658『十尾の人柱力・オビト』

1.十尾の人柱力(1)

「十尾が……消えた!?」
「どうなってる!?
 やっつけたのか!?」

圧倒的な存在感とチャクラ。
この世の全てを凌駕する力をもって
君臨していた十尾の姿が目の前から消え、
ざわめく忍連合の一同。
しかし、これは嵐の前の静けさに過ぎませんでした。

「ヒナタ! 見てた!?
 何がどうなったのか説明できる!?」

白眼で見渡すことのできるヒナタなら
何かこの異様な状況の手掛かりを知っているに違いない。
サクラは声を掛けます。

「…あの人に…十尾がすべて…
 吸収されてしまって…、
 チャクラから視ても…」

ヒナタが見ていた一部始終。
十尾の巨体が吸い込まれるようにオビトと同化していき、
今までのダメージが何事もなかったかのように
立ち尽くす不気味な人型…
その背中には十尾を吸収したことを表すかのように
9つの勾玉と十尾の一つ目が模されて描かれています。

「…じゃあ、まさか…、
 アレが十尾の人柱力だと?」

事態を把握したのはサクラだけではありません。

「ぬ……マズイのォ。
 人柱力とは。」

柱間や扉間といった実力者さえ、
自分の何かを揺るがされるような
絶対的な恐怖を感じずにはいられません。

「ナルト…。
 なぜ分かる!?」

この事態をいち早く察したナルト。
サスケが説明を求めます。

「オレは尾獣達と仲良くなった!
 そん時あいつらからチャクラもらってっから、
 ハッキリ分かる!!
 尾獣達のチャクラが次々オビトの中へ
 入ってったのを感じられたし…」

ナルトに渡された各々の尾獣たちのチャクラ――
したがって彼らのチャクラが融合されていく様子を
手に取るようにナルトは感じていたのでした。

「それにオレってば六道の生き返りの術を一回見てる!
 そもそも術の印が違う!!」

そして長門が見せてくれた《輪廻天生》の術。その印の結び方と、
オビトが見せていた印の結び方が異なることも見抜いていました。

「とにかく、あいつは初めから、
 人柱力になる術をしてたんだよ!」

オビトは一切合財を
この十尾の人柱力になることに費やしてきました。
過去を捨て、人の道を棄て、すべての怨憎と
歪んだ欲望を貪欲なまでの執念をもって完遂させるつもりです。

「八っつあんよ!
 アレが最終形態か?」

八尾に確認をとるビー。

「イヤ…違う…。
 ややこしいがアレじゃない…。
 どうやら最終形態前で人柱力に
 利用されやがった。」

八尾もこの状況を感じとっていたようです。
十尾は最終形態手前で人柱力にされた――
オビトはあえてこのタイミングを選んだのでしょう。
人柱力となるなら、手に余る前にするのが最善ですから。

「たとえ人柱力になろうとも、
 明神門は継続中ぞ!!」

柱間はさらに堅牢に明神門による結界を強化します。
しかし爆発する力を留めておけないように、
湧きだす力はもはや明神門を以てしても抑えきれません。

「十尾を止めていた仙法の封印を…」

音を立ててがらがらと崩れゆく明神門を戦く扉間。

「ここまでとは…!」

ヒルゼンも目を丸くするしかありません。

「ただ力をぶちまけるだけの前とは違う…。
 力を集中できるようになったみてーだ。」

と八尾。それがどれだけ厄介な事か――
その莫大なチャクラを一点集中させたときの撃力は、
この世に耐えきれるものなどないでしょう。
事実、最強の結界、四赤陽陣の壁をも
いとも容易く破ってしまったのです。

「皆の者、気を抜くな!!
 向こうで十尾の力を我がものとした輩が
 何をするか分からぬぞ!!
 結界を壊しおった!」

皆に注意を喚起する柱間。

「やめろ…オビト。
 もうやめるんだ……」

ミナトの声ももう届いてはいないようです。

「ハッツキリ言う…こやつは――
 ワシより…強い!!」

もはや柱間ですら潜在的にその力の差を認めるまでの存在。
あっというまに分身体が薙ぎ倒されてしまいます。

「尻込みする火影共が見られるのは楽しいが……、
 待ってもいられなくなったな…。」

とマダラ。この状況を快く思っていない様子。
オビトが手に負えなくなったと判断した時点で、
何らかの手段を打とうとしているようです。

「(六道仙人と同じになったオビトだ…。
  奥の手を使う前に先を越されかねん……。)」