454 『五影登場』

1.五影登場(1)

――土の国・岩隠れの里。
張り巡らされた電線と、煉瓦様の尖塔が目立つ、
山間につくられた忍の里。

「黒ツチ、赤ツチ頼んだよ!」
「土影様ァ! 他の里長に一発かましてやれ――!!」

見送りの岩忍は、ややはしゃいでる様子。

「この歳になると会談に行くのも一苦労じゃぜ。
 腰に爆弾抱えとるワシの気も知らんで和解もんははしゃぎよる!」

団子っ鼻の頑固一徹といった感じの小さな老人。
彼がこの岩隠れの里を統べる土影のようです。

「じゃあそろそろ引退するかじじい?
 いつまでも栄光引きずってんじゃねェ。」

その背後にはボーイッシュといった感じで、きつめなくの一黒ツチ

「アハハハ。土影様の荷物はワイが持ってやるだに。」

丸々とした大顔でずんぐりした大男赤ツチがいます。
いらぬ世話だと言って赤ツチの好意をつき返し、
自分の荷物を背負うとした土影。
はずみでぎっくりと腰を痛めます。

「どうすんだ? 別の者に行かせんのか?」

と促す黒ツチに、土影は一喝します。

「バ…バカ者。このワシを誰だと思ッとる!
 岩隠れ両天秤のオオノキと恐れられた土影じゃぜ!!
 ええい! ワシの荷物はワシが持つ!!」

“両天秤”とは二股をかけること、
あるいはどっちに転んでも差支えが無いことを意味しますが、
…この通り名から黒ツチのいう土影の栄光の片鱗が
感じ取れるようで感じ取れない――なかなか難しいところです。
こう見えて裏はこうだった、と見せかけてその実はこう――
と手の内を読ませない策士といった忍だったのでしょうか。

「まったく…頑固じじいが!」

毒舌を吐きつつも、心配している様子の黒ツチ。

「どうぞ自分の荷物は自分で持つだに。
 では行くだに。」

気が優しくて力持ち、それを絵に描いたような様子の赤ツチ。
そんな土影をその荷物ごとそのまま上に担ぎ上げます。


――水の国・霧隠れの里。
霧に包まれるも、緑豊かな地。
円柱の塔のような建物が目立ちます。
杖をついてわななく長老から笠を受け取る水影。

「長老様…。水影の名にかけて立派にお役目果たしてまいります。」

美貌の中にも凛々しさがある、妖艶で解語の花といった様子の女性です。
お付には表情に渋味がある片目眼帯風の青。
そしてもう一人は対照的で、忍刀七人衆の一人である眼鏡をかけ自信なさげな長十郎。

「もっと自分に自信を持って。アナタは強いのよ。
 だから会談までの護衛にアナタを選んだのですから…。
 ね、長十郎。」

水影の女神のような微笑みに、思わず長十郎もほころびます。

「あ……ハイ…がんばれると思います。……たぶん…。
(なんて優しい方なんだ。)」

頼りなげな様子を見て、青が長十郎に説教。

「そこは「ハイ」だけでいい!
 そんなてきとーな気持ちでどーする!
 これだから最近の若い奴らは根気が…」

根気という言葉を婚期と聞き違え(?)ハッとする水影。

「青…説教はいいから早くしないと会談に遅れる!」

さっきの婚期という言葉で一瞬思考がとんだところ
見送りに来た霧忍の一人の言葉“遅れる”がちょうど聞こえて熟語(慣用語)が完成。

「婚期が遅れる!!?」

青にすっと歩み寄り、

「黙れ殺すぞ。」

と笑顔で優しく(?)言う水影に青もびびります。
“婚期”を考えるということは水影は綱手と違ってもっと若い女性なのでしょう。
そしてこれだけ容姿端麗で水影を務める才色兼備でありながら、
なかなか結婚できないという一種のコンプレックスが
これらのやり取りから垣間見えて面白いです。

2.五影登場(2)

サムイからの連絡はまだ入っていないようですが、
道中、何らかの形で情報が届くように手配してあることを聞いて、
出発の決意をする雷影。
後ろに立てかけられた『筋』の字がいかにも似合う男です。

「行くぞ!! シー! ダルイ!!」

お供にはいかにもやる気が感じられないダルイ、まじめそうなシー。

「ついて来い!!!」

掛け声したかと思うと、
部屋のガラスを破って飛び出る猪突猛進ぶりを見せる熱血漢。
取り残された二人は冷静です。

一方木ノ葉隠れの里では、そのサムイ小隊の二人オモイ、カルイが
ナルトからサスケのことを聞き出そうとしています。
しかし、七班での出来事やサスケとの友情を裏切るに裏切れないナルトは、
サスケの情報は一切渡さないと言い張ります。

「わがままなのは分かってる…。けどサスケは売れねェ。」

サクラとの約束。ミナトの言葉。長門の言葉。
そして自分の信念…様々な想いが交錯します。

「お前らの復讐したいって気持ちは分かるってばよ!
 けど、憎しみにまかせてサスケ殺しちまったら、
 今度はオレの仲間が黙ってねーかもしれねェ!
 やったらやり返す! その繰り返しが始まっちまう!
 守りてーはずの仲間がお互いにどんどん殺し合っちまう!」

最初に手を出したのはサスケ。彼らの憎しみの矛先をどこに向ければいいのか…。
ナルトは自分を気の済むまで殴れ、と言います。

「都合のいい事言ってんじゃねェ!!
 そんなんでウチらの気が済むかどうか。
 だったら試してやるよォ! コラァ!!」

殴りかかるカルイ。でも、ナルトはその拳に滲み出る想いを受け取るように、
何回殴られても反撃しようとはしません。
その様子を物陰から見守るサイ。

3.五影登場(3)

「アンコは手練のダジム・テラに尾行させております。
 …この際アンコを始末しては?」

何やら不穏な空気が漂う火影のテント。
時期を考え、あまりヘタをすると状況を悪化させると見てダンゾウは慎重な様子です。
しかし、ダンゾウにはアンコを始末しなくてはいけない理由があるようです。

「人員をもっと増やせ。アンコより先にカブトを拘束するのだ。
(あやつ…ワシと大蛇丸の関係を知っているやもしれん…。)」

アンコは大蛇丸と師弟関係にあり、その関連で狙われているのでしょう。
ダンゾウと大蛇丸はつながっている、あるいは、いた――
それはいったいどういうことでしょうか?

「カブトは大蛇丸の人体実験のデータを持っている…。
 それを必ず手に入れるのだ。」

ダンゾウが欲しているのは人体実験のデータ。

「ワシの右眼・右腕の為に役立つはずだからな。」

そして黒い衣で隠された右半身を露にするダンゾウ。
右目と右腕の為――その不自由となったところを
人体実験のデータによって治そうということでしょうか――。

さて、大蛇丸の人体実験…。極秘裏に行われていたものですが、
かつて三代目率いる忍隊に摘発され、大蛇丸は抜け忍となりますが、
このとき三代目の側近である忍が興味深いことを言っています。

「近頃、里の下忍から中忍、果ては暗部の者でさえ行方不明者が続出している…。
 さらに最近アナタの様子がおかしいという情報がありましてね………。」

下忍、中忍から暗部の者。“続出”という言葉を使うからには、
相当な人数の忍が行方不明になったのだと推測できますが、
ここで問題なのはそれら全てが大蛇丸の手によるものなのかということです。
もしも、そうだとしても大蛇丸ほどの実力があれば容易く、
また大蛇丸自身の歪んだ思想から、
大蛇丸の単独性が肯定されうるという事が逆にバイアスとなって、
大蛇丸以外の誰かが関連しているというのは見落としていた可能性です。
最終的に三代目には見つかってしまいましたが、
もしもここにダンゾウが一枚噛んでいるとするのなら、
ここまで事が大きくなるまで誰にも感づかれなかったのも、
自分の組織である暗部“根”の部隊を使って
ダンゾウが裏で手引きしていたからと考えても自然です。
そもそも研究するために実験台の頭数を集め続けるのはあまりにも非効率的です。
これを担う何者か、つまり暗部が大蛇丸の協力者であれば、
大蛇丸も実験や研究がやりやすいです。
それはダンゾウに命ぜられたいわば極秘任務という形で遂行された――
もしかするともともと大蛇丸自身が禁術に対して貪欲だったわけではなく、
その極秘任務の過程でだんだんと狂気に目覚めていってしまったのかもしれません。