445 『世界の天辺』

合併号になります。

1.世界の天辺(1)

うずくまる幼い長門の傍らには父と母の遺体…、
そして二人の木ノ葉の忍びも斃れています。

「父と母はお前達木ノ葉の始めた戦争で死んだ。
 あの時の痛みは忘れる事はない…。
 今に至るまで痛み続ける。」

長門が両親を亡くし孤児となった辛さ…
幼い頃両親を知らず孤独の中で育ってきたナルトは
その“痛み”が分かるのかもしれません。
神妙な面持ちで長門の話を聞いています。


――ところで、長門の両親を直接殺したのは木ノ葉のであって、
長門は木ノ葉の始めた戦争で両親が亡くなったという言い方は
やや不自然に感じられなくもないでしょう。
わざわざそのように言うということは、そもそも両親を殺したのは誰か、
ということよりも、そのような災禍が起こらなければならなかった根本、
すなわち“戦争”に対しての憎しみがそのように言わせているといえます。
戦争は自然生成的に生じる天災と違って人の過ちが起こす人災。
当然その大元である“人々”に対しても憎しみが向かうでしょう。
小国にある雨隠れの里を巻き込んだ火、風、土の三国の戦い。
しかしそもそもその原因をつくったのは火の国木ノ葉隠れの里――
まるでそう言いたげな長門の台詞。
木ノ葉の里でのペインの戦いもそれを表しています。

「お前たちの平和が我々への暴力なのだ。」

大国への怒りを全て火の国に集約させたような物言い。
そして九尾捕獲という目的に必要ないはずなのに、
最大限の神羅天征を使って木ノ葉の里を壊滅させたこと。
長門が理想とする平和のためだったのかもしれませんが、
――木ノ葉への復讐でもあったのかもしれません。

2.世界の天辺(2)

「この痛みは憎しみに変わり、オレの力を開花させた。」

長門は――両親の死によって輪廻眼を開眼したのでしょう。
血塗られた万華鏡写輪眼の開眼に類似性を感じないでもありません。
雨が降りしきる荒野を一人あてもなく彷徨う長門
最後の食料も尽き空腹のあまり倒れ込んでしまいます。
そんな長門に迷子になった子犬――チビが、
同じ境遇にある長門に懐くように寄り添います。

「すまないね…君にあげられるものはないよ…。
 こんな御時世だ。自分達の分だけでやっとなんだ…。」

必死の想いで物乞いにまわっても、皆が皆自分のことで手一杯。
長門は結局食料を得られず、再び地面へと倒れてしまいます。
そこを通りがかった小南。

「これ…食べて…」

コッペパンのような食料を長門に一個丸々分けてあげます。
チビに半分分けて、おいしそうに頬張る長門
食事も終え、小南は長門とチビを弥彦の待つ隠れ家へ連れて行きます。

「小南、何だよそいつらは?」

怪訝な顔をする弥彦に、

「死にかけてたから…」

と答える小南。自分たちと同じような境遇にある長門を放ってはおけない、
何もせずにはいられないという気持ちから連れてきてしまったのでしょう。

「犬まで拾ってきたのかよ…ったく。名前はァ!?」

きつい口調であっても、弥彦はすぐに長門のことを受け入れた様子です。

「ずいぶんと盗みをやった。
 乱れた小国に孤児を支援する施設など皆無だ。
 身寄りのない子供達が生きていくにはそれしかなかった。」

必死で三人は生きにくい中を生きようとしました。

「そんな状況の中でも弥彦は希望を捨てなかった。」

こんなところで終わりたくない――
その想い、“夢”こそが弥彦を、そして小南、長門もともに、
末法思想の蔓延<はびこ>る様な世の中を強く生き抜こうとさせてくれていたのです。

「ボクはこんなところで終わるつもりはねーんだ。
 ボクにはでかい夢があんだ。世界征服だ!!」

もしここで死んでしまえば自分の両親が浮かばれることはない。
天辺を取れば何もかも思いのまま――そう戦争をなくす事だってできるという想い。
そんな折、偶然彼ら三人は雨隠れの長である半蔵と自来也綱手大蛇丸
戦っているところに遭遇してしまいます。
運悪く巻き込まれた爆発によって意識を失ってしまったチビ。
熾烈な戦いの中身を潜めつつも、こんな日常的に繰り返されるだけの惨事に、
弥彦が拳を木の幹に叩きつけながら声を荒げます。

「こんな戦いの続く世界なら――ボクがこの世界の神様になってやる!!」

そう強く願う弥彦の想いは、長門にも引き継がれていくのです。

3.弥彦の夢

弥彦の夢――世界征服――、ある時それは強くならなければ達成できないものだと
弥彦たちは考えるようになったのかもしれません。
半蔵と自来也たちの戦いを見ていた弥彦達。
自来也たちに食料をねだりにいったことも、
偶然を装ってのことといえるかもしれません。
里長である半蔵と対等に渡り合える実力をもった木ノ葉の忍たち。
強くなるためには忍術を学ばなければ――おそらくそう考えていた弥彦たちにとって、
自来也たちへの接触、そして忍術を教えてくれるように頼んだという一連の過程は、
世界征服を目指そうとする弥彦たちの心の強かさを感じることができます。