573『輝きへと続く道』

1.輝きへと続く道(1)

「難しい……名前だと?
 それが何だというのだ?」

尾獣から想いを託すように教えてもらった彼らの名前。
しかしトビがそれを知る由もありません。

「ハァ〜〜〜ン…
 お前は知らね〜〜〜んだな。
 教えてやんない――よっ!!」

いたずらっ子のような表情をするナルトと比べ、
自分の知らない事実が隠されていたことに対して
驚きの表情をのぞかせるトビ。

「ナルトがこれほど成長したのを目の当たりにすると、
 ……自分がずいぶんと老いぼれに感じるな。」

九尾の力を自在に扱い、他の尾獣たちと渡り合うナルトの姿を見て、
手も足も出なかった自分たちが、ずいぶん老け込んで見える――
自分たちが守る立場だったのに、いつのまにか守られる立場となった――
"世代交代"を肌で感じたガイの台詞です。

「…どうしたの?
 いつものお前らしくないじゃない…!
 オレが言うのも何だけど…、
 オレ達の青春もまだ終っちゃいないってことでいかないか?」

手も足も出なかった――とはいえ、
まだ自分たちが何もできなくなったわけではない――
自分たちのできる範囲のことはできるのです。

「…オレ達はここへ来てまだ……」

言いかけたカカシをガイは制します。

「それ以上言うな!
 余計むなしくなる!」

手も足も出ず、打ちのめされただけではもちろん終われません。
気概を見せるガイにカカシも頷きます。

「それでこそ、ガイだ。」

ぽつぽつと滴り流れる雫。
自信あふれるナルトの表情を見て、
一瞬トビも仕掛けようとしていた手が止まります。
ナルトと対峙して、冷や汗をかいている感覚に陥った自分。

「(汗…? …イヤ…雨だ…!
  …オレが…あんな奴ら相手に汗を流すことなどあるハズがない!
  あいつの力は把握していた…!
  この違和感は力からくるものではない…!
  なら何だというのだ!? いったい何が…!?)」

ナルトから感じる言い知れないプレッシャー。
いままで余裕綽々だったトビは初めて不安感を掻き立てられます。

「(…イヤ……。そんなことはどうでもいい。
  ナルトが何者かなんてのはどうでもいいことだ…。)」

さすがにトビも熟練の忍です。
そうした不安感をやり過ごし、大局を見失いません。
――いや、そうせざるを得なかったのでしょう。

「この戦争より後、過去も未来もない…。
 存在すらも…全てが無意味になる。」

とナルトに言葉を突きつけるように言うトビ。
過去も、未来もなくなる。存在も意味をなさなくなる世界。
しかしナルトの表情は崩れません。
そんなことは在り得ない――自分がいる限り、と言わんばかりに。

2.輝きへと続く道(2)

九尾や尾獣たちのチャクラを感知していた忍連合本部。
青は尾獣たちやナルトたち以外にも、少し違う何かを感じた様子。
それが何なのか――考える暇はありませんでした。
すぐさまに状況報告に移ります。

うずまきナルトがとんでもない力で面のマダラを抑えてる……。
 ありえないチャクラだ! イヤ…むしろ押してる…
 ビー殿、カカシ殿、ガイ殿を含めたった四人で…!」

報告を受けたシカクは、部隊の士気をあげるために、
いのいちにこの状況を増援隊全体に伝えるように頼みます。

「いのいち! ありったけの力で、
 このナルト側の状況を増援部隊全員の頭の中に直接語りかけてくれ!
 15秒でいい!! ここで一気に士気をあげたい!!
 あいつら四人が全力で踏ん張ってるなら、
 ここはここで出来ることを全力でするぞ!!
 あいつらの想いを伝えるんだ!!」

増援部隊は一戦闘終えた疲弊状態。
ここで士気をあげることは、意味があるのです。

「全員って…!?
 そんなことをしたらチャクラの経絡系に負担がかかりすぎて、
 ……ヘタをすると…!!」

いのいちと同じ交信係の忍の一人が言います。
チャクラの経絡系、つまり脳にダメージがかかります。

「無茶を言う…10秒だ!」

快諾するいのいち。

「口はうまい方じゃないが、まかせとけ!」

全体に向けて交信をはじめます。

「本部より伝達…!
 増援ポイントにて状況優勢!
 つまり――うずまきナルトが踏ん張ってくれてる!!
 オレ達連合が守るべきナルトが、ビー殿が!
 前線で強い想いを持って戦ってくれてる!!
 カカシもガイも同じくだ!!
 そして、連合の皆も強い想いに加わってくれ…!!
 その皆の強い想いが……この戦争の勝利への予言だ!!」

交信を終えたいのいち。
結局20秒かかってしまい、相当の負担がかかり、
鼻から出血しています。
決してまとまってはいなかったけど、荒削りでも、
ナルトたちの奮闘、想いを伝え、
勝利を手繰り寄せるために伝えるべきものは伝えました。
シカクもいのいちの想いの強さに感謝します。

3.輝きへと続く道(3)

本部からの伝令を受け取った忍たち。その胸に秘めたる想いは様々です。

「(ナルトくん…。
  私はアナタをずっと…ずっと…ずっと追いかけてきた…。
  そして…今も追いかけてる。…でも…この戦争が終ったら、
  もうアナタを追いかけるのはやめにします
  次はナルトくんの横にいてしっかりアナタの手を握ったまま……
  同じ歩幅で歩きたいんです! 待っていてください!!)」

ナルトへの思慕や憧憬。
それらの想いだけじゃなくて、自らを磨き成長させてきたヒナタ。
今度は後ろ姿を追いかけているだけじゃなくて、
隣に並んで同じ歩幅で歩きたい――
自信をつけて、思い描く未来のために力強く一歩を踏み出します。

「(ナルト…お前にゃ昔からしっかりマーキング付けといたんだ…。
  オレのライバルとしてよォ!!
  オレが駆けつけるまでは、マダラの相手はたのんだぜ!!)」

ナルトに後れは取れない――ライバルとして!
キバはやる気を漲らせて、前を見据えながら走ります。

「(オレの忍術でナルトを完璧にサポートする…。
  なぜなら…は必要ない!)」

同期のナルトの活躍。
そしてその活躍をサポートするために、
シノは自らの秘術を使うことを決心します。
なぜならは必要ない――"仲間"だから!

「うまくやってるよーだな…。ナルトの奴…。
 …アイツのことだ。…無茶やってる以外想像つかねーが、
 ああ見えて…実は頭キレる方だからな。

 冷静に策を練るタイプじゃないけどな。
 (だからこそオレがいる…。待ってろナルト。もうすぐ行く!)」

仲間として、友達として、ナルトを観察してきたシカマル。
仲間のために無茶をするタイプ。でも機転は意外にききます。
とはいえ、状況を冷静な視点で判断することはできない――
そのためには仲間として自分が必要だ――
シカマルはそう自負しているのです。

「ナルトはバカでボクはデブ…ってのがお決まりだったけど…
 意外とそうじゃなかったりすんだよね!
 (待っててね、ちょいバカナルト! すらっとチョージが今行くよ!!)」

ナルトはバカ。自分はデブ。
それがお決まり――だった。でもそれが常とは限らない。
強敵と渡り合い奮闘するナルト。
力をつけ、自信を手に入れたチョージは共に戦うために、走り続けます。

「(父さん…! ありがとう…!
  ナルトの強い想いってのを父さんが皆に伝えてくれた…。
  その予言…必ず実現させなきゃ!)」

父親からの伝言を聞いた、いの。、
勝利のために自らできることを果たすべく、決意を固めます。

「(ガイ先生。大丈夫かな!?
  ちゃんとナルトを守ってあげてるかな!?
  カカシ先生もいることだし…大丈夫だと思うけど…。)」

テンテンもナルトが無茶しすぎているだろうことを見越して心配しています。

「…雨が降ってなければ…超獣戯画で飛んでいけたのに…」

そう漏らすサイにリーは言います。

「文句よりスピードアップですよサイさん!
 ガイ先生の勇姿、ナルトくんの勇姿に応え、
 己を貫き通す時です!

奮闘するガイやナルトのためにも、
踏ん張るべき、戦うべきは現在。
そう心得ているリー。

「うん……。
 (これが仲間っていう感覚…。
  今のボクにはもうはっきりと分かるよ! …ナルト。)」

胸に秘める思いは様々。でも一つに向けてみんなで力を合わせる感覚。
"仲間"――という感覚。
口でうまく言い表せなくても、
サイは理屈抜きではっきりとそれを感じとることができます。

「(ナルト…アンタは木ノ葉を救った…。
  そして今度は忍の世界を救おうとしてる……。
  いつもいつもこんな大変なことばっかりを
  任されることになっちゃってる。
  …でも今度はアンタが何を言おうが…、一緒に…。
  私だけじゃない…。
  今度こそ皆で一緒に戦おう!)」

そうサクラはまだ見えぬところにいるナルトに心で語りかけます。
サスケの事も、里の事も――
重荷をずっと背負い戦い続けてきてくれたナルト。
そんな彼に自分が今までしてやれたのはわずかなことばかり。
そしてそのことにずっと罪悪感を抱いてきたサクラ。
だからこそ強くなりたいと願い、力をつけた。
今度こそはナルトの力になるために。
ナルトのもとへ急ぎます。

みんなの想いは一つ。"勝利"。
しかしそんな皆の強い想いなど関係ないかのように、
空は翳り、雨はしとしとと振り続けます。
時々合間に見える太陽が希望は潰えていないことを知らせるかのよう。
その輝きに背を向けるように空を覆う濃い雲の方に歩み続ける男が一人。
ふと立ち止まり振り返った瞬間、雷光が鮮烈に照らし出す写輪眼。
いよいよサスケが動き始めたのです。