444 『答』

1.答(1)

対峙する二人。自来也、そしてカカシを手にかけたペインを前に、
ナルトのその表情は険しくなっていき、その緊迫感がよく描かれています。

「オレが憎いか? 仇を目の前にし…復讐を成しとげたいだろう?」

憎しみの連鎖…その言葉が過ぎります。

長門を今ここで殺し復讐をしたところで、
 世の中は何も変わらない。それはお前の自己満足なだけだ。」

長門の目指す平和を信じて、その身を挺してきた小南。
長門を失うわけにはいかない…その想いが彼女を突き動かします。
憎しみの連鎖、それを断つべくして生まれた暁という組織とその思想。
それはそもそも忍というシステムゆえに深く根ざすものを抜本的かつ
長門の考えるように”変えようというもの。

「何も答えられなかったお前に出来る事はない。
 お前の役目はオレの創り出す平和のために犠牲になるというのが正解なのだ。」

突如、長門の前部を覆っていた門が開き、
露になった砲門から矢の様に放たれた黒き棒。
見切っていたにもかかわらず、微動だにしないで、
ナルトはその棒を受け止めます。
滴り落ちる血。そして長門はナルトを意のままに操ろうとチャクラを送り込みます。

「この近距離ならオレのチャクラでお前の動きを
 思いのまま操ることができる。安心しろ。急所は避けてある。
 大切な人柱力だからな。」

見開かれた長門の輪廻眼。しかしそれは予想とは反したナルトの挙動への驚愕。
九尾と仙人モード時の瞳が重なり合い、
仙人モードを打ち消さんばかりの強烈な九尾の情念が長門へ雪崩れ込みます。

2.答(2)

「こいつ…わざと…」

ここではじめて長門は気づきます。
ナルトは黒い棒を避けれなかったのではなくわざと受け止めたのだと。

「お前と…話をするつもりでここへ来た。
 …けど他に確かめたい事もあった。」

迸<ほとばし>った九尾の情念。
そして自分の輪廻眼の力を持ってさえ思い通りにならないことへの焦燥を表すように、
長門の額を一筋の汗が伝います。

「自分の気持ちを確かめたかった…。
 仇を目の前にしたら…オレがどうするのか自分でも分かんなかったからだ…」

ナルトは自分がどうするべきか、
あふれ出す何かを必死で堪えながら、気持ちを整理する様子です。

「やっぱてめェは許せねェ…!
 今にも殺したくて…震えが止まらねェ…!」

しかし堪えきれない激情がナルトを突き動かします。
刺さったチャクラ受信棒を引き抜き、長門に向かって突進します。

「お前を弟子にして良かったわい!」

ふと過ぎる自来也の言葉。すんでのところで止まります。

「エロ仙人は本当の意味で理解し合える時代が来るって……
 信じてるって言った。その話をしてくれた時…、
 オレは適当にしか聞いてなくて…
 オレにそのやり方の答を託すって言ってくれたのが……
 ただ弟子として認められたみたいで嬉しかっただけだった。」

人が本当の意味で理解しあう…。自分ならいつの日かできるかもしれない――

「今になって…やっとエロ仙人の言ってた意味が分かる。
 そんな簡単なもんじゃねーんだって…。」

漠然と曖昧な甘い幻想を抱いていた頃の自分を振り返るナルト。

「だがオレを許せない事に変わりはないはずだ。
 キレイ事で許せるほど人の愛情は安くはない。」

しかし現実は“痛み”を伴うもの。

「ああ…確かにその通りだってばよ。」

キレイ事で片付けられない――ナルトはその事を認めています。

自来也先生の言っていた事は時代遅れの理想主義だ。現実は違いすぎる。
 お前はオレを倒し忍の世界を平和にしてやると言っていたハズだが?
 それは建前で己の自己満足のための復讐だとしても、
 それがお前の正義ならそれでいい。…お前は神じゃない。

正義を建前に掲げて行われる復讐。戦いの根源であり、憎しみの連鎖を生み出すもの。
神ではない――一人の人間だからこそ、感じなければいけない何か。
自らを神とする長門とは一線を画して、
ナルトは“人間”としてその答を見つけるべき――といえるでしょう。
平和とは何か――いずれにしろ易くはない。

「この現実を目の当たりにし、お前は本当に自来也先生の戯れ言を
 信じる事が出来るのか?」

明確な、確固たる答がまだ掴めていないナルトにとって長門の言葉は重くのしかかります。

「エロ仙人の弟子だったお前たちがどうしてこうなっちまったのか……
 オレはお前たちの事を何も知らねェ…」

人は理解し合うことができる――
ナルトは長門の痛みを知ろうと歩み寄ります。

「話を聞いて…それから答を出したい。」

相手の“痛み”を理解してから出すナルト自身の答。

「待て小南…。こいつの答を知りたい。」

振り切ろうとする小南を制して長門は昔語りを始めます。

3.答(3)

「オレの最大の痛みは二つある。その内の一つが両親の死。
 かつて大国に巻き込まれ戦場となった雨隠れでの話だ。」

雨が降り続ける大国の戦場となっていた小国。
その中の一つの民家に隠れるようにして身を寄せ合う長門の一家。
そこを二人の木ノ葉隠れの忍が偶然訪れます。
彼らは食料を探しに家捜しをしている様子。
彼らの様子を見計らって、外に逃げ出そうと言う長門の父。
しかし薄暗かったのが災いしてか運悪く肘があたり花瓶が割れ、物音をたててしまいます。
向かってくる忍に長門の父親は妻と子を守るため立ち向かいます。
我が子を守るために身を挺して庇う長門の母。
しかし敵うはずもなく二人は長門の前で絶命します。

「ま…まさかこんな戦闘区域にまだ一般の人間が
 居るなんて思ってなかったんだ。すまない…ボウズ。」

忍と見間違えて長門の両親を殺してしまったことに気づいた木ノ葉の忍。
取り乱しながらも長門に謝ります。

「うわああああ!!!」

しかし長門の受けた心の傷はとても深いもの。
心の傷口からまるで出血するようにすさまじい激情が迸り、
長門の涙とともに見開かれた輪廻眼がそれを表しています。