年末第二弾は天道ペインの術についてです。

0.導入

天道ペインの神羅天征は、物体をあたかも重力を無視して、
ペインの意のままの引力と斥力によって動かすことができる念力のような術です。
この術はペインの想定外の物体には効果がないことから

  • 任意の対象のみに作用を及ぼすことができる

というわけですが、その任意の対象にどうやって作用を及ぼすかは不明です。
しかし術である限りチャクラが関係してくるので、
その正体はやはりチャクラの何らかの性質にあるものだと思われます。


ところで、引力と斥力というのは、クーロンの荷電粒子間に働く静電気力
F=\frac{1}{4\pi{\epsilon}_\o}\frac{Qq}{r^2}

F:力 {\epsilon}_o:真空の誘電率 Q,q電荷量 r:荷電間距離
に似ています。他にもチャクラは送受信の媒体にもなったり、
ある種電気や電波に似た振る舞いをすることから、
この術の正体を電磁気学的に考えることができるのではないか――
という案が浮かびます。そこで初等電磁気学を使って、
神羅天征がどのような術かこじつけて(?!)いきます。
\int\nabla・・・嫌な予感がする方は、5.結論からお読みください。

1.ガウスの法則とチャクラ

まず電気の方から説明します。
電荷とは物質や原子、電子が帯びている電気量のことです。
今、ある点電荷(+)から放射状に矢印が出ているとしましょう。
この矢印は満遍なく広がり(矢印どうしは交わらない)、
電荷が増えたり減ったりしなければ、この矢印も増えたり減ったりしないものとします。
この矢印を電場と名付けることにし、点電荷のある空間に閉曲面Sをつくります。




この閉曲面を貫く電場ベクトル量(向きと方向を持っているのでベクトル)を\mathbb{E}とし、
考える閉曲面の微小領域の面積をdSとします。
そしてこの微小領域面に垂直な大きさ1のベクトル(単位法線ベクトル)を\mathbb{n}とします。



この微小領域を電場\mathbb{E}がどの角度からどのように何本貫いているかはわかりませんが、
\mathbb{E}\mathbb{n}内積をとって、
あたかも面に垂直に出入りする矢印の量を考えれば、
この微小領域を貫く電場の正確な大きさが分かります。
これらを足し合わせていけば閉曲面S全体を貫く電場の大きさが求められて、
それは電荷Qに比例するとすれば、適当な比例定数{\epsilon_o}を用いて

\int_{S}\mathbb{E} \cdot \mathbb{n}dS=\frac{Q}{\epsilon_o}

(1,1)
と表すことができます。
ところで電荷密度\rhoを用いて電荷Qを表すなら、
電荷の体積Vにおける積分となって

\int_{V}\rho dV=Q

となって、(1,1)式から、

\int_{S}\mathbb{E} \cdot \mathbb{n}dS=\frac{1}{\epsilon_o}\int_{V}\mathbb{\rho} dV

(1,2)
という形が得られます。

2.ガウスの定理

(1,2)式のままでは情報が得られにくいので、
この式を積分系から微分系に書き直したいと思います。
そこで登場するのがガウスの定理と呼ばれるもの。
今、微小体積\Delta V=\Delta x\Delta y\Delta zとして、
x軸に垂直な二面(s1,s2)に関して(1,1)式の面積分を考えます。
x軸方向に貫く電場を正、反対方向に貫く電場を負として扱い、
x軸方向で\Delta Vについてトータルどれだけの電場の変化があったかを考えます。




ある位置における電場の強さをE(x,y,z)という関数で表し、
s1面が座標xにあるようにこの微小体積を取れば、
s1面については、

\int_{s1}\mathbb{E}_x \cdot \mathbb{n}dS=-E(x,y,z)\Delta y\Delta z

s2面については、

\int_{s2}\mathbb{E}_x \cdot \mathbb{n}dS=E(x+\Delta x,y,z)\Delta y\Delta z

したがってトータルでは

\begin{eqnarray} \int_{s1+s2}\mathbb{E}_x \cdot \mathbb{n}dS&=&-E(x,y,z)\Delta y\Delta z+E(x+\Delta x,y,z)\Delta y\Delta z\\&=&\frac{E(x+\Delta x,y,z)\Delta y\Delta z-E(x,y,z)\Delta y\Delta z}{\Delta x}\Delta x\Delta y\Delta z \\&=&\frac{\part E_x}{\part x}\Delta V \end{eqnarray}

y,z軸方向についても同様に計算できて、

\int_{S}\mathbb{E} \cdot \mathbb{n}dS=(\frac{\part \mathbb{E}}{\part x}+\frac{\part\mathbb{E}}{\part y}+\frac{\part \mathbb{E}}{\part z})\Delta V

ここで、ナブラ\nabla

\nabla=(\frac{\part}{\part x},\frac{\part}{\part y},\frac{\part}{\part z})

とするなら、

\int_{S}\mathbb{E} \cdot \mathbb{n}dS=\nabla \cdot \mathbb{E} \Delta V

(1,3)
次に閉曲面Sをたくさんの微小な箱で分割すれば、

\int_{S}\mathbb{E} \cdot \mathbb{n}dS=\sum_{i}\int_{S_i}\mathbb{E} \cdot \mathbb{n}dS

となります。なぜなら微小な箱の隣り合う面どうしでは\mathbb{n}は打ち消しあうからです。



したがって結局は外枠、すなわち閉曲面Sに面する箱の面だけを考えればよくなるわけです。
微小な箱の面はとても小さいので、これは閉曲面Sそのものになります。
よって(1,3)式を用いて

\begin{eqnarray}\int_{S}\mathbb{E} \cdot \mathbb{n}dS&=&\sum_{i}\int_{S_i}\mathbb{E} \cdot \mathbb{n}dS\\&=&\int_{V}\nabla \cdot \mathbb{E} dV \end{eqnarray}

(1,4)
となって、面積分を体積分に変換するこの(1,4)式をガウスの定理といいます。なお、

\nabla \cdot \mathbb{E}=(\frac{\part \mathbb{E}}{\part x}+\frac{\part \mathbb{E}}{\part y}+\frac{\part \mathbb{E}}{\part z})

を発散div、または湧き出しといって、
微小な箱の中を通過する水量の単位時間における変化量を表しています。

3.微分系のガウスの法則

さてガウスの定理(1,4)式と、積分系のガウスの法則(1,2)式から、


\int_{V}\nabla \cdot \mathbb{E} dV=\frac{1}{\epsilon_o}\int_{V}\mathbb{\rho} dV

となって、ここから微分系のガウスの法則

\nabla \cdot \mathbb{E}=\frac{\mathbb{\rho}}{\epsilon_o}

(1,5)
が導かれます。これは位置x、時間tを含んだ関数として、実は

\nabla \cdot E(x,t)=\frac{\rho(x,t)}{\epsilon_o}

としても成り立ちます。
この式が意味するところは電場は電荷の密度分布として割り出されるということです。
つまり微小な箱から出てくる電場の量はその箱の中にある分布している電荷量に比例し、
電荷が分布していないとき、電場がないか、または電場が素通りしていくことを表しています。

4.チャクラ場

それでは電磁気の考え方をそっくりそのままチャクラにあてはめてみましょう。
すなわち微分系のガウスの法則


\nabla \cdot \mathbb{E}=\frac{\mathbb{\rho}}{\epsilon_o}

を用いて、\mathbb{\hat{E}}をチャクラ場、\mathbb{\hat{\rho}}をチャクラ密度とし、
新しく比例定数{\epsilon_t}を与えれば

\nabla \cdot \mathbb{\hat{E}}=\frac{\mathbb{\hat{\rho}}}{\epsilon_t}

チャクラ場はチャクラ密度に依存している、と見なすことができます。
ところで電場は電荷に対して電場の方向に(電場の大きさ)×(電荷量)だけの力を与えます。
この力のベクトルを\mathbb{F}とするなら、

\mathbb{F}=Q\mathbb{E}

です。チャクラ荷量\hat{Q}とするなら、チャクラ場からチャクラ荷が受ける力は

\mathbb{\hat{F}}=\hat{Q}\mathbb{\hat{E}}

と見なせます。一方、チャクラ荷量はチャクラ密度の体積分ですので、

\hat{Q}=\int \mathbb{\hat{\rho}}dV

つまりチャクラ密度によってチャクラ場とそこから受ける力の関係が以下の3式に集約されます。


\reverse \nabla \cdot \mathbb{\hat{E}}=\frac{\mathbb{\hat{\rho}}}{\epsilon_t}
\reverse \mathbb{\hat{F}}=\hat{Q}\mathbb{\hat{E}}
\reverse \hat{Q}=\int \mathbb{\hat{\rho}}dV

5.結論

つまりチャクラの密度が高ければチャクラに対して強い力を及ぼすことができるということです。
チャクラには電荷で言えばプラス+、マイナス−にあたる陽と陰があります。
チャクラの陽と陰が引き合い、陽と陽、陰と陰が遠ざけるような作用があるとすれば、
離れたところから強い引力作用や斥力作用を及ぼす神羅天征という術は、
意図した空間に対するチャクラの密度の勾配をつくることで、
この作用をより顕著にしているのではないかという推論がたちます。