462 『サスケの忍道

1.サスケの忍道(1)

雷影はその巨体から想像もつかないような速さで
重吾との間合いを詰め、そして雷遁を纏った拳で重吾を打ち抜きます。
凄まじい一撃に吹き飛ぶ重吾。
気をとられているシーへ水月が斬りかかりますが、
そこをダルイが包丁のような刀で受け止めます。

「いいの持ってるね…。折れたからってこりゃやれねーよ。」

折れたとは言っても名高い首切り包丁はそう易々、
剣での打ち合いでは負けない、という意味でしょうか。

「雷影様の体内の神経伝達…反射のスピードは黄色い閃光に劣らない…。
 こいつらもよくついてきている方だ。
 しかし反射を活性化するための雷遁チャクラをまとった以上、
 写輪眼でも追いつけない。

反射とは生物学的な意味合いでは無意識下である刺激に対して反応する動作を言います。
雷影は黄色い閃光と呼ばれた四代目火影の反射のスピード、神経伝達速度に匹敵するとは――
ミナトの瞬速移動でのやりとりはそれ相応の反応速度が求められ、
つまりその反応速度を神経伝達という観点でとらえるとするなら、
雷影も負けてはいないということです。
そしてそれにプラスして、雷遁を身に纏えば、さらにその反応速度は上がると――。

「写輪眼ごときにとらえられるワシではないわ。」

という雷影の台詞は、写輪眼の見極める能力の高さを知りつつも、
それ以上の速度で動けるという自信から来るものでしょう。
重吾ですが、雷影の凄まじい一撃を食らっても薄笑いで余裕の表情。
身体の一部をいくつか砲状に変形させ逆に至近距離に雷影を誘い込んだかのようです。
その砲門から放たれるのはチャクラを圧縮し解き放ったかのような凄まじい衝撃波。

「何だ!? 雷影様の一撃を食らって生きていたとでも!?」

驚きを隠せないシーの隙をついて即座に間合いを詰めたサスケ。
その写輪眼に睨まれたシーは得体の知れない不気味な感覚に包まれ動きを奪われます。
サスケの月読でしょうか?
その殺戮衝動を満たし狂気乱舞する重吾ですが、
雷影はなんともなかったように、再び重吾へ雷遁を纏った当身を放ちます。
重吾を片付けた雷影を、サスケが雷遁を纏った(千鳥を流した)刀で斬りかかります。
が、躱した雷影はその勢いのままサスケと向き合います。
そして雷遁のぶつかり合いへと続きます。

2.サスケの忍道(2)

「嘘だっ…!! そんなのでたらめだ!!」

イタチの真実を話すトビにナルトは声を荒げます。
ならば、イタチの意志を継いで、木ノ葉に帰ってくるはずだ、と言うカカシに
トビは薄気味悪く笑うように言います。

「フッ……。サスケの師として友としてお前らはサスケの本心を
 分かっているつもりでいたんだろうが…とんだお門違いだ。
 本物だ…。本物の復讐者だよ彼は!

復讐に“取り憑かれた”と疑わないナルトは、
トビの言う事を俄かに信じがたい様子。

「サスケ自身がそう選択したのさ。」

復讐の道を選択したのはサスケ。
復讐に取り憑かれたのではなくて、自ら選んだのです。
その事を認めたくないナルト。

「オレも賭けだった…。彼がイタチの意志を取るか…、
 はたまた木ノ葉への復讐を取るのか。」

このトビの発言は嘘が含まれています。
トビは計画を練って一段一段己の野望を実現するために動くタイプ。
無計画に“賭け”に出ることはしないでしょう。
どういう目的でサスケを手懐けようとしたのかはまだ定かではないですが、トビには、
兄イタチの真実をサスケに話してもサスケは自分の思うようになる
という算段があったはずなのです。

「彼は復讐を選んだ…。本心はこちら側の人間だったという事さ。
 サスケの今の目的……。それはうちは一族…そして、
 イタチを追い込んだ木ノ葉への復讐。」

“復讐”という名の悪魔をペイン、長門との戦いで理解したナルト。

「何で……。何であいつが……。
 どうしてこんな事になっちまう…!!
 どうして復讐に向かっちまう…!?」

復讐へとひた走るサスケを理解できない思い、
そしてサスケが元に戻ることはないのではないかという不安がナルトを苦しめます。

「…仕方ないのさ。…それが血塗られたうちはの憎しみの運命。
 遥か昔から永久に続いてきた呪いのようなものだ。」

トビは六道仙人の話に託けるように、その“うちはの憎しみの運命”について話し始めます。

「遥か昔。六道仙人と呼ばれる忍の祖から始まる憎しみの呪い。」

そこでカカシが反論します。

「六道仙人だと…。そんなものはただの神話のハズだ。
 輪廻眼は突然変異にすぎないし…。」

カカシの認識…いや広く一般の認識では、六道仙人という存在は、
実在の人物であり、彼の軌跡は史実ではなく、神話だということのようです。
加えて輪廻眼もその特異さは突然変異によるものだと。しかし――

「神話は事実になぞらえて語られる…。
 かつて六道仙人は忍宗を説き、平和を導こうとしたが…
 夢半ばにしてその時が来てしまう。
 六道仙人は忍宗の力と意志を二人の子供に託す事にした。

 兄は生まれながらに仙人の“眼”…
 チャクラの力と精神エネルギーを授かり、平和には力が必要だと悟った。

 弟は生まれながらに仙人の“肉体”…
 生命力と身体エネルギーを授かり平和には愛が必要だと悟った。

 仙人は最後に死の床で…後継者を決めなければならなかった…。
 しかしその決断が永劫続く憎しみの呪いを生んでしまった。」

六道仙人の子――兄はサスケに、弟はナルトに雰囲気が似ています。
力か愛か、その選択に悩まされた六道仙人は、ついに決断します。

「仙人は力を求めた兄ではなく…
 愛を求めた弟こそ後継者にふさわしいと、そちらを選んだ。
 長男として当然自分が後継者だと思い込んでいた兄は納得せず…
 憎しみのあまり弟に争いをしかけた。」

力ではなく愛。それこそが六道仙人の決断だったわけです。
これはどっちが優れているとか劣っているか、という決断ではなかったと思います。
力も愛も、この世界を生き抜いていくためには不可欠なものです。
力がなければ立ち上がることもできないし、何かの困難に立ち向かうこともできない。
愛がなければ支えあうことができないし、より大きな力を得ることもできない。
でも悲しいことに、この兄弟が争うようになってしまったのは、
どちらが上か下か、“後継者”という概念に雁字搦めにされて、
本来の目的を見失ってしまったからなのではないかと思います。
一番大切なのは二人が手を取り合うことだったのではないかと思います。

「時がたち、血が薄れても二人の兄弟の子孫は争い続けた。
 兄の子孫は後にうちはと呼ばれ、弟の子孫は後に千手と呼ばれるようになる。」

この辺りはトビの邪推が入っているのではないかな、とも思えますが、
この対立形式は憎しみあいの運命という形で繰り広げられている、
ということを言いたいのでしょう。

「このうちはマダラと初代火影、千手柱間の闘いも運命だった。
 お前と会うのはまだ二度目だが、千手の火の意志がお前の中に宿っているのが分かる。
 今もお前の中に初代火影を見る事ができる。死んでもなおあいつは生き続けている。
 オレの憧れであり…ライバルであり…オレの最も憎んだ男。」

木遁を使いこなすヤマトよりもナルトに柱間の影を感じるというのは、
ナルトにも遠縁で柱間あるいは千手の血が混じっているのかもしれません。
あるいは――ヤマトも拒絶反応を起こさず、柱間のDNAを継いで、
木遁を使いこなせるまでになったということは千手の血縁かもしれませんが、
それ以上にナルトには火の意志、柱間の考えが根ざしていると考えるのが妥当でしょう。

「千手とうちは、火の意志と憎しみ、ナルトとサスケ…。
 お前たち二人は運命に選ばれた次の二人になるだろう。」

長門を変えたナルトのことを知りたいといって近づいてきたトビですが、
はじめから憎しみの運命に導かれた者の一人と片をつけていた
と考えられるような自己完結ぶりです(笑)
話がある、というよりは確かめにきたのでしょう。

「うちはは復讐を運命づけられた一族。
 サスケはうちはの憎しみを全て背負い…
 その憎しみの呪いを世界へぶつけるつもりだ。
 最も強い武器であり友であり…力である憎しみ。
 それがサスケの忍道だ!!」