547 『価値あるもの』

遅れ遅れで毎度申し訳ありません。
しかしなんとか記事は書いていきたいと思いますので、
どうか優しく見まもっていただければ幸いです。

今話も重要な話でした。
両親を失ったけれど信じ続けられ託されたナルトと
片親を失って、もう片親に疎まれ続けられた我愛羅
行き着いた答えは結局同じでした。
そのテーマに隠れて合間に世代交代の話。
濃い回です。

1.価値あるもの(1)

「…お前が人柱力ではない!?
 どういう事だ?」

事態が呑みこめていない様子の我愛羅の父。
我愛羅に起きた劇的な変化を、
知る由もなかったので当然といえば当然でしょう。

「今アンタ達を操ってる輩共に、
 守鶴を抜き取られ、オレは一度死んだ。
 だがチヨ様と友の力で、
 オレはこうして甦った。」

我愛羅の言う事がいまだに信じられない
という様子の四代目風影。

「…あのチヨバアがそんな事を!?
 それに友だと!?
 お前に友ができたというのか!?」

我愛羅の幼少を知る身として、
我愛羅に友と呼べるものができたというのは、
藪から棒といった話なのでしょう。

「おいおいどんだけ寂しいガキだったんだよ。アイツは?
 友達ぐらいいて当然の歳だろ。」

二代目水影も思わず口を出します。

「父さま。アナタに六度殺されかけ…、
 その度にアナタを恐れ恨んできた…。
 だが今はもうアナタを恨んではいない…。
 アナタのやろうとした事も理解できる…。」

しかし我愛羅は幼くして人柱力となりました。
力を制御しきれず、父親自ら手を下すような事態が、
六度もあったのです。
孤独と憎悪に包まれた日々を送ってきた我愛羅
当然、父である四代目風影も、
そのことはよく分かっていたはずです。

「オレも風影となった今、
 里を守るために里への脅威を排除するのも…、
 長の役目だ。」

時を経て我愛羅は成長します。
心の痛みを知り、
苦しいのは自分だけではないこと、
そして支えあうことの大切さを知ります。
風影となってその重責も。
父親がなそうとしていたこと、
里を守るために我が子を歯牙にかけるようなマネをしたのも、
最初から自分が憎まれていたゆえでないことも知ったのです。

「風影に…なった…お前が…?」

と驚く我愛羅の父。
まだ彼の眼に映っているのは、
幼き日の我愛羅のままなのです。

「それだけではない…。
 今や忍連合軍戦闘大連隊連隊長じゃぜ!
 この若さで影を名乗っておるが、
 他の影も皆一目置いとる。」

三代目土影・オオノキが加勢します。

「やはりそうか…。
 各里のあらゆるチャクラ系が感じられて、
 おかしいとは思ったが…、
 忍同士連合を組んでいるとはな。」

と二代目土影・無。
鋭敏な感知能力で自里以外の忍のチャクラを感じ取り、
忍同士が連合を組むただならぬ様子を察した様です。

「眉無しにゃカリスマってもんが、
 面に出ちまうんだ。これがよ!
 おっと! そういやオレも眉無しだったぜ!」

「ならそのチョビヒゲもか? 水影。」

「おい。お前ら殺るならこの包帯ヤローから先にやれ!
 ものすごい応援してやるぞ!」

とまぁ二代目水影と二代目土影の間で
一悶着あるのは尻目にしつつ、

「お前の息子か…。いい忍だな。」

と三代目雷影。
このとき自分の息子(エー)はどうしてるのだろう、
とふと思ったに違いありません。

四代目風影の脳裏には、
我愛羅の出産の日の光景が思い浮かびます。

「小さいな…未熟児か…。
 これで本当に大丈夫なのか?」

と立会人のチヨバア我愛羅の父は訊ねます。

「だが適合はしておる。
 三人目にしてやっと適合できると分かったのじゃ。
 この子を大切に育てていくしかあるまい。」

おそらくテマリもカンクロウも、
守鶴の人柱力として何らかの条件が合わなかったのでしょう。
だからこそ里にとっても待望の第三子だったと思われます。

「赤ちゃんの顔を見せて…」

息も絶え絶えで顔色も良くない我愛羅の母・加瑠羅。
未熟児の我が子を見て、

「…なんて小さい子…」

ともらします。


未熟児からなんとか大きくなった我愛羅

「あの子も失敗じゃ……
 暴走が起き始めた。」

しかし感情や守鶴の力をコントロールできず、
人を殺めてしまいます。
頭を抱える我愛羅の父。

「これ以上里の軍縮が進めば、
 砂隠れは弱体化し取り返しがつかなくなる。」

「他国との取り引き材料を集めておかねば。
 それに守鶴をどうにかせんと!」

「人柱力が役に立てぬ以上、
 風影殿に新術の開発と砂金による取引で、
 里の安定を図ってもらう以外ない。
 そして我愛羅は…」

里の会議で次々に挙がる声。
人柱力は抑止力であり、砂隠れのある種の砦。
他国に付け入る隙を与えないためにも、
守鶴をコントロールできていなければなりません。
しかし我愛羅では問題がある。

「夜叉丸…後で話がある。」

疲れたように四代目風影は夜叉丸を呼びます。

2.価値あるもの(2)

「しかし…まだ我愛羅様は…ほんの子供…」

会議でもあがった我愛羅の処分。

「オレは今まで色々なものの価値を見極めてきた。
 …あいつの価値も見きわめねばならん。
 明日我愛羅を見きわめる…。
 里の人々を避難させた後で我愛羅を追い詰めろ。」

この際、我愛羅の父としてではなく一風影として、
非情な決断を下します。

「母の事を語り精神的に追い詰めるんだ。
 それでも暴走がなければ我愛羅の処理は見送る。」

我愛羅の心の拠り所である母・加瑠羅。
それを奪ってしまうようなことが、
いかに残酷であるか、
そしてどのような結果を生んでしまうか明白でしょう。

このとき四代目風影はわかっていたはずなんです。

「姉の…!
 本当にそれでいいのですか?」

当然の如く戸惑う夜叉丸。

「あいつが母・加瑠羅の事を
 心から敬愛してるのは知っている…
 だからこそそれを取り上げても
 暴走を押さえられるぐらいでなければ、
 人柱力として務まらぬ!」

と風影。
もちろん八尾や九尾の人柱力を我々は知っているので、
先に結論を述べるとすれば、これは全くの逆効果です。
"心の拠り所"があるからこそ、
人は強くあれるし、優しくもあれる。
それを我愛羅のあんな幼い時分に、
しかも唯一の"それ"を奪ってしまうことが、
どんなに辛く悲しい悲劇を生むことになるのか――
このときの風影は決断を急ぐあまり、
そして周りに急き立てられるあまり
誤った決断を下してしまったといっても過言ではないでしょう。

「しかし…姉さんはアナタの身を案じ、
 愛してこの名を付けたんじゃない…
 アナタが存在し続けるようにとその名を付けたのは、
 この世を恨んで呪いながら死んだ姉さんの怨念を、
 この世に存在させ…残し…知らしめるため…!」

あの時、世話役であり一番の味方であるはずの夜叉丸が
我愛羅に向けて言い放った言葉。

「アナタは愛されてなどいなかった。」

その言葉がどんなに我愛羅を傷付け、追い込んでしまうか、
夜叉丸も重々理解していたはずです。
思っていないことは口には出ません
風影の言葉が無ければ、
夜叉丸の奥底に眠っていた感情を呼び起こすことも無かった。
最初から夜叉丸は我愛羅を憎みつづけていたわけなどない。
でも、我愛羅にとっては、
夜叉丸の存在がそのようにうつってしまうに足るものでした。
全てを失ったように追い込まれた我愛羅は、
号泣するように守鶴と成り果て、暴れだします。

やはりダメか…。
 我愛羅は失敗作だった…。」

と語るように風影には結果は分かっていたのです。
あのとき処分を急ぐあまり、
我が子を信じきることができなかったのです。

「もう一度…お前の価値をオレ自身で確かめてやる…。
 …さあオレを越えてみろ。」

あの日あの時を呼び起こしながら、
四代目風影は我が子である五代目風影・我愛羅に言います。
さて一方で岩隠れサイド。
弟子のオオノキに二代目土影・無は次のように言います。

「オオノキ…。
 オレを止めろ…。
 塵遁を使うオレに人数は関係ない。
 お前しかオレを止められん。」

それに対して静かにオオノキは頷きます。

「後は…戦争で同盟を結んだ後のやり方は覚えてるな?
 戦争終結時点から同盟とは戦利品の奪い合いになる。
 そこで勝った里がその後主権を握る。」

と無。もちろん他里の影からは非難囂々です。
しかしオオノキはそれに対しては縦に首を振りませんでした。

「今回はそんな事をやるつもりはないのです――無様。」

時代は変わりました。
忍連合の本質と、他里との共存を理解しているオオノキ。

「……そうか……。
 どうやらガンコじじいにゃならなかったみたいだな。」

と無も察した様子。

「とにかくオレらは体が思うように動かねェ。
 敵の術に対して対処するよう体が勝手に動いちまう。
 さっさと殺してあの世へ戻してくれ。
 弱点と能力は教えてやっから。」

と二代目水影。
もう後に託すものは託しているという感じです。
後代の忍たちの力を信じています。

「とにかくワシ達の動きを止めろ!
 簡単にはいかぬだろうが。」

と三代目雷影も言います。
我愛羅の父の砂金と我愛羅の砂の術がぶつかり合うのを合図に、
戦いの火蓋が切って落とされます。
一斉に突撃しはじめる忍連合の忍たち。

「(砂金の砂を上に上げさせたといたのか。)」

我愛羅の砂霰の術。
被弾を防ぐために上空に砂金の壁を張った四代目風影の父。
しかしそれは囮攻撃でした。
下方から伸びた砂の塔が人型となって、
先代の影たちを縛り付けます。
その形を見た四代目風影は一目見て、

「(…加瑠羅、お前が…
  まだこの子の中に……)」

それが加瑠羅であると分かりました。

「成長したな…我愛羅
 親ってのはただ…子供を信じてやればいい。
 たったそれだけ…そこに価値がある…

そして気づいたのです。
あの時、我が子を信じ切れなかった自分。
そして信じぬくように守り続けている加瑠羅。
何よりも友を得、影にもなり成長した我愛羅

「そういう事だな加瑠羅よ…。
 どうやらオレに……
 ものの価値を見る才能は無かったようだな。」

そう語る父の言葉に戸惑う我愛羅

「………どういう事だ…?」

我愛羅の父は静かに答えます。

「砂がいつ何時でもお前を守る…。
 それは守鶴の力ではなく…
 お前の母、加瑠羅の力だ。」

守鶴を抜かれたはずの我愛羅が、
砂の術をまだ駆使できる理由。
その長い長い伏線が物語中でようやく明かされます。
加瑠羅が我愛羅を守っていたのです。

「…なんて小さい子…
 どんな事があっても私が守っていくからね…
 …我愛羅。」

生まれたばかりの小さい我が子に微笑みかける加瑠羅。
鮮明にその光景が四代目風影によみがえります。

「お前は母に愛されていた。」

そして、そう我愛羅に告げるのです。
ところで六度も我が子を手にかける事態があったにも関わらず、
仕留め切れていなかったのは、
きっと四代目風影自身の中にも
非情になりきれていないところがあったのだと推察されます。
それを自身の甘さと認識していたかもしれません。
でも"父親であるまえに風影"でなくて、
"風影であるまえに父親"であって当然なのです。
苦境を窮めてしまっていた砂隠れですが、
もっと他の道があったと思われます。
ものの価値を見る目がなかったという悔恨の言葉は、
我愛羅への謝罪であるとともに、
風影としてでなくて父親としてもっと我愛羅に接したかった
という気持ちの表れであったのかもしれません。