531 『再会、アスマ班』

遅くなりました。
タイトルの“落魄”とは落ちぶれるという意味です。

1.再会、アスマ班(1)

「オレ達は覚悟できてます…。
 だから…先生も覚悟してもらわねーと。」

アスマと対峙するチョウジ、シカマル、いのの三人。

「チョウジ…、シカマル…、いの…。
 本当に立派になったな。」

そのアスマの言葉に思わず涙ぐむチョウジやいの。

「…アンタのおかげだ…!」

涙をこらえシカマルたちはアスマへ向っていきます。

半蔵の放った毒攻撃にやられた奇襲部隊ですが、
駆けつけた侍たちに助けられます。

「助太刀無用!
 斬られたくなくば、ワシの間に入るな。」

若輩の侍たちを行かせ、半蔵に刃を向けるミフネ。

「ミフネ…。なぜ、お前が忍に付く?
 時代遅れの侍を貫き通してきたお前らしくもないな…。」

忍と侍。半蔵が存命の時代では、すでに侍は時代遅れのものとなっていた模様。
かつて戦国の世のように、忍界大戦が起こりましたが、
実は侍の力が弱まったことをきっかけとなって
引き起こされたものであることが、想起されるような台詞です。

「もはや忠を尽くす主無き侍が忍に与するとは…。
 それでも侍か?」

――と半蔵。

「忍に与した訳ではない。
 我らが忠を尽くすものははるか昔より同じ。ただ一つ…。
 でござる。」

そうミフネは反論します。

「和に忠を尽くし、己の信念の下、動く!」

とはおそらくb>秩序。
それも各人が幸福ありき秩序だと、私は思います。
ゆえに“つながり”が存在し、“信念”が存在し、
そしてそこから自然的に忠が発生するようなそんな秩序

それを司る主に侍は仕えていた――
いや、本来侍はそうあるべきだ、――だった。
と考えミフネは侍を貫いてきたのだと考えられます。

「死んだフリではないぞ!
 分かってるな、カンクロウ!」

カンクロウに声をかけるチヨばあ。

「そんな事より、半蔵は毒の山椒魚を操る!
 昔はよー戦った仲じゃ!
 だから解毒の調合リストも知っておるし!
 山椒魚は体内に毒を生成して溜めるのに、
 5分はかかるのも知っておる!」

と有益な情報をカンクロウたちにだだ漏れさせるチヨバアに、
思わず半蔵は舌打ちをします。
君麻呂の屍骨脈と侍たちの刀の激突が始まったのを皮切りに、
ミフネと半蔵の戦闘も火蓋を切ります。
一気呵成で鎖鎌で攻め込んで来る半蔵。
鎖と鎌の連携波状攻撃をかわしながら、ミフネは攻撃の機を窺います。

「そうにらむな…。
 かつてワシも“和”を目指し五大国をまとめ、
 忍の世界を一つにしようとした事もあった。
 そんなものはないと、すぐに悟ったがな。」

半蔵は語りだします。

「戦い、戦い、戦い。
 …後には何も残らぬ死だけだ!
 和に忠を尽す?
 …フン…その侍が今やどうなったか、
 お前が一番分かっているハズだ!
 多くの侍が忍へとくらがえし、流派も忍へと流れた。
 侍はもはや役目を終え、
 和への忠もなく、金で融通が利き、
 強い忍術を使う忍にその役目を取って代わられた。
 だがその忍さえ淘汰され死ねば何も残らぬ。」

半蔵もかつてはこの混沌とした世の中を憂い、
和――、秩序や平和を目指し、五大国という強国を相手に、
己の信念を全身全霊でぶつけて、日々を戦い抜いてきたのでしょう。
しかし、きっと何か、それが無駄だと思えてしまうような、
大きな悲しみが彼を襲ったのかもしれません。
絶望、悔恨、…そういった感情が彼を大きく支配してしまった――。
そして、生き死にが全て、という中に、
彼は信念を捻じ曲げてでも生きる道を選んだのです。

「それは違う。生死の問題ではない。
 和のため己の命を削る事になろうが構わぬ!
 己を突き動かすのは信念!
 …貴殿は信念を曲げたのだ!」

半蔵に真っ向から反論するミフネ。

侍道において人は刀そのものだ。
 人もこの名刀黒澤のように残っていくものとする!」

名刀のように朽ちることなき人の想いや信念――
“つながり”によって受け継ぐ者に受け継がれ、
そしてまたつながってゆく。
それは生死すら超越したものなのです。
“つながり”を絶やすことが無い限り、不滅とよべるものでしょう。

「人と刀を一緒にするな!
 鉄の塊に何を見いだせるというのだ!?
 侍の切腹もそうだが…、
 なぜお前ら侍は自ら命を削り消えようとする?」

半蔵は気がついていないのです。
たとい侍から忍にくらがえしようと、
その流派を絶やさんと選択した先人たちの想いを――。
残念ながらその世の世知辛さを跳ね返せるまでに至らなくとも、
なんとか必死に“つながり”を保とうとした強靭な精神を――。
半蔵はそれを信念を曲げたものとして見ているのです。
もちろん人間として目先の利益にとらわれた上での選択であった
というのもその一つの側面としてはと思います。
ですが、半蔵には、その絶望にとらわれるあまり、
その先にある信念が見えていない。

2.再会、アスマ班(2)

「だから言っている…。
 信念は消えぬと。」

静かにそう言い放ちミフネは刀を構えます。
そして神速で近づいて印を結ばんと構える半蔵の先の先を打ちます。

「うわさ通りの居合いの達人。
 ミフネに忍術が効かぬとはこういう事だったか…。
 印をするスキをもらえぬとは。それに……
 さきほどの鎖鎌の二段…、
 …この手順…見抜いていてもかわせた奴は今までおらぬ。」

鎖鎌の鎖と鎌の連携攻撃。
半蔵ほどの達人ともなると、いかなる侍であれ忍であれ、
自分の攻撃を封じられ一瞬で勝負をつけられてしまうものでしょう。
しかし、ミフネはその先の先をいく居合いの攻撃で圧倒します。

「はるか昔、名も無き頃。貴殿とは一度手合わせをしている。
 …覚えてはいまいが。」

かつて若かりし頃、ミフネは半蔵と戦ったことがあるようです。
鎖鎌で刀を折られ、頭に傷を負っても、
なんとか命からがら助かった模様。
今度こそ葬らんとする半蔵に、それはできないと答えるミフネ。

「残念だがそれはできぬ。
 最初の人たちで、あれほど強かった貴殿が、
 なぜやられ殺されたのか分かった。」

半蔵がなぜ信念を曲げてまですがりついた“生死”の戦いに敗れて、
殺されることとなったのか――
ミフネは悟ったようです。
半蔵の脳裏には暁の弥彦――ペインに斃されたときの記憶が甦ります。

「ダンゾウと手を組みオレ達を裏切り、
 ただひたすらに己の保身をはかる今のアンタはクズだ。
 かつてはアナタを尊敬していた。
 だがアナタは変わった。」

何が見えていなかったのか、
何がいけなかったのか、
その答えが見出せぬまま斃された半蔵。
そして再び同じ問いが突きつけられます。
山椒魚を地中にもぐりこませ、
不意をついた攻撃をはかった半蔵。
しかしミフネは居合いによって山椒魚を斬り伏せます。

「研ぎ続けた刀は名刀となり、
 受け継がれ残っていく!
 そして――深遠を貫き、身を削り、己を磨き続けた人は、
 理由となり、語り継がれて残っていく!」

信念――人はそれによって己を突き動かすことで成長するのです。
刀を研ぎ澄ませるように、想いも研ぎ澄まされて光り輝く。

「信念を曲げ、身を削る事を止め…
 己を磨く事を諦めた貴殿の技にかつての鋭さは無い!
 そのせいで刃は血で汚れサビ付いたなまくらでござる。
 なまくらでは残らぬ! 人は刀そのものだ!」

日々研鑽練磨を絶やさぬその想いと努力こそがミフネをここまでにしたのです。
人は成長する――その信念を持ち続ける限り、です。
そして同時に本当に大切なモノも生まれてゆくのです。