と呼ばれるものを説き、広め、
救世主と呼ばれた六道仙人という一人の僧侶の話。
忍宗とはそもそも人を傷付けるものではなく、人を幸せにするための教えだったようです。
火遁も攻撃するためのものではなく、魚を焼くなどの料理に用いるに過ぎないものだった――。
そんな背景が想像されます。

「“我、安寧秩序を成す者”。それが仙人の言葉だそうだ。
 いつしか人々が本当に理解し合える時代が来ると信じていたんだろう。
 もしかすると…お前は仙人の生まれ変わりなのかもしれんのォ。
 お前の目に仙人の想いが託されている気がするわい。」

伝承の六道仙人の持っていた輪廻眼と同じ瞳をもつ長門
正しき力として人々を平和へ導いてくれることを自来也は願って、
長門に平和への答を託したのです。


長門、弥彦、小南の三人は程なく雨隠れの忍を集め組織をつくります。
武力に頼らない平和を構築することを理念に、
様々な賛同者の強力を得て、弥彦を頂点とするその組織は拡大していきます。
雨隠れの里も無視することができないほど大きくなっていたその組織に、
里長の半蔵の方から歩み寄ってきます。そして共に誓った三大国への平和交渉。

「しかしそれが全ての災いの始まりだった。オレ達は子供だった。」

小南も遠くを見つめるよう。長門は続けます。

「そのせいで弥彦は死んだ。」

全ては半蔵の罠だったのです。
雨隠れの主権を今や巨大となった組織に牛耳られるのではないか、
その疑念から半蔵は木ノ葉とすら手を組んだのです。
交渉場所として落ち合う所――、
そこにはダンゾウ率いる暗部部隊と、小南を人質にとる半蔵の姿。

「オレにとってお前たちの組織は邪魔だ。
 弥彦…リーダーのお前にはここで死んでもらう。
 抵抗すればこの女の命はない。」

そして組織のリーダーである弥彦の命を要求するのです。

「そこの赤髪のお前…それで弥彦を殺せ。
 そうすれば女とお前は助けてやる。」

弥彦の命と小南の命を秤にかけさせることを迫る半蔵の言葉。
長門の前に放たれた無情の苦無。

「やめて長門!! 私の事はいいから、二人共ここから逃げて!!」

叫ぶ小南の声も朧にしか聞こえないような状態だったでしょう。

長門…オレを殺れ。」

弥彦は長門に自分の命を託すことを選びます。

「早くしろこの女が死んでもいいのか!?」

どうすればいいかわからない…
動転している長門は苦無を手に取ってしまいます。
苦無の刃先を戦慄きながら見つめる長門
そしてほんの一瞬の出来事でした。
弥彦が戸惑う長門の腕を掴み上げ自分の胸を貫かせたのです。

「小南と…なんとしてでも生きのびろ…。
 …お前は…この世の…救世主だ…。
 お前…だったら…本当に――――」

自分の想いを長門に託し事切れる弥彦。
どんな痛みが伴っても二人を守りたい――
その願いはこのような形で絶たれ、無力感と絶望感にただただ支配される長門

「それが二つ目の痛みだ。…成長したハズなのに、
 前と何も変わらなかった。
 両親が死んだ時と同じだ。オレの出したかつての答は、
 クソ以下だと気付いた。」


長門について2】*1では、
長門が大切な者を喪失したことにより“刃の心”をもつペインを誕生させた、と推察しています。
ここで疑問としてあげていた半蔵一族の根絶やしに至る本当の理由――
あわせて疲弊してまでも尾獣獲得に特に必要ない木ノ葉の里壊滅に至った本当の理由――
これらは復讐を超えて、耐え難い喪失が長門に築き上げた絶望への反動、
それを埋め合わせてくれるだろう平和への渇望だったといえるのではないでしょうか?
このように考えると長門(ペイン)の一見不可解な行動も分からなくもありません。