449 『希望の花』

1.希望の花(1)

「小南…もういい…。オレに新たな選択肢ができた…。
 諦めていた選択肢が…。」

長門はそのやつれた身体を粉にするようにして、
最期の術『外道・輪廻天生の術』を使います。

「輪廻眼を持つ者はペイン六人全ての術を扱え、
 生と死の存在する世界の外に居ると言われている。
 長門の瞳力は生死を司る術。七人目のペイン…」

小南の言うペインとは輪廻のおける六道の“道”をさしていると思われます。
すなわち天道、人間道、修羅道畜生道、餓鬼道、地獄道
さらにこれら輪廻の枠組みから外れた(“解脱”というらしいです)
“外道(魔縁)”*1と呼ばれる存在――それが長門、七人目のペインであるということでしょう。

「今のチャクラでこの術をしたら…。
 長門は……、そこまでしてこの子に…。
 ………。長門を変えた不思議な子。」

長門を憂いながらも、ナルトに眼を移す小南。
ここまで長門の考えを変えさせたナルト。
長く長門に連れ添って支えてきた小南としては、
長門の信念が自分の信念でもあったはずです。
それが一日の出会いのうちに変わってしまう…
彼女が女性として長門をどう思っていたか、それは分かりませんが、
彼女にとって長門は大切な存在のはずです。
とても不思議な気持ちになるでしょう。


外道・輪廻天生によって地獄道の閻魔があらわれ、
喰らった魂を解放します。

「…母ちゃん…。…ここはどこじゃ?」

蘇ったフカサク。突然の出来事にシマの顔も真っ青。

「フカサク様は確実に死んでいた!
 何なのコレ…。一体何が起こったの!?」

サクラのように不可思議さを目の当たりにして、木ノ葉の里は困惑の渦といった感じです。

「予言通りじゃ…。自来也の弟子、二人共が予言の子として交わり、
 忍の変革を導く者達だったとは思わなんだが。
 あの時…自来也が諦めん選択をした時点で、
 この事は決まっていたのかもしれんのう。」

今回の様子を水晶から覗く大じじ蝦蟇。
事前に予言として知っていたとはいっても、ほっとした様子です。

「……あの本が本当に世界を変える鍵になるとはのう。」

このような形で予言にあった“本”がその意味合いを果たすとまでは予想していなかったようです。


一方、カカシとサクモの対話。

「結果はどうであれ父さんは精一杯やったよ。
 今なら父さんを理解できる…。
 皆のために掟を破った父さんを――今は誇りに思う。」

仲間の命のために掟を破り、結果里の者から責められ、自らその命を絶ったサクモ。
それは十もいかぬカカシにとっては大きな傷となり、
結果頑ななまでに掟を守ることに固執するようになったこともあった――
けれど戦友オビトの死により、仲間という大切さに気付かされ、
はじめて父のした行為が尊いことだったと理解できたのです。

「ありがとう…」

突如としてカカシに光の矢があたります。

「お前と話せてよかった。
 オレを許してくれてありがとう…。
 これで安心して行ける。母さんにやっと会えるよ…。」

サクモは残してしまった幼かった息子を思うと、
自分よりも早く死んでしまった妻に会うに会えなかったのでしょう。
でも、それもようやく叶うぐらいに、
自分を許すくらいまでに大きく成長したことに喜びます。
そして死ぬには早い、まだやり残したことがあるカカシに
父親として息子が誇りであるというように微笑むのです。
カカシは目を開けます。

2.希望の花(2)

髪の色もすっかり変わってしまった長門
その様子を見るに堪えないといった面持ちで見つめるナルト。

「…戦いとは双方に死と…傷と痛みを伴わせるものだ…。
 大切なヒトの死ほど受け入れられず…
 …死ぬはずがないと都合よく…思い込む…。」

大切なヒトの死…それがどれだけ心に大きな傷となり、痛み“ペイン”になる。

「…特に戦争を知らない…お前たちの…世代は仕方が無い…。
 死に意味を見出そうとするが…、
 …あるのは痛みと…どこにぶつけていいか分からない…憎しみだけ…。

結局のところ、戦争は憎しみしか、死は悲しみしかもたらさない――

「ゴミのような死と…永久に続く憎しみと…癒えない痛み……。
 それが……戦争だ…。ナルト…お前がこれから…
 立ち向かう事に……なってくるものだ……」

だからこそ、長門は必要悪を演じてでも無くしたかったのでしょう。
でもそれはやはり憎しみの輪の上を回り続けているだけで、
まるでメビウスの輪のようにいつのまにか元の場所に戻ってくるものだった――
長門は振り絞るように続けます。

「本といい…お前といい…、
 誰かが全て…仕組んだ事のように…思える。
 イヤ…これこそが…、本当の神の仕業なのか……。
 オレの役目はここまでのようだ……。
 ナルト……お前だったら…本当に――」

憎しみを断って、戦争のない世界へと導ける――と。


見晴らしの良い高台。そこに紙でつつまれた長門の遺体と、
その隣には弥彦の遺体があります。

「ペイン天道こそ弥彦の亡骸で作ったもの。
 私たちにとっては大切な人……」

紙でくるんだ二人に想いを馳せるように小南は遠い目をします。

「お前はどうすんだ?
 もう“暁”に戻るとは思いたくねーけど…。」

そう訊ねるナルトに小南は答えます。

「“暁”は抜ける。私にとっては弥彦と長門が全てだった。」

小南は続けます。

「弥彦の夢……、そして長門の夢。
 二人の夢がお前に託されたなら、これからはお前が二人の夢だ。
 長門がお前を信じたなら、私はお前を信じる。
 私たち雨隠れはお前と共に二人の夢を追いかける事にしよう。」

ナルトは覚悟を新たに答えます。

「ナルトって名前と諦めないド根性…それから痛み……。
 それが師匠と兄弟子から譲り受けたものだ!!」

小南はナルトに紙の術でつくった花束を贈ります。

「今度こそ…お前は散ることのない希望の花であってくれ。」


どこかアジトの様なところでに集まる鷹のメンバー。
傷は癒えたのかという水月に、もちろんといった表情で返すサスケ。
とうとうサスケたちはペイン襲来で疲弊している木ノ葉へ、
奇しくも追い討ちをかけるように動き出したのです。