669『八門遁甲の陣』

1.八門遁甲の陣(1)

「行って下さいガイ先生!!!
 ボクはもう――」

最後の覚悟を表すように
紅く燃え上がるガイの闘気。
死門をこじ開け、
六道の力を手にしたマダラすら凌駕する勢いです。

「アレがガイ先生の言っていた夕象!!」

ガイが拳を振り下ろすたびに、
隕石でも衝突したかのような凄まじい衝撃が走ります。
さながら巨象が足踏みするかのよう。

「(夕象は1速から5速までのギア上げ連続攻撃のハズ…
  …八門の杜門まででも相当な負荷を体に強いる…
  おそらく死門の痛みは…
  ボクには想像を絶するもののハズ!!)」

リーが推測するように、
ガイもその想像を絶する痛みからか、
思わず連続攻撃の手を緩めてしまいます。
車のギアで考えれば1速目に大きな力を要し、
2速、3速…とエンジンの回転数を
燃料を適宜噴射することで調整しながら
抵抗の小さい高ギアにすることで、
車全体の速度を速めていきます。
夕象も同じく、対数曲線的な出力を得ると思われますが、
ところどころでの回転数調整の際の燃料(チャクラ)の噴射が、
すでに死門まで開いたガイにとって応えるのでしょう。

「…空気を殴りつけぶつけてくる体術技か…
 いわゆる空気砲…
 (…アレを4・5発食らい続ければ厄介だな。
  なによりそれを作り出す拳に
  直接やられるのは避けた方がいいだろう。)」

と六道の絶対的な力を得たマダラすら
本能的に畏怖する凄絶さです。

「八門遁甲の陣とやり合うのは稀だ!
 せっかくだ。相手をしてやる!」

《夕象・壱足》を喰らってもまだまだ余裕のマダラ。
ガイも連続攻撃のために今一度集中します。

マイト・ガイは何をした?」

八門遁甲について良くは知らない我愛羅
カカシが答えます。

「八門遁甲の陣。
 己の力のリミッターを外し、
 極限まで力を引き出す技だよ。
 かつて中忍試験でリーくんが
 君にやってみせたアレの最終段階。
 リミッターの全開放は五影をも上回る
 何十倍もの力出すことができる。
 だが…それは一瞬…。
 この技の後…開放者は必ず死ぬ。」

そんなガイの様子をリーは悲しみを拭いながらも、
しかし称えるように言います。

「悲しくなんかありません!!
 覚悟を決めた男を前に――
 哀れみも悲しみも侮辱になります!!!」

大切な者を命まで懸けて守ろうとする
最後にして最大に輝く瞬間――
その花火のごとく爆発する力を
悲しんで見届けないことなど
決して望まれてはいないことはリーは分かっています。

空気を蹴り上がり昇り続けるほどの火力。
舞うように空を逃げるマダラをガイが追っていきます。

「オレ達はガイのサポートだ…。
 聞いてくれ。」

ミナトもリーの言葉に納得し、
次に自分たちがどうすべきかを提案します。

「発動型ではなく形態変化する消えない常備タイプ…
 触れた箇所は消える…が接触した感覚がハッキリとある。」

マダラの周囲を張り付くように防護する黒いチャクラ球。
おそらく尾獣玉のような濃縮チャクラですから
高質量の物体でしょう。

「そしてアレを飛ばせる距離は約70メートル。
 それ以上はコントロールが効かなくなるからだ。」

したがってたとえマダラとはいえ制御できる限界がある。

「ちゃんと存在し目視して追えるなら、
 カカシ…君の神威も通じるという事。
 そして、離してしまえばコントロールを失わせられる。」

チャクラ球を引き離してしまおうという作戦のようです。

「正直言って左目は見えなくなってきてまして…
 神威で的確に狙うにはかなり近づかないと…」

しかしカカシの視力は落ちてきており、
《神威》もコントロールが定まらない――

我愛羅くん。砂を準備してくれる?」

それならば、と我愛羅の砂雲による移動を組み合わせる策です。

「オレの砂でカカシを上空へって事だろうが、
 オレの砂のスピードでは奴の攻撃の的になるぞ。」

砂雲の飛行速度はそれほど速くはないことを伝える我愛羅
ミナトはその点も考慮に入れてはいるようです。

「大丈夫。オレが居るから。
 カカシにはオレのクナイを持たせる。」

一方、滾るように闘志を燃やすリーを見て、

「だって君はまだ、
 ガイが命を懸けて守りたい青葉なんだから。
 …リーくん。
 君はここで我愛羅くんのサポートをお願い。
 それともう一つ…ボクのクナイを。」

と諭し、ガイを皆で最大限サポートする態勢を整えます。

2.八門遁甲の陣(2)

マダラの隙を狙い澄まし、《夕象・壱足》を放つガイ。
すぐさま防御の為チャクラの障壁を展開するマダラ。
しかしその凄まじい衝撃を耐え凌いでいる間もなく、
《夕象・弐足》、《夕象・参足》、《夕象・肆足》が入り、
マダラといえどまさに手も足も出せない
右にも左にも物理的に動けない状況に陥ります。

「何があろうとただ突っ込めガイ!!」

ガイの好勢にミナトの応援も熱が入ります。
渾身の一撃を繰り出すために拳をためたガイ。
《夕象・伍足》――ファイナルギアです。
しかし、そうはさせまいと、
チャクラ障壁の殻に閉じこもり絶対防御の構えと同時に
チャクラ球をガイに向けて斉射するマダラ。
そのタイミングに合わせてリーがミナトのクナイを投げます。

「いいタイミングだ、リーくん!」

それに合わせてミナトは飛雷神の術でガイの前に出、
黒いチャクラ球を全て受けて、
それらとともに再び飛びます。
これで後はチャクラ障壁のみです。
今度はカカシと我愛羅の出番。
障壁の向こう側へガイを《神威》で飛ばします。
死に体となっているマダラに、
ガイの渾身の一撃が炸裂します。
障壁を突き破り、マダラを勢いよく地面に叩きつけます。

「…柱間以来だ。
 このワクワクは!
 まだ踊れるだろ?
 さらに別の技はないのか?
 もっと楽しませてくれ。」

さすがに生身の体ですから、
六道の力があるとはいえ、
満身創痍は隠せませんが、
マダラの表情は生き生きとしています。
さらに上位の技はないのかとまでガイを挑発します。
ガイもまだ余力がありそうです。
"朝""昼""夕"と来て"夜"が無いわけではないでしょう。
次こそガイの最終奥義というところでしょうか。
一方その頃ナルトが目を覚ますと――