541 『雷影 VS ナルト』

扉絵の温泉で和んでいる面々の様子と違って、
今回も濃い内容の回でした。
戦う理由、戦いが生まれるわけ、
その戦いを乗り越えること
そして理解しあうこと。

ナルトの歩もうとする道に、
そう簡単にはいかないという壁が立ちふさがります。

1.雷影VSナルト(1)

ナルト、ビーと対峙する雷影、火影。
九尾チャクラが完全に制御された姿を見て、
綱手は圧巻といった表情です。

「ブラザー!
 ナルトを行かせてやってくれお願い♪
 こいつの事はオレが保証する大概♪」

ビーの口添えも虚しく、

「何を言っている!
 お前達を守る戦いだぞ!!
 お前らが捕まれば――」

雷影の意志は固いようです。

「敵の術が完成してこの世の終わりなんだろ!
 イルカ先生から聞いた!!」

事情を知っている様子のナルトたちに雷影は、
ならばなぜ行こうとするのか、
理解できないといった様子でナルトたちを見ます。
それに対して食いしばるような表情を見せるナルト。
戦場で仲間たちが戦う様子が脳裏をよぎります。

「そのせいで皆がやられんのは、
 ガマンならねェ!
 皆が死んで戦争に勝って、
 オレだけ生き残ったって――
 そんなの意味ねェ!! オレはイヤだ!!」

この戦争の大義名分は"残された人柱力を守ること"。
しかしナルトにとってそれは裏を返せば、
人柱力(自分たち)のせいで、
誰かが命を落とすことになるということを意味します。
たくさんの人の命を奪った尾獣を納める代わりに
憎しみを向けられて生きてきたナルトにとって、
再びさらなる憎しみを向けられることになります。
もちろんナルトはそんなことを頭で考えているというより
むしろ純粋に憎しみをどうにしかしなければいけない、
そのためには自分は戦うんだという"信念"のもと
"行かなければいけない"という使命感から動いています。
ビーもその点について共感しているからこそ、
ナルトの肩を持っているのでしょう。
しかし、雷影はそんなナルトたち人柱力の思いを
察することができているわけではありません。

「世界が終わるよりはマシだ!
 皆そう思いお前を守るため犠牲覚悟で戦っている!」

彼らの気持ちなんかより、
この戦いに勝利することが大事なのです。
忍連合の総大将としてこの考え方は自然ですし、
こうでなければ忍連合という組織もまとまらないでしょう。
それに対してナルトはこう反論します。

「その事知って自分だけ傷つきもしねーで、
 じっとしてられるほど、
 人間できちゃいねーんだよ、オレってば!!

自分のことを深く見つめ、
自分というものを冷静に分析していなければ出てこない
このような言葉がナルトから出るというのは少々驚きですが、
ナルトが成長しているということを端的に表す台詞です。
【何とかするために…】*1の中で示したように、
"憎しみがなくなることが実現することを信じる"からこそ、
ナルトはとにかく動くのです。
しかし、同様に同じ記事の中で書きましたが、
ただ突っ走っただけではダメで
周りの理解が得られなければ、
ただの狂気の沙汰で終わってしまいます。

自分一人だけのために世界が回っているわけではありません。

「四の五の言うな!!
 お前は行かせん!!」

もちろん雷影もこの戦争をどうにかしなければ、
という想いで動いています。
その為にナルトが飛び出してきて勝手をされては困る――
ナルトに比べれば合理的な"正義"かもしれません。
でも、ナルトは足踏みしていてはいけない、
自分のために誰かが死ぬのは嫌だし、
そんな人を出さないためには
自分は動くべきだという"正義"があります。
相手に自分の正義を認めさせなければ、
どちらも一歩もひかない状態です。
ナルトと雷影がお互いの"正義"をぶつけ合います。

もちろんこれは小競り合いですが、
広義にとらえて、"戦争"が生まれる結果そのもの。
戦争をどうにかしなければと思って、
ナルトは戦争を生み出している矛盾に陥っています。
しかし、矛盾に満ちた世の中、
結局のところ、その"信念"を示して
周りの理解を得られるだけの"力"は必要です。
それが話し合いであるか暴力であるか、
いずれにせよ理解しあうためにも戦いは存在してしまうのです。
忍として存在する以上、
己の信念を貫こうとする以上、
生じてしまう戦いに憎しみを残さぬように勝つ!

ナルトが歩もうとしているのは
こんな壮絶なものです。

2.雷影VSナルト(2)

雷影が意地でも動かないなら、
火影である綱手は理解してくれるだろう――
ナルトは綱手に行かせてほしいと頼みます。
しかし綱手もこの戦争の趣旨を理解しています。

「今は忍連合の参謀として動いている。
 お前を止めるのが連合の意志だ……
 …火影と言えど私一人が別行動をとる訳にはいかん!」

立場にあまり拘泥しない綱手が、
"立場を理由に"ナルトの言うことを否定しています。
根底にはどちらかといえば、雷影の方が合理的という判断が
綱手の中にはあったのでしょう。
そしてそれがナルトの為でもあるとも。
だからこそ無理矢理行こうとするナルトを
殺してでも止めようとする後の雷影の言動に、
綱手はひどく驚いています。

さて、
九尾チャクラをまとったナルトのスピードについてくる雷影。
四代目火影が居なくなってから、
自分がもっとも速い忍だと自負しているようです。

「手合わせは幾度としてものだ。
 アレに勝る忍はいないとまで思わされる男だった。」

救世主とまで言われるほどの男。
ミナトの実力を素直に認めながらも、
いまこの危機的状況にあって、存命でないのは、
九尾事件で失敗したからだと雷影は言います。
そして息子であるナルトはそこから学びとっていないとも。

「不確定な可能性で物事を語るバカほど…」

雷影はミナトが自分の息子であるナルトに九尾を託したことを、
"不確定な可能性"とします。
しかし自分の息子を信じ、自分に全てを託してくれた
ミナトやクシナの想いを知っているからこそ、
ナルトは雷影のこの言葉が琴線に触れます。

「そんなんで…父ちゃんを知ってるって語るな…。
 四代目火影は失敗なんかしてねェ!!!」

怒りを向け意地でも行こうとするナルトに、
殺してでも止めるしかないと考えるより他にない雷影。

「なっ!? おい雷影!!」

綱手も熱くなって冷静さを欠いてきた雷影に、
思わず口出しをせざるを得なくなります。

「そうすれば九尾復活まで一時の間時間が稼げる!
 敵も計画を先送りせざるをえなくなるしな!」

と状況を見誤った判断をしてしまっています。
実はもうすでに尾獣のチャクラは全て揃っていることを、
知っているはずです。
トビの方も慎重にことを進めようとしている膠着状態にあって、
むしろ惨劇を早めてしまいかねない判断です。
向ってくるナルトに殺意を込めた一撃を放つ雷影。
それをビーが止めます。

「そういうことなら八尾のオレが死んでも同じ♪
 そうすりゃ敵の計画とやらも台無し♪
 ナルトが戦場へ行けるようオレの命を投資♪」

ビーが助けてくれたことに感謝しつつ、
綱手も雷影に反対します。

「雷影!! 忍連合での相談も無しに、
 勝手な自己判断は止めろ!
 総大将としてそれは認めん!」

それに対して雷影は、

「ワシはこの戦争で勝利しなければならない責任がある!!
 そのためなら何でもするつもりだ!!」

と意気込みます。
しかし"何でもする"のと"何とかする"のは全く違います。

「なら八尾の言う通り、
 なぜナルトの方を狙う!!」

身内びいきめいている、
そう気づかせようとすることで
綱手は雷影を冷静にさせようとしているのでしょう。
しかし雷影の方はこうなると適当な理屈をつけてでも、
ごり押ししようとします。

「その時がくれば雷影として弟を殺る覚悟を決める!!
 だが今! ビーを殺すぐらいならナルトを殺す!!
 人柱力としての力なら尾獣玉をコントロールできる
 ビーの方が戦力になるからだ!!!」

しかしこの発言は矛盾だらけです。
雷影の言い分としては人柱力を守る戦い。
それなのに八尾のビーを戦力として数える時点で、
万に一つでも戦場に立たせるつもりがあることを意味します。
ならナルトを戦場に行かせないための明確な意義が成り立ちません。
もう、しっちゃかめっちゃかです。
雷影は相当頭に血が上っているのでしょう。
とにかく前へ進ませないために、
何が何でも止めることに拘って意固地になっているのです。


少し余談になりますが、岸本先生は、
自分の筋を通すために頭に血がのぼって暴走してしまう、
理屈の通らないことを言ってしまう、
という場面を描くのがリアルで非常に上手い気がします。

「お前達人柱力は己であって己でない存在だ!
 国のパワーバランスであり、里の力であり、
 国と里にとって特別な存在だ!!
 お前ら個人の好きかってにはいかん!!
 立場を理解しろ。大バカ共が!!!!」

と身も蓋もない発言をしてしまいます。
しかしビーは人柱力であるからこそ、
人柱力というものに縛られない
個人が大切であるという真実を知っています。

「まぁそうかもしんねーが
 俺は個人としてどうしても
 捨てられねェもん持ってる 心意気♪
 それ無くしたらただの兵器♪」

個人としてどうしても捨てられない
本当に大切なモノ。
それがなくなってしまったらただの兵器同然。
雷影はハッとしたように、ビーに訊きます。

「なぜそこまで、こいつに肩入れするのだビー!?」

雷影に拳を合わせるビー。

「拳を合わせても…
 オレの心の中が読めなくなっちまったのか?
 …ブラザー。」

ビーの言葉にふと我に戻った様子の雷影。
昔を思い出します。

3.雷影とビーの過去

"エー"はどうやら雷影のコードネームのようなものらしいです。
"ビー"とは雷影の護衛役としての意味があり、
雷影を支える重要なパートナーを指すコードネーム。
現・雷影は先代雷影の実の息子のようですが、
どうやら実の兄弟はいなかったらしく、
ダブルラリアットで、エーと真に力加減を
つりあわせることができる者を探す
マッチテストが行われたようです。

「これからエーとお前らの相性を順に見る!
 このゴム人形の首をエーと一緒に
 絶牛雷犂熱刀<ダブルラリアット>でハネてもらう!
 いいか! これは左右から同じ力ウィ加えなければ
 切れない仕組みになっている!
 片方が強すぎたり弱すぎた場合、切れずに曲がる!」

と試験官は説明します。
なかなか力をつりあわせることができるものが現れない中、
ただ一人だけゴム人形の首を完全に剪断できた者が現れました。
それが現"ビー"です。

「ククク…少し変わった奴だな。
 もう一度拳を前に出してみろ!」

エーは嬉しそうに幼いビーに近寄ります。

「今日からオレ達は兄弟だ!
 よろしくな! ビー!!」

この拳を突き合わせる挨拶は、
ビーにとって信頼の証として
大切なものになっていったのが想像に難くありません。