【多重影分身の回転系1・微小回転】*1
【多重影分身の回転系2・慣性系と回転系】*2
ではなんだかたくさん数式が出てきましたが、
この記事では遠心力について簡明な結論が出ます。
数式が苦手な方も3.結論をご覧になっていただければと思います。

1.遠心力と転向力コリオリ力)の方向と大きさ

さて、遠心力と転向力はベクトルの外積表示で、

○遠心力 -m\mathbb{\omega} \times (\mathbb{\omega} \times \mathbb{r})
転向力 -2m\mathbb{\omega} \times \mathbb{v}_{\sigma'}

と表されるのでした。
前回までにちょっと煩雑な計算を経てまで、なぜこの式を導出したかというと、
遠心力と転向力方向大きさを求めるためだったのです。
さて前回導出した運動方程式


m\mathbb{\a}_{\sigma}=m\mathbb{\a}_{\sigma'}+2m{\mathbb{\omega} \times \mathbb{v}_{\sigma'}+m\mathbb{\omega} \times (\mathbb{\omega} \times \mathbb{r})}

(2,13)
を回転系で見るために、\mathbb{\a}_{\sigma'}を主体とした式に書き直すと、

m\mathbb{\a}_{\sigma'}=m\mathbb{\a}_{\sigma}-2m{\mathbb{\omega} \times \mathbb{v}_{\sigma'}-m\mathbb{\omega} \times (\mathbb{\omega} \times \mathbb{r})}

(3,1)
を得ます。回転系において、

○遠心力 -m\mathbb{\omega} \times (\mathbb{\omega} \times \mathbb{r})
転向力 -2m\mathbb{\omega} \times \mathbb{v}_{\sigma'}

の項が出てきました。
さて、外積表示にしたがって遠心力と転向力の項を見てみると以下のようになります。
(図は回転方向ベクトル\mathbb{\omega}をZ軸に重ねて書いてある。)



【図1】

なお外積ベクトル\mathbb{a} \times \mathbb{b}において、
ベクトル\mathbb{a}\mathbb{b}の向きに回転させるとき、
その回転の向きにあわせて右ネジが進む方向に新しく定義されるものでした。よって、
\mathbb{\omega} ,\, \mathbb{r} ,\, \mathbb{v} ,\, \mathbb{\omega} \times \mathbb{r} ,\, \mathbb{\omega} \times \mathbb{v}_{\sigma'} ,\, \mathbb{\omega} \times (\mathbb{\omega} \times \mathbb{r})
は【図1】に従うと次の様なベクトル配置になります。



【図2】

最後にマイナスがつくので、【図1】のような方向が決まります。
次にこれらの力の大きさですが、それぞれのベクトルの大きさを
|\mathbb{\omega}|=\omega ,\, |\mathbb{r}|=r ,\,|\mathbb{v}_{\sigma'}|=v
とするなら、
○遠心力の大きさ |-m\mathbb{\omega} \times (\mathbb{\omega} \times \mathbb{r})|=mr{\omega}^2
転向力の大きさ |-2m\mathbb{\omega} \times \mathbb{v}_{\sigma'}|=2m{\omega}v
です。

2.ナルトと遠心力、見かけの力

さて、遠心力や転向力なるものを見てきましたが
これらは慣性力(見かけの力)であるというのがポイントなのです。
この例で言えば分身体が本体を中心に回転する、つまり円を描くときに
回転を外から見る(\sigma)と中心方向への力m\mathbb{\omega} \times (\mathbb{\omega} \times \mathbb{r})が常にかかっていることが分かります。
しかし、ともに回転しながら見る(\sigma')場合、
つまりナルト本体から見れば分身体にそんな力が働いているようには見えず、
分身体が中心に向かう力が遠心力-m\mathbb{\omega} \times (\mathbb{\omega} \times \mathbb{r})であたかも打ち消されて見えます。
また回転する円盤の外側から見たとき(\sigma)回転面を等速直線運動している物体は、
円盤とともに運動する人から見る(\sigma')とあたかもその軌道が曲げられているように見えます。*3
このとき移動方向と垂直な力が移動速度に比例する形で、
転向力-2m\mathbb{\omega} \times \mathbb{v}_{\sigma'}が見かけ上働いていることが分かります。
この見かけの力は等速運動系に対して加速度運動系(加速系や回転系など)に移るとき強く感じられます。
例えば電車に乗っていて、急発進した場合や急停車した場合、カーブに差しかかったときなどです。
このように“見かけ”とはいっても実際に働く力なのですが、
観測する人がどのような運動をしているかによって、
物体に働いている力が“変わって見えてしまう力”なので見かけの力といいます。


もう少し遠心力について詳しく見てみましょう。




図のようにナルト本体と分身体の回転運動が
ある時間を経て、角速度が一定、
本体の回転軸と分身体との回転軸が一致するような運動になったとします。
このとき分身体をひきつけて円運動させる力(向心力)と遠心力はつりあっていて、
回転する腕の長さも一定(肘の曲げ伸ばしが無い場合)であれば、転向力も働きません。
ある瞬間本体側がパッと手を離すと、
回転運動の系から解き放たれた分身体は無回転運動の系に入り、
分身体は回転速度が引き継がれる形の速度で運動します。
この瞬間までは分身体側はあたかも本体から引き離されるような力(遠心力)を感じていましたが、
回転系から離脱するとこのような力がかかっている感覚が消えます。
(電車ではカーブから抜け出したときに、引っ張られていた体が元に戻る感じ。)
このように見かけの力である遠心力や転向力は、
実速度(慣性系から観測する速度とする)に影響を与えない不思議な力なのです。

3.結論

そう。勢いよく回転させると“遠心力”なる力によって
速度が得られるように感じるのですが、実はそうではありません。
ナルトの分身体ハンマー投げにおいても、
結局は束縛されていた回転速度が、投擲速度につながるのであり、
ようは勢いよく回転させているから勢いよく飛ぶわけで、
そこには遠心力の関与はないのです。
じゃあその勢いのよさ、回転速度を生み出すものとは何か――が次のテーマになります。