今回はサイの態度について考えます。

1.慇懃無礼

慇懃<いんぎん>無礼とは表面上は丁寧な態度を装っていても、
悪意のある内容の話をしたり、相手を嘲ったり蔑むような態度であるような場合や、
または丁寧すぎて、尊大に感じたり、誠意が消えうせてしまう様も表します。
過ぎたるは及ばざるが如し。難しいところですが、丁寧も行き過ぎれば、
嫌味に聞こえたり、心が籠もっていないように感じられてしまう――というわけです。
内心で侮蔑的に思っているということは、言葉では繕っていても
それとなく態度や表情に出てしまうものです。
また態度でなくても、声の調子<トーン>、喋り方に如実に出てしまうものです。
こういう意味で多く、丁寧な口調で話してるわりには
内心侮っている様に感じられてならない様を慇懃無礼と言うのです。
サイは慇懃無礼的な態度をとることを好みます。

「アハハ…そうですか?
 ボクは好きですよ。あなたの様な感じのいいブス。」

にこやかに、しかも丁寧な口調で喋りますが、言っていることは無礼千万。
悪意があるかどうかはわかりませんが、
「あなたの様な感じのいい――」まで言っといて「ブス」で突き放すのは、
サクラでなくても面食らってムッとするのも道理でしょう。
ダンゾウとの謁見に際しても、

「ワシの前でそのような作り笑いはよせ。」

とダンゾウに従順であることを示すかのような微笑みも、
わざとらしくて、かえって不興をかっています。

2.サイの生い立ち

「“根”には戦いで生じた離散家族の子が多くいてね。
 その中で兄弟の様に親しくなったのが兄さんだった。」

サイもまた離散家族あるいは孤児だったのでしょう。
ダンゾウの指揮のもと暗部養成部門“根”で育ち、
“兄さん”と慕う存在がいました。
その“兄さん”は病気で死んでしまうことになるけれども、
共に凄惨な戦いを潜り抜け成長していき、
それでも再会したときには笑いあえる、
そんな日がくることを夢見ていたサイの様子が絵本に描かれた絵から窺えます。
しかしナルトたちに気づかされるまで、その想いは忘れ去られ絵本も未完成のままでした。

「“根”には…名前は無い。感情は無い…。」
「過去は無い。……未来は無い。あるのは任務………」

“根”としての数々の任務。
感情を殺すための特別な訓練も受けたというのもあります。
それらの任務は人間らしさや情など持っていては到底為しえない任務ばかりだったのでしょう。
再び“つながり”に気づかされるまで、
サイは人間らしさつまりは感情を封印してきた、あるいはさせられてしまったのです。

「練習はしているのですが…
 まだ表情というのが上手く作れないもので………」

ぎこちない作り物の感情。それはサイ自身でも違和感を感じていた。
きっかけが自分の意志かどうかは分かりませんが、
サイは失ってしまった感情や表情を自分なりに取り戻そうとしていたように感じられます。

3.態度

「そんなにジロジロ見ないで下さい。ぶんなぐりますよ。」
「てめーはいちいちムカツク言い方しやがるな! コラ!」
「別に悪気があるわけじゃないよ。」
「うそつけ!」
こういうキャラ位置を狙っていこうとしてるだけだから。
「やっぱ悪気あんじゃねーかよ!」

このナルトとサイの会話の流れにおいて、
サイがキャラ位置という言葉を使います。
この発言はナルトやサクラがこういう人間性を持っているから、
自分はあえてこういう人間性をアピールしていこうという形に見えますが、
感情がいまいちつかめていないサイにとっては、まったく意味をなさない行為です。
なぜこのように振舞うのでしょうか?
冒頭で慇懃無礼として触れましたが
サイはこのように反感を買ってしまうような態度をよくとります。
慇懃無礼である人の特徴としては自尊心が高く、
それが嫌味につながる傾向があるようですが、
サイの場合自尊心も何もないといえるでしょう。あるのは任務を遂行することのみです。
しかし…

「アナタは言うほど感情を捨てきれていない…
 忍だって感情を捨てきることは出来ないのよ。」
「アナタがその本を手放したくない理由…
 それは弟としての自分を捨てることが出来ないでいるから………
 何故だか分かる…?
 アナタにとってそれだけお兄さんとのつながりが大切だったからよ。」

サイは自作の絵本を大事に持っていました。
それはサクラの言うように“兄さん”とのつながりがとても大切だったから。
“兄さん”と自分、その存在を確かにしてくれるものだったからです。
しかしサイには“根”という自分自身の存在意義が自分の意志で決められない境遇にあって、
自分の存在を肯定してくれるものは絵本だけでは弱かった。
だから、人の反感を買うことで、
いわば構ってもらう形で自分という存在を確かめなければ気がすまない、
そんなアイデンティティを無意識のうちに形成していったのかもしれません。